インディアンと戦う勇士から大統領にのぼりつめたジャクソン

 独立革命後、裕福なアメリカ人は辺境の広大な土地を買いあさった。いずれはそこを転売し、大きくもうけるつもりだった。これは“投機買い”と呼ばれるものだ。土地投機者には、初代大統領ジョージ・ワシントンや、独立運動の急先鋒パトリック・ヘンリーのような建国の父もふくまれていた。
 そして、貿易商として奴隷を売買し、軍人でもあり、将来大統領となる人物もまた、土地投機に励んでいた。それがアンドリュー・ジャクソンであり、初期アメリカ史で、もっとも無慈悲なインディアン政策を行った人物だ。
 ジャクソンは、1812年戦争と呼ばれるイギリスとの戦争で、一躍名をあげた。たいていの教科書には、1812年戦争は、アメリカの、国家としての威信をかけた戦いだった、と書かれているが、それ以上の面もあった。領土拡張のための戦いでもあったのだ。この戦争により、アメリカは、カナダや当時スペイン領だったフロリダ、そしてインディアンの領地へ入っていけるようになった。
 ジャクソンがはじめて戦ったインディアンは、ジョージア、アラバマ、ミシシッピ付近に住んでいたクリーク族だった。1812年戦争のさなか、クリーク族の戦士は、アラバマの砦で、250人の白人を虐殺した。報復としてジャクソン軍は、クリーク族の村落を焼き払い、男だけでなく女や子どもも殺害した。1814年、ジャクソンは、ホースシューベンドの戦いで国民的英雄にのしあがる。自軍の被害は最小限にとどめながらも、1,000人のクリーク族のうち、800人を殺したのだ。じつはジャクソンの勝利は、味方についたチェロキー族のおかげだった。政府は、この戦いで加勢してくれたら友好的に遇する、とチェロキー族に約束していた。ジャクソンの白人部隊はクリーク族への襲撃に失敗したものの、チェロキー族が川を泳いで背後からクリーク族に接近し、ジャクソン側に勝利をもたらしたのだ。
 1814年に戦争がおわるや、ジャクソンはみずから条約交渉の役につき、クリーク族の土地の半分をとりあげる条約を結んだ。そして、友人たちとその土地を買いあさった。
 一方この条約によって、インディアン社会には思いがけない変化がもたらされた。そもそもインディアンには、個人が土地を所有する、という考えはなかった。ショーニー族の首長テカムセがいったように、〈土地はそれぞれが使えるように、全員に属している〉と考えられていたのだ。ところがジャクソンとの条約によって、インディアンは個人で土地を所有するようになり、土地の共有という伝統は破壊された。そして、土地をワイロにしてある者をだきこんだり、ほかの者を排除したりして、インディアン同士が対立するようになったのだ。
 それからの10年、ジャクソンは、南部のインディアン部族とさらに多くの条約をかわした。力ずくで、あるいはワイロやペテンを用い、アラバマとフロリダの4分の3、テネシーの3分の1、ほか4州の一部を白人のものとした。こうして手に入れた南部の土地には、綿花王国の基礎が築かれ、白人が所有するプランテーションでは、黒人奴隷が働かされることになる。
 まもなく白人入植者は、スペイン領フロリダとの境に達した。そこにはセミノール族が住んでおり、逃亡した黒人奴隷もかくまわれていた。自国の防衛のためには、アメリカはフロリダを支配下に置かなければならない、とジャクソンは主張した。これは、ある国がほかの国へ征服戦争をしかけようとするとき、現代でもしばしば使われているフレーズだ。
 1817年から翌年にかけて、ジャクソンはフロリダを急襲し、セミノール族の村を焼き払い、スペイン軍の砦を奪いとった。そこでやむなくスペインは、アメリカへフロリダを売却することに決めた。ジャクソンはこの新しい領土の総督となり、友人や親類縁者に、奴隷の買いつけや土地の投機買いについてアドバイスした。
 1828年、ジャクソンは第7代アメリカ大統領に選出される。ジャクソンと、彼みずからが後継大統領に指名したマーティン・バン・ビューレンのもと、アメリカ政府は、7万人のインディアンを、ミシシッピ川東部の彼らの故郷から移住させることを決定した。この強制移住について、政府高官のルイス・キャスは、あの〈野蛮人ども〉は〈文明社会と接触していては〉生きていけないからだ、と説明した。
 キャスは、ミシガン準州(まだ州としての地位をえていない地域)の総督だったとき、インディアンから何百万エーカーもの土地を奪っていた。また、1825年のショーニー族とチェロキー族との条約会議では、この2つの部族がミシシッピ川西部へ移動すれば、〈アメリカ合衆国は、そこの土地まで求めることはけっしてない〉と、インディアンに約束した。キャスは、ミシシッピ川から先の土地は、永遠にインディアンの領土とされるだろう、と請け合っていたのだ。
 
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