国家の大義
世界が絶賛したこの国のかたち
前野 徹・著  講談社+α新書

 まえがき――世界最高峰の精神文明

 私は歴史を通して、日本の伝統、日本人の精神を語り続けてきました。私か歴史と伝統の語り部を務めてきたのは、それが先人から託された私の使命だと考えているからです。
 若き日、私は幸いにも伝統の魂を継承する戦後の指導的立場にあった経済界の諸先輩、文化人の方々と接する機会を得ました。永野重雄さん、五島昇さん、鹿内信隆さん、今里広記さんといった戦後の経済を支えてきた財界人や小説家の山岡荘八さん、作曲家の吉田正さん、棋士の升田幸三さん……。諸先輩方が当時、熱く語っていたのは、GHQ(連合国軍総司令部)の占領政治によって失われていく、日本人の伝統の精神、真実の歴史でした。私と石原慎太郎さんは末席で、諸先輩の熱気あふれる会話をうかがっていました。
 あれからはや半世紀の歳月が流れました。気がつけば、欧米の「個」の価値観がすっかり定着し、社会にはエゴイズムがあふれています。日本伝統の「公」の精神は、跡形もなく消え、本能むき出しの日本人が街を闊歩し、倫理観、道徳観なき凄惨な殺人事件や、役人、企業人の不祥事が後を絶ちません。
 諸先輩が当時、最も危惧していたのも、欧米の価値観の植え込みという洗脳による日本人の精神破壊でした。それが今、現実のものになっています。
 先人たちから託された日本人の魂を受け継ぐという責務を果たせなかった私は今、無力感に包まれるとともに、我が責任の大きさを痛感しています。
 日本を無惨な国にしたままでは、死んでも死にきれない。あの世に召されても、諸先輩に合わせる顔がありません。この命が尽きるまで、やれるだけのことはやらなければならないと決意を新たにして、筆を執っています。
 平成16年末、肺ガンで生死の境をさまよい、癒えたとはいえ、正直、体力は以前のようには戻りません。しかし、筆を握ると自分でも不思議なくらい気力が湧いてきて奮い立ちます。諸先輩の悲痛な魂の叫びが、私を後押ししてくれているのではないか、と日々感じています。
 本書に記したように、日本人は世界最高峰の精神文明に到達した民族です。その心はみなさんのなかにも生きています。我が魂の声に謙虚に耳を傾ければ、みなさんにも先人の悲痛な叫びが聞こえるはずです。
 先人たちの遺してくれた崇高な精神文明をこのまま埋没させては、後世の日本人にも申し開きできません。今からでも決して遅くはありません。我が心の内なる先人の魂を呼び起こし、「失われし60年」を超えて、日本人の精神復興に立ち上がろうではありませんか。
 
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