国家の大義
世界が絶賛したこの国のかたち
前野 徹・著  講談社+α新書

 反日日本人と無日日本人

 日蓮聖人の訴えが人々の心に届いたのは、日本に「公」と「和」を大切にする精神が生き続けていたからです。この意味では、蒙古襲来の阻止は、先人の精神遺産の勝利だと言えるかもしれません。
 翻って現在の日本はどうでしょうか。亡国の危機に陥る国難がやってきたとしたら、果たして、国を守れるでしょうか。「国家の防衛」が国の大義となり、一丸となって、外敵に立ち向かえるでしょうか。残念ながら、自信を持って首を縦にはふれません。
 戦後、左翼思想の普及で、反日日本人が急増しました。反日日本人は、祖国の歴史を全否定し、社会主義国家こそが理想社会だと主張しました。
 それが自らの確信から発しているものならまだしも、その出発点にあったのは、社会主義国であったソ連共産党の陰謀です。
 ロシア革命の直後、レーニンは「ソビエト」を守るため、コミンテルンを組織し、全世界に支部を置きました。そして32年テーゼ、36年テーゼで日本の左翼勢力に大きな役割を与えます。天皇制打倒と日本の転覆です――。
 その根底にあったのは社会主義というイデオロギーを借りての日本の侵略でした。戦後、これをうまく利用したのがGHQです。GHQは日本という国の解体に活用するため、左翼勢力を優遇した。そのため、戦前、戦中に弾圧されていた左翼は息を吹き返し、大きな勢力になりました。反日勢力の根底にあるのは、日本の転覆ですから、国難にあたって彼らが防衛のために立ち上がるはずはありません。
 しかし、ある意味でもっとやっかいなのは、次の世代に現れた無日日本人です。無日日本人とは、日本がない、国家がない、そうした日本人を指した私の造語です。
 祖国を否定する反日思想は、自己否定にしかつながりません。しかも、ソ連の社会主義が崩壊し、そのイデオロギーも化けの皮がはがれました。ところが、日本の歴史を否定する親の世代の影響によって、国家とは個人の権利を阻害する存在であると刷り込まれた人々が生まれたのです。その結果、日本という国の言貝という概念がまったくない
日本人が大量につくり出されました。無日日本人です。
 反日日本人には、敵対する対象として、裏を返せば、まだ日本がありました。しかし、無日日本人には初めから国家の存在が希薄で、国に無関心なので、国家の危機だといっても、まったく理解しようとしません。「このままでは日本はアメリカの属国になる、51番目の州になる」と警告を発しても、「そっちのほうがいい。むしろ格好いいよ」などと言い出す始末です。
 さらに戦後の病は進み、現在、新左翼という新たな勢力も台頭しています。これに関しては後で詳しく触れたいと思います。しかし、「いざ、鎌倉」という言葉が今も残る、国の大事の時は、何を措いても駆けつけるという鎌倉武士の気概は、現代の日本人には到底、望めません。近い将来、日本民族が流浪の民になってもおかしくはありません。
 
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