60年たっても埋められていない
日米の原爆観
松尾 文夫 (ジャーナリスト)
SAPIO 2005年8月25日号 

 投下から60年という長い年月を経たいまも、原爆は深い爪痕を多くの人々に残したままだ。厚生労働省の疾病・障害認定審査会の議事録によれば、平成16年3月末現在、国に原爆症と認定されている人は2271人。しかし、この認定者数がイコール身体の不調に悩まされている人々の数ではない。
 被爆者健康手帳を取得している人は約27万4000人といわれ、その大多数は原爆症とは認定されていない。そのため、いまも多くの被爆者が原爆症の認定を求める訴訟を起こしている。
 また最近の研究では、放射能をあびた本人だけでなく、二世、三世への影響も指摘されており、原爆が起こした爪痕は、これからも消すことはできない。

 ところが、原爆を投下した米国では今年2月、ラスベガスに「核実験博物館」という、いわば核を見せ物にしたミュージアムがオープン。キノコ雲のTシャツなど様々なグッズまで売られ、大盛況だという。
 そして、相も変わらず彼の地では、「広島と長崎に投下された原爆は、戦争終結を早めた秘密兵器であり、多くのアメリカ人を救い、さらに多くの日本人を戦火から救った最大の功労者だ」という神話がまかり通っている。
 そのため、米国では、「広島と長崎で非戦闘員も含めた20万人以上の人間が死亡した」という事実は一般には知られていない。ましてや、いまも原爆の後遺症に悩まされる人々が存在していることなど知る由もない。
 日米の原爆に対する認識には、いまも大きな隔たりがある。

★なわ・ふみひとのコメント★ 
日本は世界の平和のために貢献できるのか
 「二度と同じ過ちはくり返しません」と原爆碑に刻んで反省を深めている日本ですが、当の原爆を投下したアメリカでは、一般の人には被災地の情報は何も伝わっていないのがわかります。それどころか、原爆は平和をもたらした「最大の功労者」ということになっているのです。
 これでは、世界唯一の被爆国・日本の体験が生かされることはないでしょう。人類はまた同じ過ちを犯す可能性が大きいと思うのは私だけでしょうか。日本国内で「核兵器をなくせ!」といくら叫んでも、核兵器を保有している国の国民にその叫びが届かないようでは、運動の広がりは期待できないような気がします。
 もちろん、これは日本側の努力不足というよりも、アメリカの中枢(政府やマスコミ)には最初から反省するつもりがないということです。それが国家戦略ですから、その姿勢を変えさせることはできないでしょう。
 結局、「二度と同じ過ちはくり返しません」という言葉は、「日本は二度と戦争はしません」という意味でしかないのです。敗戦国として、そう考えるのは当然のことではありますが、それは「外国から侵略されても抵抗はしません」という意味でもあり、「他の国が侵略され、多くの国民が犠牲になっていても、日本はそのことには関わりません(お金なら出しますが)」ということでもあります。「世界の平和は願うけど、自分は汗はかきたくない。まして命の危険は犯しません。でも、私の国が侵略されるときは助けに来てね」という姿勢を理解してくれる国があるでしょうか。
 
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