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 人類は21世紀に滅亡する!?
糸川英夫・著  徳間書店
 
 
 乃木大将にみる日本人の資質

 1994年4月号で月間「文藝春秋」が一千号記念を出しています。
 そのなかで、唯一、感心したのは司馬遼太郎さんの論評でした。あの人は日本の最高の科学者です。つまり、ものの見方、考え方が合理的です。論じ方がサイエンスです。
 さて、司馬遼太郎氏の最高傑作の一つは、乃木希典を描いた『殉死』でしょう。そのなかのこんな話に、私はうたれました。
 乃木希典は、日露戦争において旅順攻撃で勝利をおさめ、ロシア側の将軍ステッセルに降伏調印のサインをさせました。ちっぽけな日本が大国ロシアに戦勝したということで、終戦の調印の瞬間を伝えるために、世界中のマスコミが殺到したのです。
 このサインする瞬間を撮影するためにカメラの場所どりでたいへんな騒ぎでした。東京政府に圧力をかけて、順番に撮影場所を決めるという取り決めができるほどでした。
 ところが乃木大将は、そうした要求にすべてノーといったんです。
 「武士たるもの負ける瞬間はたいへんな屈辱の瞬間だから、誰にも見せない」
 と部屋の中に誰も入れないでサインさせました。
 「終わったあとで、敵将に軍刀を返してから、表で軍刀を杖にして並んだ写真なら撮らせます」
 とつっぱねたのです。これに東京政府は逆上したそうです。
 つまり、当時の日本政府は外国から借金をして日露戦争を戦っていましたから、これでは債権国に悪いと思ったわけです。
 ところがこれが逆でした。
 当時のニュース通信社やマスコミは、
 「日本にはまだ騎士道(武士道)というものがある。ジェネラル乃木という人は、我々が忘れている騎士道というものを持っている」
 ということでたいへん感動したのです。
 彼は日本人を救ったたいへんな人物だったわけです。このころ日本人だけが武士道(騎士道)を保持していたことを世界に示したわけです。
 戦いに勝った人は普通は得意になって、なかなかそうした態度はとれないものです。第二次世界大戦中に戦勝に際しての日本の態度も横柄なものが多かったようですし、ミズリー号艦上での日本側代表に惨めな姿で敗戦受諾の調印をさせたアメリカの態度も、決して武士の礼を尽くしたとはいえませんでした。
 あれが当たり前の国にとって、乃木はそうでないというのは非常に衝撃だったのです。
 乃木大将が亡くなったとき、世界は最後の義人を失ったということで、世界中の政府と新聞社が半旗を掲げて死を悼んだといわれているのです。乃木大将は明治天皇が亡くなった翌日に殉死しました。モラルのエッセンスみたいな人でした。
 司馬さんはそのことを小説に書いているのです。私がこの本を読んだのはエルサレムでした。PLOについての調査で行ったときです。日本人の学生が集まる寮に偶然、司馬さんの本が置いてありました。乃木大将のことを書いてある珍しい本だったので、借りていって、一晩で読んだのです。司馬さんは考え方が日本人としてはずば抜けて科学的な人間です。
 日本人でこういう考え方をする人がたくさんいたら、日本の政治や経済は大丈夫だと思います。
 私は、この乃木大将やそれを理解する司馬遼太郎氏のような考え方をベースにして、人類が滅亡しないための日本発のメッセージをつくりたいと考えています。

   ★なわ・ふみひとのコメント★
 
かつてはよく知られていた逸話ですが、いまでは話題にする人もいなくなってしまいました。教科書では、日露戦争そのものの記述も、当時の日本が好戦的であったがために起こした戦争であるかのような記述になっているようで、まさに自虐史観が植え付けられる仕組みになっています。そういう教育を受けた人たちが今度は教育者となり、悪意のないままにこの国の歴史をゆがめていくという“負”の拡大再生産が続きます。こうして真実はますます見えなくなって行きますが、1人でも多くの人がかつての日本人の素晴らしさを語り継ぐとともに、自らもそのような生き方を目指すことが大切だと考えています。
  ちなみに、乃木大将は本来であれば「大将」の上位の階級である「元帥」という呼称になるところでしたが、戦いで多くの部下を死なせてしまったことに責任を感じて、本人がそれを固辞したと言われています。

 
 
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