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 国富消尽
吉川元忠/関岡英之  PHP
 
 
 東アジア共同体構想を「汎アジア共同体」に換骨奪胎せよ 関岡

 これまで私も「米国主導のグローバリズム」という表現を使ってまいりましたが、世界史を振り返ってみると、西暦1600年の東インド会社設立以来、アングロ・サクソンが事実上、世界システムを構築してきたといえるのではないかと思います。現在、英語が国際語になり、米ドルが国際基軸通貨となっているのは偶然でも自然現象でもない。アングロ・サクソンの世界戦略の結果と見るべきだと思います。この民族は、自分たちに有利なシステムを、他の民族がその真意を見抜けないうちに世界規模で構築してしまうことに長けているのです。
  (中略)
 グローバリゼーションとは、世界のアングロ・サクソン化にほかならない。軍事力を行使せず領土を占領するわけでもなく、制度やシステムといった無形のインフラを媒介としているため目に見えず気づかれにくいですが、真綿で首を絞めるように徐々に効いてきて、気がついたときにはがんじがらめにされていて、服従せざるをえなくなっている「不可視の帝国主義」とでもいうべきものです。
 アングロ・サクソン四百年の世界統治の実績はやはり侮れない。日本人が束になってもこれを覆すのは難しいと思います。これに対抗するには、日本は他の文明諸勢力との連携を強化しなければなりません。地政学的にも、文化的にも、日本にとってそれはアジアでしかありえない。
 2004年に、戦後初めて日中貿易の額が日米貿易の額を逆転したのは、米国一辺倒以外にもうひとつの選択肢が、日本に出てきたということです。そういう意味でも歴史的な転機に来ていると思うのです。とはいっても、私はこのまま日中合従、ましてや「日中同盟」などという途方もない幻想にのめり込んでいくべきだとは思いません。
  (中略)
 日本は中国とは絶望的な確執を抱えています。近代に関する歴史認識の問題が喧伝されていますが、私はそれ以前の問題として、中国人の潜在意識に中華思想が刷り込まれているかぎり、真の相互理解は千年経っても難しいと思います。しかし日本はインドとのあいだには何の葛藤もない。むしろ、戦前の玄洋社の頭山満翁や新宿中村屋とビハリ・ホースの関係や、GHQ占領下の「東京裁判」で日本無罪論を主張したラダビノッド・パル判事を通じた深い精神的紐帯があります。この歴史的つながりを日印双方で国民感情に訴え、経済的連携と並行して強化していくことが重要だと思います。
 一方、自衛隊のイラク派遣で、いまの日本が対米従属国そのものであることが露見し、イスラーム圏では日本への失望感が急速に拡大していますが、それ以前は、イスラーム圏は世界でも最も親日感情の強い地域だったのです。
 私は以前イランを旅行したとき、通りすがりの現地の人に突然自宅に招かれ、食事をご馳走になったことがあるのですが、その人たちが日露戦争はともかく元寇まで知っていることを聞いて驚いたんです。なぜ知っているかというと、イランはイル汗国の時代にモンゴルに支配された屈辱の歴史があるからです。「日本はあのモンゴル帝国を討ち払い、帝政ロシアを打ち破り、アメリカとも互角に戦った。最後は負けてしまったが、それはアメリカが原爆という非人道的で卑劣な手段を使ったからだ。日本は資源もない小さな島国だが、武勇の国、もののふの国だ。しかも、われわれムスリム(イスラーム教徒)を一度も迫害したことがない」と、こう言うんですね。イスラーム圏を旅行すると、時としてそうした熱烈な親愛と尊敬の念に満ちあふれた眼差しに囲まれて当惑するほどです。
 残念なのは、そうしたイスラーム圏の親日感情の強さを、ほとんどの日本人が知らないことです。日本に入ってくるイスラーム報道は米国経由の歪められたものが多いため、テロのイメージや、好戦的で前近代的宗教に固執する頑迷な人々という、ネガティブな先入観を抱いている人が少なくないのではないか。私がイスラーム圏との連帯などといってもピンとこない人が多いと思います。
 しかし戦前日本のアジア主義者たちはそうではなかった。今日、「アジア主義」などと目にすると、すぐ反米親中かと短絡する人がいますが、とんでもない不勉強です。中国と15年戦争を戦っている時代のアジア主義ですよ。戦前のアジア主義とは、日本が東南アジアやインド、さらにはイスラーム圏とも連携し、対中包囲網を構築する。そうして中国の拡張主義を封じ込めながら、同時に、白人の植民地主義者をアジアから叩き出し、アジア人のためのアジアを復興する、そういう気宇壮大な世界ビジョンだったのです。
  (中略)
 イスラーム圏は米国主導のグローバリゼーションから意図的に疎外されています。反米感情が高いのも当然という気がします。それゆえ、イスラーム圏は、もしも米国中心の世界秩序に対するオルタナティブが構築されるなら積極的に加わりたいという強いモチベーションを持っています。
 いまこそ、強固な汎アジア共同体を組成する機が熟したと見るべきではないでしょうか。そしてそれこそが、日本が米国の51番目の州に甘んじることから脱却する、唯一無二の道ではないかと思うのです。

 ★なわ・ふみひとのコメント★
 
関岡氏の慧眼には敬服しますが、
中国に続いて台頭しつつあるインドやブラジルなどの国々に「世界支配層」の息のかかった人物が植え付けられていないということは考えられませんので、日本が対中包囲網を敷きながら、アメリカとも一定の距離を保ち、アジアやイスラム圏の国々と共同体を形成していける可能性はないでしょう。残念ながら、今のままでは日本はアメリカか中国の属国になる道しか残されていないのです。
  中国を除くアジアやイスラムの国々との関係を強めていくことは非常に重要なテーマですが、その中国や北朝鮮および韓国の息のかかった官僚や政治家たちによって完全にコントロールされるようになってしまった現在の日本の政治には、その選択肢は残されていません。

 
関岡氏の言う「アングロ・サクソン」の計画は、アジアを一つの勢力圏としてまとめ、その頂点に中国を据えるということです。意図的に作られた「韓流ブーム」などを通じて、いま日本の韓国化が強力に進められていますが、その裏にある意図はアジアを均一化して一つの経済圏、文化圏にしていくという大きな構想があるものと見られます。その手先となって働いているのが小沢一郎氏や鳩山由紀夫氏だというわけです。鳩山氏が沖縄の米軍基地問題を意図的にこじらせて、日米離反の構図を作った背景には、世界支配層による綿密な計画が隠されているとみるべきでしょう。「日中韓の連携」という言葉がマスコミによく登場するようになっている理由もこれでおわかりと思います。

 
 
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