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 人類を救う霊性と食の秘密
中矢伸一・著  廣済堂
 
 
 世界の代表的宗教には「食」に関する規定がある

 今、西洋における菜食の歴史は古いと述べたが、日本の歴史とて相当に古い。
 縄文時代の食生活は、日常の摂取カロリーの約8割が植物性の食物から摂っていたというデータがある。例えば、海岸沿いにある千葉県古作遺跡の縄文人の人骨の炭素と窒素の安定同位体比の分析により、主要食料カロリーの80パーセントをクリやクルミなどの植物で補っていたことが判っているし、内陸部にある長野県北村遺跡の場合も、出土した縄文人の人骨の炭素と窒素の安定同位体比を分析した結果、エネルギー源の大部分を木の実に依存していたことが判明している。
 古作遺跡の場合、80パーセントの残り、11パーセントが魚介類で、残りの9パーセントが小型の草食動物である。クマ、シカ、イノシシなどの大型動物はほとんど含まれていない。このように日本人は、縄文時代の頃より、必要なエネルギー源の大部分を植物性の食料から摂取してきたのである。
 西洋での歴史も古く、古代ギリシャにまでさかのぽる。
 彼らが菜食を実践した理由は、彼らの思考に基づいている。つまり、本当に肉体的にも精神的にもに良い影響を与える「正しい」食べ物とは何かということを徹底的に「考え」、肉食が害を及ぼすものであることを「知り」、その結論を、様々な宗教の秘義と共に、思想的に体系化していったのである。
 また、世界の代表的宗教では、たいてい食に関する戒律があり、魚介を含む動物の一切か、特定の動物を食べないという習慣がある。
 仏教、ヒンドゥー教、ユダヤ教、イスラム教などはその例で、キリスト教系の団体(セブンスデー・アドベンチスト教団など)にも菜食主義を実践しているところがある。
 仏教では慈悲の観点から、殺生を戒め、魚を含む動物性食を食べないし、同じくインドで生まれたジャイナ教に至っては、不殺生は徹底して実践されており、乳製品は認められているものの、絶対に肉、魚など、殺したものは食べない。
 彼らの道を歩く姿を見ていると、時々千鳥足のように歩くことがある。それは蟻を踏みつぶすことを避けているからである。
 仏教の不殺生については様々な解釈が行なわれており、日本国内には、かつての弘法大師や行基菩薩などの高僧・名僧のように食戒を厳格に守る僧侶は、今日ではほとんど絶無に等しくなった。
 ヒンドゥー教では、牛を神聖視することから、牛肉を食べない。牛以外の肉はその“汚れ度”で序列されており(牛→豚→鶏→羊の順)、カーストの最高位・ブラーマン(ヒンドゥー教僧侶)は、決して肉食をしない。
 ユダヤ教とイスラム教では、豚肉を食べてはいけないとされる。
 ユダヤ教の場合は、食べ物に関しては他にも細かい規定がある。それらは旧約聖書の『レビ記』第11章などに書かれてあることで、敬虔なユダヤ教徒はこれを何の疑いもはさまずに徹底して守る。また、イスラム教ではその思想の根本において菜食を重要視していることが伺われる。
  (中略)
 このように、世界の代表的宗教にはたいてい、食に関する厳しい規定がある。とくにある種の動物や魚を食すことを禁じている場合が多く、すべての獣肉や魚肉を禁じている例もある。つまりは菜食さえしていれば、こうした規定にひっかかることはないわけで、禁忌の対象となっているのは、常に動物性食なのである。
 
 
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