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 亡国日本への怒りの直言
前野徹・著  PHP
 
 
 日本に対して行なわれたアメリカの無差別爆撃こそ戦争犯罪ではないのか

 だが日本も、アメリカに対して、こう問いかけ得るのである。
 広島、長崎への原爆投下は言うまでもなく、東京、大阪、名古屋、千葉、神戸、岡山、松山といった日本の64都市をB29で爆撃し、市街地の平均43%を焼き払い、30万から90万と見積もられる無抵抗の一般市民を殺害したことは、戦争犯罪ではないのか。
 1922年に締結された「空戦に関する法規」(ハーグ条約)は、「陸上軍隊の作戦行動の直近地域でない都市、町村、住宅又は建物の爆撃は、禁止する」と定めている。
 アメリカ陸軍航空隊の将軍たちは、ヨーロッパ戦線では無抵抗の一般市民を殺戮することへの道義的嫌悪感から「無差別爆撃」を避け、精密目標をねらう「選択的爆撃」にこだわり続けた。だが、この原則は対日攻撃には適用されなかった。日本には無差別に爆撃を加えてよいと彼らは考えていたのである(ロナルド・シェイファー『アメリカの日本空襲にモラルはあったか』草思杜)。
 アメリカが、これらについて日本に謝罪したことがあるか。
 敗戦国にだけ戦争犯罪があり、戦勝国にはそれがないとでも思っているのか。
 そんなはずはないが、悲しいかな、戦後の日本人はそう思わされてきた。

 
言論弾圧をしてまで東京裁判を正当化する必要があった占領軍

 そのために東京裁判と一体となって機能した「装置」が、占領軍による徹底した言論検閲と統制であった。占領軍の言論検閲と統制、それが戦後日本に及ぼした影響を解き明かした労作に、故江藤淳氏(評論家)の『閉された言語空間』(文春文庫)がある。
 「占領軍の行なった検閲の実体を明らかにするというこの仕事は、過去と現在とに、つまり日本の戦後そのものの根底に対して、同時に一つの問いかけを行う試みになるはずである。私たちは、自分が信じていると信じるものを、本当に信じているのだろうか? 信じているとすればどういう手続きでそれを信じ、信じていないとすればその代りにいったいなにを信じて、私たちはこれまで生きて来たのだろうか」という江藤氏の自問は、戦後すべての日本人が持つべきものである。
 そして私は、「自分たちがそのなかで呼吸しているはずの言語空間が、奇妙に閉され、かつ奇妙に拘束されているというもどかしさを、感じないわけにはいかなかった」という江藤氏の思いを共有してほしいと思う。
 戦後日本を占領したアメリカがどのような情報操作によって日本人をコントロールしたか、歴史の真実を封印し、戦勝国に都合のいい歴史を新たに刷り込まれたか、それを知ることは、いまわれわれがどこに立っているかを知ることにつながる。
 これこそが、戦後日本の覚醒のカギなのだ。

 
GHQ特製『真相はこうだ』という歴史歪曲装置

 年配の読者には懐かしく感じられるかもしれない「装置」の一つを取り上げ、具体的に日本人がいかにコントロールされたかの実例をあげよう。
 終戦から4カ月後の12月9日、日本人が未だ虚脱状態にあったときにGHQによって『眞相はこうだ』という10回シリーズの番組が放送された。時間帯は日曜日の午後8時から30分というゴールデンタイム、NHKラジオ第一・第二の同時放送という周到さで(再放送を含めると何と週に5回)、そこには日本人を徹底的に“洗脳”してやろうという執念が表れていた。
 電波媒体だけではない。『眞相はこうだ』の第1回放送前日の12月8日、つまりその4年前に大東亜戦争が開戦した同じ日、GHQは全国すべての新聞に「連合国総司令部の記述せる太平洋戦争史」を一斉掲載させている。これは17日までの10日間にわたって続いた。
 『眞相はこうだ』の放送は翌年2月まで続き、そのあと『眞相箱』という番組に引き継がれ、さらには『質問箱』と名称を変えて同種の番組は、昭和23年8月まで約3年にわたって続けられた。GHQ民間情報教育局によって編まれた『眞相箱』の台本も昭和21年8月25日に発行されており、それには「太平洋戦争の政治・外交・陸海空戦の眞相」というサブタイトルが付いている。
 ラジオ番組も新聞記事もその内容はズバリ、悪逆非道な日本国による悪しき侵略戦争である、アメリカから見た「太平洋戦争」を、さも日本人が自ら書いたかのような体裁にして日本人に教え、浸透させようとしたものである。
 まさにこれでもか、これでもかというように、日本はいかに悪い国で、好戦的で、愚かで、平和を追求するアメリカの努力を認めずに戦争に突っ走ったか。これほど酷い、これほど国民に嘘をついた日本軍と日本政府から日本国民を救い出すために、“正義の国アメリカ”がどれほど努力をしたか──という「アメリカは善、日本は悪」という構図を、繰り返し繰り返し、さまざまなパターンで、刷り込もうとしたものだった。
 当初、NHKに舞い込む日本人の投書は番組への非難や反発ばかりだったという。日本を支えてきた伝統や価値観が全面的に否定され、日本国の罪が一方的に糾弾されることに、当時の日本人は決して沈黙していたわけではなかった。強い拒絶反応を示したのである。だが占頷下では、GHQに関する報道は厳しく制限され、番組が占領軍の制作であることも知らされていない。
 まことに残念ながら、アメリカによる悪意と欺瞞の情報洪水が続くなか、次第に日本人は、その嘘や歪曲を正すことに疲れ、根気を失ってしまった。

 
原爆投下は人体実験だったという残酷な事実を忘れるな

 くわえて「公職追放」という苛酷な“追討戦”も仕掛けられた。諦めれば、その流れに身を任せるしかない。GHQを恐れて、欺瞞を正すのに疲れた大人たちが沈黙するにつれ、歴史の真実は押し潰され、新しい戦後世代が、日本断罪のための欺瞞に染まっていったのである。
 たとえば『眞相はこうだ』では、アメリカによる原爆投下は、日本がポツダム宣言への回答を連合国にしなかったことへの当然の報い(自業自得)という文脈で語られている。しかもポツダム宣言がいかに「人道的で寛大かつ非懲罰的な降伏条件」であったかが強調され、それにすぐ応じなかった日本政府を重ねて非難しているのだ。
 だがポツダム宣言までに原爆を完成させていたアメリカが、冷戦を見越して、ソ連の参戦がなくとも日本を制圧できることを急ぎ示す必要から原爆は投下されたのであり、また広島にウラン235、長崎にプルトニウム239とそれぞれタイプの違う原爆を投下したことからも、新兵器の効果を、日本人と日本の都市を使って試すのが目的でもあった、というのが歴史の真実である。
 番組では、「原子爆弾を広島の軍事施設に投下しました。ダイナマイト2万トンに相当する破壊力を持つこの原子爆弾は、兵器廠都市、広島の6割を一掃してしまいました」というナレーションがあり、長崎についても、「軍港の軍事施設と三菱ドックに投下されました」と、目標が日本の軍事都市だったかのように語られている。
 しかしアメリカ軍の公式資料によれば、原爆投下の候補地は「焼夷弾などの爆撃被害が少なく、原爆被害の評価をしやすい」という理由から京都、広島、小倉、新潟の4都市が選ばれていた。まさに原爆の威力を試すための人体実験だったのである。
 当時のカナダ首相マッケンジーが、原爆がヨーロッパの白人にではなく、日本人に対して使われることになってよかったと正直に日記に綴っているが、この経緯をわれわれ日本人は、決して忘れてはならない。

   ★なわ・ふみひとのコメント★
 
日本が、GHQ(アメリカ占領軍)によって仕掛けられた“洗脳”工作の呪縛から目を覚ますためには、次の3冊の本がもっとも効果があります。が、残念ながら、“洗脳”と併せて若い世代に対しては“愚民化”工作が施されたため、最近では映像(テレビ)や音声(ラジオ)からしか情報を受けられない日本人が増えています。こうして大衆は洗脳され続け、真実の歴史が偽りの歴史に置き換えられていくのです。

@ 『「真相箱」の呪縛を解く』(櫻井よし子・著/小学館文庫)
A 『日本解体(『真相箱』に見るアメリカの洗脳工作)』(保阪正康・著/扶桑社)
B 『閉された言語空間(占領軍の検閲と戦後日本)』(江藤淳・著/文春文庫)


 これらの本を読みますと、かつては世界中の人々から絶賛されるほどに素晴らしかったこの国を今日の哀れな姿に変えてしまった世界支配層の計画の緻密さが理解できます。「敵ながらあっぱれ」と言わざるを得ません。
 
 
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