●防災司令本部も壊滅す

 震度6〜7の直撃に、地上の建物はほとんど倒壊、全壊する。
 活断層地震は、防衛省も直撃する。発見された3本のうち西側断層のほぼ真上に防衛省本部は立地している。
 首都圏で大震災が起こる。そのとき、救援の中心となるのが陸上自衛隊である。その司令本部が直撃で粉砕される。機能マヒでパニックに……。そんな未曾有の事態すら予想される。さらに「国会議事堂ですら崩壊する!」。専門家の予想に慄然とする。議事堂は、なんと1936年、完成以来一度も耐震補強されていない。その構造は「組積造(そせきぞう)」と呼ばれる。レンガや石を積み上げただけの造りだ。激震に耐えられるわけがない。都などの報告書でも「局所的な損傷」を警告。公式報告ですら「一部損傷する」と予想しているのだ。
 『週刊現代』(前出)も「『首都圏縦断』活断層でM7地震ここを直撃する」を特集。そこでこう結んでいる。
 「……政治家も官僚も自衛隊トップもビジネスマンも、一瞬にして被災者となる現実。もはや、東京からの脱出を真剣に検討する時期に入っているのかもしれない

●建築業界の「パンドラの箱」

 「“液状化”は、建築業界では『パンドラの箱』なんです」
 おどろくべき話を聞いた。
 つまり、建築業者は「“液状化”という言葉を口にしてはいけない」
 なぜか? それは業界にとって「不都合な真実」だからだ。
 それは不動産業界、学界においても同じだった。約30年前、わたしは先輩の放送ディレクターIさんから衝撃事実を聞いた。ある地質学者が彼にこう言った、という。
「Iさん、浦安の土地だけは買わないほうがいいよ」「あそこ全域は“液状化”することは地質学では常識だ」
 その証拠に、この土地を売り出している大手不動産会社の社員で、土地を購入する者はゼロ、という。この衝撃事実は、3・11地震で“証明”された。
 悲劇は予想通り浦安を襲った。住宅地や道路は“液状化”で大きくうねり、沈み、傾いた。マンホールが地上に1メートル、キノコのように生えている状態になった。
 地盤が大きく沈んだ。そのためマンホール本体がここかしこにポツポツ取り残された。
 ただし、危ないのは浦安だけではない。

●プリンに爪楊枝、砂上の楼閣

 多発するのは「沿岸」「海岸」「埋立地」エリアだ。東京都心部は、ほとんどが「海岸」や河川「沿岸」に位置し、その大半は「埋立地」だ。3要素をすべて満たす。だから都心部の約半分に“液状化”リスクがある。今は、各都道府県が“液状化”防災マップ」を公表している。もはや「パンドラの箱」は開けられた。
 危険地域は23区東部から湾岸地帯。内陸の板橋区ですら危険度が高い。
 ベイエリアには超高層ビル群も林立している。知人の一級建築士は首を振る。
 「プリンの上に爪楊枝を刺したようなものですね」
 沿岸、湾岸部の地下はほとんど砂地だ。江東区など30メートル掘っても砂地という。豊洲という地名が、すべてを物語る。“豊かな砂地”という意味だ。そこを訪ねる。超高層ビルが林立する。一瞬「砂上の楼閣」という故事を思い出した。
 むろん、建築業界は、砂地の上に直接、ビルを建設するわけではない。
 基礎杭(パイル)打ちはビル建設のイロハだ。

●「摩擦杭」は沈下、くの字に

 ビルなど大型建造物を支える杭には2種類ある。
 (1)「支持杭」、(2)「摩擦杭」だ。

 (1)は岩盤などに直接設置される。だから建物は盤石だ。ニューヨークの摩天楼はマンハッタン島の岩盤上に「支持杭」で支えられている。だから堅牢無比だ。それに対して東京は利根川などによって運ばれた砂が堆積した沖積平野に位置する。堅固な岩盤は千ー
トル以上も地下にある。だから、建物は(2)で支えられている。
 つまり、東京のビル群は、すべて地盤との「摩擦」によって支えられているのだ。
 そこを巨大地震による“液状化”が襲ったらどうなるか?
 大地が“液体”になる。それは「摩擦力」を失うことを意味する。「摩擦杭」はヌカに釘ならぬ、液体に杭となる。建物重量に負けて沈下する。建物は沈み込む。あるいは傾く。倒壊する。
 さらに、恐ろしいのは「側方流動」だ。
 “液体化”した地盤が、横向きに流れ出す。かつて1964年、新潟地震では地盤が最大7メートルも動いた記録がある。すると、流動する地盤の圧力が「摩擦杭」にかかり、“くの字”にポッキリ折れる。折れた杭は、もはや建物を支えきれない。建物は確実に倒壊する。なるほど、建築業界が“液状化”を「パンドラの箱」と呼んだ意味がわかった。

●街が海岸方向に“移動”!

 さらに衝撃的なことには、街全体が海に向かって移動する。
 まさに白日夢のような光景だ。それは、大手ゼネコン大林組の実験で証明された。
 震度6を想定した実験では「液状化」と「側方流動」で住宅などが沈みながら低い海岸方向へと動いていく……。驚愕は、それだけですまない。動いていく先には堤防がある。街の移動は、海岸堤防で食い止められるか? そうはいかない。地下の堤防杭の先端まで“液状化”する。そこに、街が地盤ごと押し寄せてくる。最大移動距離は4.3メートル。
 圧力に屈して海岸堤防は倒壊する。ここからが悪夢の始まりだ。海水が奔流のように流れ込む。
 葛飾区、江東区など下町のほとんどは海抜ゼロメートル地帯だ。この言い方は正確ではない。厳密にいえば、海抜マイナス地帯なのだ。

●7mの高さから海水流入

 下町には満潮時、マイナス4メートルに位置する場所もある。
 その一帯は、巨大地震の“液状化”に見舞われる。すると最大2.9メートルも地盤沈下する。地震直撃が満潮時と重なったら最悪だ。下町は7メートルも海水面下に沈む。頼みの綱、防潮堤防はどうか? 「側方流動」による地盤移動の圧力で倒壊する。直下地震で壊滅した街並に、さらなる悲劇が襲いかかる。
 7メートルの高さから大量の海水が怒濤となって押し寄せる。一瞬にして下町一帯は海に呑まれる。もはや助かる可能性はゼロに近い。
 忘れてはいけないのは、この惨劇は、海水面の高低差から発生する。
 さらに、3・11の悪夢が追い討ちをかける。今度は、本物の津波の襲来だ。
 東京湾北部の直下型地震では数メートルの津波が発生する、という。
 すると、最終的に下町二帯は10メートル以上も水没する。東日本大震災の悪夢がよぎる。加えて、湾岸部や下町地域の人口密度は、東北の100倍以上。犠牲者数は比較にならないほどのものになるだろう。
 
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