あるバス停での事です。乗客は全部乗降し終わったのに、バスはいつまでも動きません。そのうち、バスの中はザワザワしはじめました。運転手さんは‥‥と見ると、じっとバックミラーを見つめています。
そして、やおら席を立つと、乗降口から降りて、後ろに向かって、大きな声で、こう叫びました。
「バスは待っていますから、走らないでください」
乗客は皆、びっくりして後ろを振り向くと、おなかの大きな女性が、小さな子どもの手を引いて小走りに走っています。
しばらくして息を切らせてバスに乗り込んだ二人が、「運転手さん、ありがとうございました。皆様、ご迷惑かけました‥‥」と、ていねいに頭を下げました。
バスの中で拍手がおき、やがてゆっくりとバスは走り出しました。
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