七年ほど前のこと、夕方近くに都心へ向かう電車に乗った。
車内は空いていたが、途中の駅で酔っぱらいが数人乗り込んで来た。運悪く、その中の一人が私の横に座り、からんできた。
私は恐怖のあまりその場を立ち去ることもできず、涙をこらえ、固くなっていた。どうしてよいかわからず、時間がとても長く感じられた。
やがて、しばらくすると向こうから男性が近づいてきた。
彼は私の前に立つと一言、「武田さんですよね。お久しぶりです」
私は武田ではなかったし、彼も知り合いではなかった。が、反射的に彼の差し出した手をつかみ、私は自然に立ち上がることができた。
あのときは動揺してろくにお礼も言えなかったが、彼の行動に心から感動している。今でも忘れられない。
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