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ホスピスでのある出会い

埼玉県東松山市  橋本 郁子 50歳
  
  私は3年前の夏、中学3年だった娘を病で亡くしました。その1年後、知人がホスピスの働きを兼ねて開所した医院で、お手伝いをしたことがあります。短い期間でしたが、ご病気の方のお話相手をさせていただいたのです。
  その時、68歳の末期がんの患者さんとお会いしました。
 「私は幸せなのです」
  と、もうご自分の死が近いことを知っておられるその方は言われました。
 「昨年の春、自分が、進行したがんであることがわかりました。家内はそのときすでに長患いの身でしたので、私の病気のことは知らせませんでした。その家内も昨年の暮れに見送ることができました。子供たちも成人し、今は何の心配もありません。10年前だったら、とてもこんなおだやかな気持ちで死んでいくことはできなかったでしょうが」
  何もかも受け入れて心静かなその方に、ふと娘のことを話す気持ちになりました。娘も死の宣告を受けながら、最後まで前向きに生きていたからです。
 「お嬢さんは、幸せな方でしたね」
  とその方に言われて、私はえっと驚きました。
 「そうして、まわりの人をいたわり、お母さんに感謝しながら亡くなられた。短かったが幸せな生涯だったと思います」
  それまで、娘は不幸だった、かわいそうだったとばかり思っていた私は、「あなたの娘は幸せだった」という温かい言葉に、溢れる涙をおさえることができませんでした。そして、心から慰められました。娘は本当に幸せだったと思うことができました。
  もう酸素吸入を受けるほどになっていたその方は、それから間もなく亡くなられました。
  人は愛に生きる時、どんな状況の中でもまわりの人に励ましを与えることができるということを、その方から教えられました。
  私の住む市の隣の町に住んでおられたその方のことを、折にふれ思い出しています。

 
涙がでるほどいい話・第三集』(「小さな親切」運動本部・編/河出書房新社・刊)より