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大盛りカレーの気持ち

西宮市  原田 一美 (40歳)
  
  息子と2人暮らしになって8年になります。私はいつまでも若い気でいますが、小四だった息子も大学受験をむかえます。
  介護士としての仕事と家事の両立で毎日クタクタの私を尻目に、息子は、受験? だれのこと? とばかりにバイト、デートと違った忙しい毎日を過ごしているようです。
  帰宅時間が遅いせいか会話の時間は減り、メールの返事も「了解」と味気なく、息子の変化を成長と理解するのはなかなかです。
  そんな息子が初バイトの給料で、普段は持たないスーパーの袋を提げて帰ってきました。息子は何も言わずに風呂へ直行。中には私が好きなコーラと、湿布薬。レシート裏に「あんまり無理すんなよ(笑)」と走り書き。
  息子が風呂から上がる前に、涙を止めるのに必死でした。素直に「ありがとう、うれしいわ」が言えず、ただただ平静を装っていました。その気持ちをどうしても伝えたくて、考えたあげくカレーライスと鶏の唐揚げをめいっぱい大盛りにして表現しました。
  そのいつもとはちがう量を見た息子の一瞬ひるんだ表情。私からの「ありがとう」が伝わったかどうかは未だに?です。当然、その時のコーラはもったいなくて飲めず、冷蔵庫で私を励ましてくれています。
  帰りの遅い息子のために、今日も夕飯を作りながら冷蔵庫を開けると、「おかん、無理せんとぼちぼちやれ」と息子が言ってくれているような気がします。冷蔵庫を閉めるたびに「ありがとう」とつぶやく毎日が今の私のささやかな、喜びと幸せです。

 
いのちを、ありがとう』 (クレリ20周年記念作文 入選作品集)より