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 世界恐慌か国家破産か
パニック編
浅井隆・著  第二海援隊
 
 終戦時並かそれ以上の食糧・物資不足に陥る

 おそらく、国家破産で起きる最も典型的な極限状況が食料や物資の不足だ。ご存知のとおり、日本の食料自給率は四〇%前後と低く、海外からの豊富な輸入によって何とかまかなっている。ここに超円安、インフレが到来すれば一般庶民に手が届く食料は瞬く間になくなるだろう。日本は、第二次世界大戦直後深刻な食糧難に見舞われたが、私はその当時並み、あるいはそれ以上に深刻な事態が到来すると危惧している。
 終戦直後の食糧難は、徴兵により農業労働力を奪われた結果、農業生産力が低下したほかに、朝鮮半島などからの輸入が戦争によって疎外されたことや、大陸から大量に押し寄せた引揚者によって、需給が絶対的にひっ迫したことで起きた。一方で現代の日本では、品種改良や高度な農業技術によって、日本の農業生産力は飛躍的に向上しているといわれている。海外依存しているのは食に対する多様性を維持するためであり、いざ日本が破産した場合、選り好みさえしなければ自給できると唱える人もいる。
 しかし、残念ながら、そう簡単にはいかないだろう。まず、国家破産によって経済混乱が起きれば、モノの値段が乱高下する。通貨の価値がどんどん下がるため、現物を買うことで資産を守ろうとする人が大量に現れ、買占めが横行するようになるのだ。当然、便乗値上げの類も増える。食料生産者も同様に、食料の出し惜しみと価格つり上げをするようになる。戦後のヤミ市のような非公式相場が形成され、ちょっとしたものも法外な高値でしか買えなくなるのだ。
 もちろん、日本が破滅的状況に陥った時、救いの手を差し伸べる国や組織があるだろう。グローバル化によりこれだけ世界がつながっている現在では、人道的支援を含めて何等かの形で食糧支援などが行なわれる。事実、第二次世界大戦の後ですら、海外からの物資援助は行なわれていた。ご記憶の方もいらっしゃるだろうが、日本では「ララ物資」や「ケア物資」が、またヨーロッパの敗戦国などにも同様の物資提供が行なわれている。二〇〇九年にハイパー・インフレに襲われたジンバブエでも、赤十字やユニセフ、国連WFPなどが食糧支援プログラムを実施している。
 しかし、仮にこういった支援物資の類が、あったとしても、国民すべてには到底行き渡らないだろう。また、国家破産という異常な経済混乱や治安悪化の状況下では、社会中のあらゆるところに不正がはびこり、支援物資の横流しや闇取引が常態化することになる。
 日本人は比較的危機耐性が強く、このような時期にも落ち着いて行動する民族と考える人も多いが、実はそんなことは決してない。東日本大震災の被災者が、水や食料を得るために何時間も整然と列をなしていたことが美談として語られているが、その裏ではガレキとなった集落を徘徊し、金品を盗んでいく不貞の輩が相当数いた。「衣食足りて礼節を知る」とはよく言ったもので、十分に豊かさを享受する現代の日本では想像できないだろうが、大正時代にはコメの出し惜しみをした農家や穀物商が焼打ちや襲撃に遭うなどということも普通にあったのだ。
 想像したくない話だが、日本全体が貧困と食糧不足に陥れば、間違いなく食料争奪の壮絶なサバイバル戦争が始まるだろう。
 これも国家破産の典型的な症状だが、治安がてきめんに悪化するのだ。国家が治安を維持するには、膨大なコストがかかるためだ。破産すれば、当然そのコストを支払うことはできなくなる。ありていに言えば、警察職員は給料を減額されたりもらえなくなり、モラルが低下しサボタージュするようになる。公的な立場を私的に利用し、賄賂を要求したり、逆に犯罪に走るものも出てくるようになるのだ。
 最近の例では、破産申請したデトロイト市のダウンタウンがゴーストタウン化しているが、これはまさに治安維持にお金を割けなくなったためだ。市民が自主的に自警組織を作って対応しているとのことだが、やはりプロの警官との能力差は歴然で、悪質な犯罪が多発しているという。また、二〇〇一年に破たんしたアルゼンチンでは、駅のホームでハンドバッグを暴漢にひったくられうになった女性が抵抗し、ホームに突き飛ばされた挙句電車にひかれて死亡したという事件も起きている。第一次大戦後のドイツでは、食料を求めて農家に押し入り、生きたままの乳牛の肉を切り取って逃げていったものもいたという。家の者が発見した時、腹が抉り取られて息も絶え絶えの牛を、泣く泣く殺したそうだ。聞くに堪えないむごたらしい話だが、破産した国ではだいたいこのような逸話が生まれる。
 そしてこの時、たいてい警察は何もしてくれない。あまりにも凄惨な事件が多発するため人手が足りないし、また警察官もろくな生活を送れないため、やる気が起きないのだ。現在の日本の警察は、優秀な治安維持機能を有している。しかし、あまり言いたくはないが、これだけの警察組織も財源がなくなれば、まず間違いなく機能しなくなるだろう。
 また、賄賂の横行も半端なものではないだろう。海外では、警察官を装って金品を要求する事件が日常的に起きているが、これが国家破産になると本物の警察官でも公然と金品を要求するようになる。実際、ブラジル、ロシア、メキシコなど、歴史的に政治腐敗が長い国では現職警官の賄賂強要が多い。そして、新しい法律ができるたびに賄賂の手口ができる。ありとあらゆる場面でソデの下が要求されるようになるのだ。日本の警察といえども、社会インフラの機能停止が長引けば同様の事態を覚悟しなければならないだろう。
 
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