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 国貧論
松本 道弘・著 徳間書店
 
 コメを食してこそ「日本人」

 人は食で変わる。
 英語でいえば、”You are what you eat.”である。直訳すれば、「あなたは、あなたが食べるもの」となり、日本初のマクロビオティック(正食)料理は、外国人(白人系欧米人、とくにユダヤ人)に大人気があり、食の思想の巨人、桜沢如一の遺志を継ぐ久司道夫博士の門を叩き、「ガンやエイズをなおしてください」と哀願する人の数は絶えることがない。
 文明の危機を感じた多くの欧米人が、久司道夫氏の教えに従い、氏のボストンのマクロビオティックセンターで玄米を黙々と噛んでいる。静かだ。食事中はあまり話すな、と叱られた昔を思い出す。われわれ日本人は、肉食を好む欧米人になってしまった。肉を食べだした明治のころから、日本人の身心は穢れ始めたという説もある。
 これは極端にしても、何人ものアメリカ人から、「なぜ日本人はアメリカ人がジャンク・フード(くず食)というファースト・フードを好んで食うのか。日本人の血も薄くなり、HIVに対する抵抗力を失いAIDSが増えるだろうな」と言われると、ギョッとする。

 よく噛む人は、日本人であれ外国人であれ、思考に深みがあり、落ち着いて、言動が慎重だ。めったに人の悪口を言わない。
 そういう価値観の人は、食物の価値観も似通っているものである。食物に好き嫌いの激しい人は、人の好き嫌いも激しく、肉食を好む人は、言葉も攻撃的になる。
 身土不二(しんどふじ)という正食の道を外した日本人は、皮膚は東洋人でありながら、身も心も白人化している。昨年夏、ハワイのアラモアナ海岸で知り合った韓国の中年のビジネスウーマンは、私にこう語った。「日本人はもう白人よ。東洋人のプライドを失っている。そのうちに東洋に戻れなくなるわよ。ワイキキの浜辺に行ったの? 日本人の若い女性向けに日本語で『ローカルな男性に近づかないでください』と書かれたあの看板。ハワイの東洋人に笑われているわよ。私の知っている昔の日本女性は、もっと貞操観念があったのよ」
 肉食は、かつての精神的な日本の若者を物欲的に、そして現世的にさせた。肉食を主とする白人系欧米人は、どうしても植民地的、帝国主義的にならざるを得ない。
 その攻撃性がビジネス感覚に結びつくと恐ろしい。教育でも医学の分野でもすべて、ビジネスが優先するという価値観に結びつくからである。赤ひげは病院ビジネスには向かなくなった。自然治癒という神道経営では食べていけないのだ。だから、患者を薬漬けにして逃さないようにマネーマシーンにすることだ。「仕方がない。医療の仕組みがそうなっているんだから」と制度のせいにし、儲け第一にしている。こういう不正義は法では取り締まれない。

 
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