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 渡部昇一「日本の歴史」第5巻 明治篇
 世界史に躍り出た日本
渡部昇一・著  WAC
 
 二十世紀最大の事件

 ‥‥日露戦争は、指揮官が立派で兵隊が勇敢だったということだけで勝てたのではない。海上では下瀬火薬が、陸上では秋山将軍の機関銃の導入などが、いずれも当時の欧米の軍事水準を超えていたからこそ、最強の軍隊に勝てたのである。なにしろロシア軍は近世になって本当の敗北を知らないという常勝軍だった。ナポレオンにすら勝ち、また北アジア全域を支配して朝鮮にまで進出していたのだ。
 そして、日露戦争は単に日本がロシアに勝ったというだけの戦争ではなかった。この戦争の結果は、じつに絶大なる影響を世界中に及ぼしたのである。
 それは、有色人種の国家が最強の白人国家を倒した──事実、日露戦争の敗北から12年後、ロシア王朝は革命によって倒れた。これも日本に負けなかったら、事情は変わっていたであろう──という事実であり、世界史の大きな流れからすれば、コロンブス以来の歴史的大事件であった。
 コロンブスの新大陸の発見が世界史上の大事件であったことを認めない人はいないであろう。それ以前の世界史では、それぞれの地域で起きた事件が別の地域に影響を与えるということは、ほとんどなかった。アレキサンダー大王が現れてもアメリカ大陸には関係がないし、また、漢の武帝の即位がアフリカに影響を及ぼすということはなかった。
 ところが、コロンブス以後、世界中は一つになった。ヨーロッパで起きた事件でアジアが動くという時代が始まったのである。
 そして、この歴史の分水嶺以降の四百年間に世界史で何か起きたかといえば、白人が有色人種の土地にやってきては植民地にしたという事実に尽きるのである。
 これに比べれば、その他の事件、たとえばアメリカの独立戦争(1775〜83)にしたところで小さな出来事に過ぎない。アメリカが独立しようと、イギリスという国の植民地になろうと、あくまで白人同士の内訌(ないこう)であって、世界史全体からすれば、どちらに転んでもいい話である。インディアンたちにとって、アメリカ大陸の支配者がイギリス人であろうとフランス人であろうと、オランダ人であろうと誰であろうと、白人であるかぎり状況は変わらない。白人の植民地支配ということが本質的に大きな問題だったのである。
 あるいはフランス革命にしたところで、それは白人内部の問題であって、インド人にもシナ人にも、ほとんど影響を与えなかった。また、英仏間の戦争にしろ、当事者には大戦争であっても、世界史の流れから見ればどうということはない。インドやカナダがイギリス領になるかフランス領になるかの違いにすぎないのである。
 日露戦争がなかったら、あるいは日露戦争に日本が負けていたならば、この白人優位の世界史の流れはずっと変わらず、21世紀の今日でも、世界中は植民地と人種差別に満ちていたであろうということには、毫毛の疑いもない。
 ところが、日露戦争で日本が勝ったために、コロンブス以来四百年ぶりに、世界の歴史の大きな流れが変わったのである。つまり、有色人種が白人の言いなりになりつづけるという時代に終止符が打たれた。それを日本が満天下に示したのであった。
 そして、時間が経てば経つほど、誰の目にも日露戦争の世界史的意味は大きくなってくるのである。ふたたび繰り返すが、ここ五百年間の世界史の事件で、コロンブスの新大陸発見に匹敵する大事件は、日露戦争における日本の勝利である。
 しかし、戦後の日本の教育において日露戦争の世界史的な意義が語られることはなくなったようである。20世紀の終わり頃に産経新聞社がアンケートを行ない、「21世紀の世界の十大事件」を世界の名士たちにたずねた。日本人としては湾岸戦争(1991=平成3年)時に国連難民高等弁務官として活躍した緒方貞子さんが答えていたが、緒方さんは日露戦争を20世紀の十大事件の中に挙げていなかった。
 緒方さんの功績には常に敬服していたが、世界における20世紀の大事件と言われて日露戦争が頭に浮かばなかったというのは、明らかに戦後の日本の教育の欠陥か、あるいはアメリカ主導の教育のせいか、どちらかであろうと思った。しかし日露戦争を行なった日本人の先祖の苦労や犠牲を思うと、敗戦国の悲哀をつくづく感じたことであった。

 ★なわ・ふみひとのコメント★
 
要するに、コロンブスがアメリカ大陸を発見してからの400年の歴史は、白人が有色人種の住む土地にやってきて次々と植民地化していったという事実に尽きる、ということです。その植民地化の最後の標的であった日本は、極東にあったという地理的条件も味方して、最後まで白人の植民地にされないまま“文明開化”を進めることができたのでした。そして、明治政府の富国政策(西洋化策)によって、またたく間に白人国家と肩を並べるまでになり、当時白人国家の中でも最強の軍事力を持つロシアと戦争をしてこれを破るという世界史的な快挙を成し遂げることになります。
 この歴史的な大事件の持つ意味を緒方貞子さんほどの人でさえも理解していないと、著者は嘆いているのです。これこそ、この国の自虐的な教育の影響と見るべきでしょう。私たちはこうして計画的に“洗脳”され続け、先人が作ってきたこの国の歴史に対する誇りを失い、自虐的な国民になりつつあるのです。これから日本のみならず世界中がますます混乱の度を深めると思われますので、人々の関心は目の前の暮らしのことだけになってしまうおそれがありますが、気高く生きた我が国の先達の足跡は正しく理解しておくことが大切だと思います。
 
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