人のからだは、なぜ治る? 
ホリスティック・メディスンの知恵 
大塚晃志カ・著 ダイヤモンド社 
 

 「食」は「心の状態」にも影響を与える

 食事は、「心の状態」にも多大な影響を与える。
 なぜか? 食が血液の質を決定することは先に述べた。血液は、われわれの“内なる自然の川”である。それには、大動脈に代表される大河もあれば、微細な毛細血管のような小川までいろいろある。頭の回転が悪いことを「どうも、血のめぐりが悪くて……」などという。このむかしの人の直観は、正しい。脳の血管網の解剖標本を見たことがあるが、それはもう脳の中には、一体どうやったらこれだけ詰めこめるだろうと思うほど、血管がぎっしりと入り、張りめぐらされている。たしかに、血管が少なくて、脳細胞に酸素がいかなくなったりしたらたいへんである。脳は、多量の酸素と栄養を必要とすることは周知の事実である。ゆえに、脳の活動には、酸素をとり入れる呼吸と、血液の質と循環を左右する食事が大きくかかわってくるのは、当然であろう。
 年をとり、脳の血のめぐりが悪くなり、うまく四方に血液がいきわたらず、停滞うっ血するようなとき、脳血管性の痴呆というものがおこることがある。いわゆるボケ老人である。1990年前後は70万人、西暦2000年には110万人を突破すると推計されている。脳血管性の痴呆については、専門家が食生活との深いかかわりを指摘している。ボケてくると、5分前に食事をしたというのに、すぐにまた、「私はまだご飯をいただいておりません。おなかがすきました。まったくうちの嫁は意地が悪くて……」などといいだす。どうもうっ血した血液が、食欲中枢ばかりを刺激し、興奮させてしまうらしい。脳の血のめぐりが悪くなることがまさに、心の状態を変えてしまうよい例かもしれない。ということは、血液の質にかかわる食が、心の状態に大きくかかわってくることになる。
 別の例を挙げよう。
 たとえば、多くの専門家によって子どもの非行、暴力、登校拒否などが、子どもたちの食生活に大きくかかわっていることが指摘されている。たしかに偏食等によって、まともでない汚れた血液が脳にいくなら、イライラしたり、すぐに怒りっぽくなったりすることは容易に想像できる。また、東洋医学的な見方からすれば、肝臓の血のめぐりが悪かったり、または疲れていたり、はれていたりすると、容易に怒りっぽくなる。食べすぎたり、しょっちゅうアルコールを飲む人がささいなことで急にかんしゃくを爆発させることなどは、多くの方々が体験していることであろう。やはり食生活は、大いに心の状態にかかわってくるようである。
 低血糖症と呼ばれる病気がある。今日のアメリカや日本の子どもたちと若者に増えている病気である。すなわち、体のエネルギーのもとになっている血液中の糖分(血糖)のレベルが、膵臓が血糖を抑制するインシュリンを出しすぎるため異常に低くなってしまう、という病気である。血糖値が低いのだから砂糖を補わなければ、などと考えるのは実に短絡的な形式論理であり、実はそのような子どもたちは、甘いお菓子やスナック、さらには砂糖を多量に含んだコーラ、ジュース等の清涼飲料をたっぷり口に入れている子ばかりなのである。砂糖をやたらにいろいろな人工的加工食品、飲料としてとりすぎるので、膵臓が懸命にインシュリンを出しつづけ、その蛇口がバカになってしまらなくなってしまうというのが本当のところのようだ。生命の世界では、1プラス1イコール2というように単純にはいかない。膵臓が異常に機能してとまらなくなる現象は、体内を異常な砂糖づけにされた生命の必死でけなげな抵抗である。だから、砂糖ばかりとっている者が、逆に血糖値が低いというパラドックスを生む。
 低血糖症の状態がそのままつづけば、やがて膵臓は悲鳴をあげ、疲労困憊し、今度はインシュリンを出さなくなってしまう。すなわち、今度は血糖の高い糖尿病になってしまうわけである。こんなことは、膵臓をひとつの人格ある生きもののように考えれば、あたりまえのことである。なんとかしようとして全力疾走するが、全く状況が変わらず、最後には疲れきり、倒れてしまうようなものである。
 さて、低血糖症になると、ようするに体のエネルギーのもとになるものが不足してしまうわけだから、さまざまな症状がでてくる。
 ひどい疲労感、倦怠感、不眠、朝起きられない、いつもだるい、頭がボーッとする、忘れっぽい、カッとしやすい、イライラする、集中力をもてない、落ちつかない、感情がコントロールできない、気分がふさいで沈みこむ、心がしばしば空白になる、理由もなく暴力をふるいたくなる、昼間非常に眠い、などなど、その心の状態への影響は、はかり知れないほどである。低血糖症は、子どもや若者を非行や暴力、登校拒否に走らせる大きな一因となりうるのである。
 まさに、ここで人間の生理状態が、ダイレクトに心理状態にかかわり、ひびいてくる現実に直面することになる。ゆえに、人体生理を全く切り離して、心理学によって深層心理を考えていっても、往々にして根本的な問題解決にならないこともあることを知るべきであろう。人体生理をきちんと頭に入れておかないで人間の心理を語ることは、明らかに片手落ちである。「生理と心理は一体だ」と言った人がいたが、たしかにそのような面が強くあることをわれわれは、しっかり認識しておかねばなるまい。
 さて、いままで見てきたように「食」はまさに「生理」を変え、「心理」すなわち、「心の状態」にまで、多大な影響を与えるのである。
 逆に、よく観察してみれば、心の状態が乱れたときに偏食をしたり、暴飲暴食してしまったり、ということがよくある。江戸時代の有名な観相家・水野南北は、「食を定めなければ、心が定まらず、心が定まらないときは、食が定まっていない」と指摘し、ひいては食を定めることが、一生の運命を大きく左右するとまで言っている。
 会社の上司に怒られての「やけ酒」、失恋した女性が「やけ食い」をするなど、心が乱れたときにやはり食も乱れてしまうことの好例である。若い女性に今日多く見られる拒食症、過食症も、心の状態の歪みが、食べることにあらわれているものと考えられる。
 
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