般若心経の宇宙論
コンノケンイチ・著 学研 2006年刊
★なわ・ふみひとの推薦文★
 私たちが死後必ず訪れることになる霊界(死後の世界または生まれる前の世界)はどのようになっているのかを知る上で、最も信頼性の高い一文と言ってよいでしょう。何も知らずにあの世にいくよりは、事前に心の準備をして赴くほうがよいのは言うまでもありません。

■ギャラップが行った「死後の世界」の世論調査■

 権威ある世界最大の調査機関「ギャラップ研究所」が、アメリカにおける臨死体験の発生率をまとめたものが、「死後の世界」(三笠晝房刊)と題して、1982年に日本で発表された。
 それによると、臨死体験の発生率は全米の成人人口の5パーセントに達し、800万人に起こっていると集計されている。当調査は、臨死体験者に対する直接面接によって行われたのが特色だった。このギャラップ調査によって、臨死体験が広範囲に起こっていることが証明され、それまでの疑問や信謬性を一掃したといわれている。
 その報告から、死後の世界の特質を取り上げてみよう。

@この世の社会構造は、同じ階級や性質の人たちが集まって作られているが、死後の世界も基本的に同じである。しかし、この世とは比較できない、想像を絶する多様な生命体と階層が存在する。

A最上層には神と同レベルにあるもの、その手助けをしている天使レベルの存在、通常のレベルから悪霊(地獄界)のレベルまで多岐にわたっている。つまり膨大な数の生命体が、あらゆる階級別に分けられて存在している。そしてこの世はそれら霊界全体の階層レベルから、肉体をもった物質人として送り込まれてきた世界である。

Bあの世では、霊界すべてを支配する生命体からさまざまな天使や通常の霊人まで、画然とした完全な権威と服従という階級がある。その階層によって、さまざまな能力が付与されている。

C中間レベルの霊界でも、皆が次のような能力をもっている。

 知覚力(五感)が人間界とは比べられないほど鋭敏になり、念じただけでどこにでも、瞬間的に移動できる能力。時間と空間に束縛されない能力。常に奉仕の精神と愛に満ち、互いが助け合い、育て合う精神に徹しているなど、霊界はわれわれには想像もできない超能力をもつ人たちの集団世界である。しかし、下層レベルの霊界になるほど能力は低下する。

Dギャラップが面接調査を行った10人にひとり、約230万人が「霊界にいる人は、この世の人間の精神的な要求に応じて力を貸すことができる」といっている。これは霊界の住人が、この世の人々に慰めや人生案内、多くの災いから守る守護霊として手を貸すことができるということである。

E面談調査を行った5人にひとりは、死後の世界でも果たさければならない責任(仕事)があると答えている。主なことは、現世で生きている人間に力を貸したり助けること。それは霊人が霊的に成長できるひとつの手段でもあり、債務でもある。

F重要なことは、霊界は神のレベルから悪魔の支配する地獄界レベルまで、明確に階層が分けられており、この世の肉体生活における精神成長のレベルによって、自分が適応する霊界レベルへの割り振りが確定されることである。それは微塵の狂いもなく行われ、現世での行いは霊界に入った途端に、ハイスピード映画のように再現される。

■スウェデンボルグの『霊界からの手記』■

 量子物理学の真髄を理解いただくには、あの世(霊界)の基本構造と仕組みを知っていただかねばならない。といっても、死後の世界が実在するのかどうか、だれもわからない。
 死後、この世に帰ってきた人などだれもいないし、死んでみなければだれにもわからないことである。先の臨死体験にも不思議な共通点があるにせよ、死の苦痛を和らげる脳内分泌物の作用という学者もおり、今ひとつ決定面で欠ける。
 しかし驚いたことに、現世での肉体を有したまま「死後の世界」に出入りできたという人物がいる。18世紀の巨人といわれるエマニュエル・スウェデンボルグで、古今東西でもっとも信頼できる著作とされているのがスウェデンボルグの『霊界からの手記』である。この著書の内容は、先のギャラップが行った世論調査や、有名な『チベット死者の書』『エジプト死者の書』、日本における出口王仁三郎の『霊界物語』と、内容的にクロスする点が非常に多い。
 スウェデンボルグが不思議な人物だったことは、自分が死ぬ日を前もって予言し、その日付けどおりにこの世を去っていることでもわかる。それが事実であることは、臨終の場に居合わせた多くの人の証言が現存しているからである。
 エマニュエル・スウェデンボルグは1688年、スウェーデンに生まれた。彼は9か国語を自在に操り、150冊を超える著作を残しており、18世紀における最大の学者として、科学、数学、心理学、哲学、発明、神秘思想に精通し、それらの業績は現代科学のレベルに達するほど高度なものばかりであったという。たとえば宇宙論では、当時すでに星雲や銀河系の存在を説いていたのである。
 彼は在世中からカントやゲーテをはじめ、さまざまな分野の学者たちに大きな影響を与えており、その影響は現代にもおよんでいる。20世紀の多くのノーベル賞学者が、スウェデンボルグが残した生理学、医学、物理学などの業績に舌を巻いているのである。
 彼の思想の中にはすべての哲学が包含されているとして、生涯にわたって傾倒しつづけたアウグスト・ストリンドペリ(1849〜1912年。スウェーデンの小説家・劇作家)をはじめ、ドストエフスキーなど多くの世界的文学者や思想家が、大きな影響を受けたといわれている。
 アメリカの著述家、ジョージ・ハーバーとは次のように述べている。
「シェイクスピアとかスウェデンボルグといった人間は、普通のわれわれとは違う人種で、人間という種を超えた巨人という別の人種なのだ。こういう人間の前では並の人間はみな吹き飛ばされ、影も形もなくなってしまう」
 アメリカの哲学的思想家で詩人のエマーソンは、科学者でもあり、哲学者でもあるスウェデンボルグを、北欧のアリストテレスと賞賛し、その思想書のいくつかを「人類の真の宝」と評価している。こうした人間が人を惑わす虚偽の『霊界からの手記』を残したとは、とても考えられないのである。
 天才科学者でもあったスウェデンボルグの業績は、今世紀に入ってからも改めて見直されてきている。当時の彼は、すでにDNA(遺伝子)に近い発想にも言及しており、大脳生理学も主な研究分野だった。
 スウェデンボルグは、遺伝子や脳の背後にあるものが霊的生命で、「死後の世界」を含む霊界へ収斂されていると考えていた。後半生の約30年間は、他のすべての学問を投げ捨てて「霊的な生涯」を送ることになる。前述したように自分が死ぬと予言した1772年3月29日に没したが、人類史上における最も偉大で不思議な人物とされている。
 彼の多くの著作の中でも神秘学における『霊界からの手記』は、霊界の仕組みを明らかにした著作として世界中で最も信頼されてきている。しかし何万ページにもわたる彼の著作の全部は読み切れるものでもなく、同国のスウェーデン人が読んでも簡単に理解できるものではないといわれている。
 そのおおよそは、『霊界からの手記』の「はじめ」に要約されるだろう。
 「私は過去20年間にわたり、この世に肉体を置いたまま霊となって人間の死後の世界である霊の世界に出入りしてきた。そこで多くの霊たちに交わり、数多くのことを見聞きしてきた。これから私か記すことは、私自身が人間の死後の世界“霊界”を身をもって見聞きし、体験したことのすべてである。
 人類に稀有な私の体験は、多くの人々は信じようとしないだろう。だが、そのようなことを深くは問わない。人々が私の手記を読めば、そこに書かれている全てが真実と認めざるを得なくなるという絶対の確信を持っているからだ。人々は霊が永遠の存在で、“この世”とは別の“霊界”という世界の存在を知るにいたるであろう。
 どのようにして私が霊の世界、すなわち人間の死後の世界へ入って霊たちと交わってきたか。どのようなことを見聞きしてきたか。“あの世”と“この世”の間には、どのような関係があるのか。それらのことを順序を追って記していくことにしよう。
 私が霊界で見聞きしてきたことは数多いので、この手記は膨大なものになろう。その量の膨大さを考えると、この世における私に残された時間は少ない。私は来年の3月29日に、この世を捨てて霊の世界へ二度と帰らぬ最後の旅立ちをせねばならないことになっているからだ。私は先を急ぐことにしよう。   エマニユエルースウェデンボルグ」

 スウェデンボルグの予言死は、それを予告した手紙を前もってジョン・ウェスレーという教会の牧師に送っていたことでも証明されている。
「私の予言の結果は、私の死後でなければ正しさは証明されないものだが、私は死後それが証明されるのを確信している。私は、あなたが霊界で私に会いたいと希望していることを知った。私は1772年3月29日に、この世を捨て霊界の霊となることに前々から決まっているので、このことも併せてお知らせしておくことにする」
 その日、予告どおり彼は「この世の義務をすませた肉体」を捨て、霊界へと住み家を変えた。記録によると、臨終の日曜日の午後、スウェデンボルグはシェアスミス夫人(彼女はすぐ後に亡くなった)とエリザベス(シェアスミス夫人の使用人)に、いま何時かと尋ねた。ふたりが教えると「よくわかった」とふたりに感謝し、それから10分後に静かな息をしながら安らかな様子で息を引き取ったという。享年84歳だった。

■スウェデンボルグが伝える霊界の構造■

 スウェデンボルグの『霊界からの手記』は膨大で、同じスウェーデン人が読んでも簡単に理解できるものではないといった。筆者が参考文献としたのは、『スウェデンボルグの「霊界」』(ヒューゴ・L・J・オードゥナー著/徳間書店刊)と『巨人・スウェデンボルグ伝』(サイッークスヴィグ著/徳間書店刊)である。
 ではここで、スウェデンボルグが伝える霊界構造を要約しておこう。
 この世とは、霊界という広大無辺な空間の中にぽっかりと浮かんでいるひとつのゴムの球のようなもので、このゴムの球であるこの世の周囲は、すべて霊界で取り囲まれている。しかし実はゴムの球も一種の霊界で、周りの他のすべての霊界がこの世に染み込んでいる。この世以外のすべての空間は完全な霊界なのだが、ゴムの球の中だけは例外的に物質界と霊界のふたつの世界が同じ空間に共存している。だから同じ空間に、ふたつの物質が共存することもできる。空間の性質が違うだけなのだ。
 中有界(幽界)は、この世の背後にぴったり寄り添って実在している。それは金貨の表と裏のようなもので、本来は別々の世界ではなくひとつの世界なのである。そして中有界とこの世は、それを含めた別の大きな世界のひとつの部分なのである。
 人間の生命の源は霊界の太陽で、常に人々の正面に輝いている。
 霊界では、あらゆるものが意識を有し、とくに人の意識が強く関わり、干渉し合っている。この世の人の意識も霊界へ影響を与えているが、それ以上に霊界の意識子不ルギーは、この世に強く干渉している。
 霊界では、距離やスピードという観念は存在しない。人の意識は瞬時に伝わり、行きたい場所を意識するだけで瞬時に移動できる。
 大霊界を大まかに分類すると、「天国界」「精霊界」「地獄界」の3つに分類される。また、それぞれが同じように3つの世界に分かれ、下層に行くほど凶悪な霊の住む恐ろしい世界になる。どの霊界に行くかは、あなたの本性次第となる。
 天国界、精霊界、地獄界のそれぞれは、力の均衡によって保たれている。
 ここにA(天国界・精霊界)とB(地獄界)のふたつの力があり、その大きさは同じだが、力の方向は反対とする。このふたつの力を中央でひとつに結びつければ結果はゼロになり、何の力も働いていないことになる。これが力の均衡である。このとき、中間にCという力が入るとしよう。するとCの力がいかに小さくても、Cの力の大きさと方向がA・B・C全体の力の大きさと方向を決めることになる。
 A・BがいくらCに比べて大きくとも、決定権をもつのはCであり、ここにCの意識が大霊界全体を自由に動かせるパワーをもつことになる。この世の人間の意識が、この力学の例でいう小さな力のCにあたる。
 霊界と地獄界は、こうした力の均衡の中で共存している。この均衡が崩れて天国界がなくなれば、地獄界も存在しなくなり、逆に地獄界がなければ、天国界も存在できなくなる。このように霊界ではふたつの力の均衡が保たれているので、死後に多くの人間が入る精霊界での精霊たちの自由が保証されているといっていい。
 人間が死後に霊界で幸福な生活に入るのも、逆に地獄界に入るのも、その人の生涯の報酬や罰として入るのではない。自分の霊質に合致した霊界に入るのである。人間だったときの意識と記憶はそのまま、死後に永遠の生を送ることになる世界のほとんどを決めてしまうのである。
 彼(霊人)らは、この世の人間と同じような距離の観念はもたない。なぜなら、彼らが距離として感ずることがあるとすれば、それは彼らの心に思い浮かんだ対象物に対する望みが少ないときだけだ。その望みが強ければ、彼らは瞬時にして対象物と同じ位置へ行くことができるのである。
 このようなことが現世の人々に理解されないのは、この世の物質的な習慣に従って考えているためにすぎない。
 スウェデッボルグが述べている霊界構造が、「ギャラップの世論調査」にぴたりと一致しているのは偶然の一致とは考えられない驚異といえる。スウェデンボルグが伝える霊界の仕組みは、詳細かつ精緻を極めているが、詳しくは刊行物も多いので読んでいただきたい。

 
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