日本人が「鬼子」でなくなる日
飯野克彦 (日経新聞中国総局長)
日本経済新聞
 2006年9月6日(火)●地球回覧 

 中国語に「鬼子(グイズ)」という言葉がある。辞書によれば「外国からの侵略者を憎しみを込めて呼ぶ」表現で、「洋鬼子」は「西洋の侵略者」の意味だ。「日本鬼子」という表現もあるが、「日本=侵略者」のイメージが定着しており、「鬼子」だけで「日本の侵略者」を指すことが多い。
 中国のマスコミにあふれている「抗日戦争勝利60周年」の特集記事・番組には、この意味の「鬼子」が目立つ。報道ではあくまで「かつての侵略者」だが、日常会話では「日本人一般」を意味することが少なくない。半ば無意識のうちに、中国人は現在の日本人や日本に憎しみの感情を向けている。
 国営通信社の新華社が出している国際問題専門誌「環境」が最近発表したアンケート結果は、そうした中国人の日本観とその背景にある事情の一端を浮き彫りにした。
 @南京大虐殺、A尖閣諸島をめぐる摩擦、Bアニメ、Cソニー製品、Dすし――のうち日本のイメージを代表するのはどれか、との質問に、ほぼ8割が「@南京」を、続いて1割強が「A尖閣」をあげた。
 回答したのは1980年代に生まれた高校・大学生。日本のイメージについて約6割は「報道から得ている」という。日本では中国の「反日教育」を問題視する声が高まっているが、実はマスコミの影響が大きい。
 確かに、日本に批判的な報道は「60周年」の特集以外にも多い。外国の中で、批判的な観点から紹介されるのはまず日本、次いで米国だ。有力紙幹部は「日本批判は読者の反応が良いが、好意的に紹介する記事の反応は悪い」と言う。
 中国のマスコミは共産党の管理下にある。日本についての報道も中国の指導部が容認しているのは間違いない。(「容認」ではなく、中国の指導部が戦略に基づいて「書かせている」のです。しかし、現役の日経の記者がそういう表現をすると国外退去を命じられるので、ここは穏やかに「容認」という表現を使っていると思われます。――なわ・ふみひと)
 この問題を突き詰めると、結局は共産党の方針に行き着く。一体どんな狙いがあるのか。党幹部などの説明を整理すると3つのポイントが浮かび上がる。
 第1に、党高官も「鬼子」を憎む国民感情を共有している。第2に「日本批判を抑え込もうとすれば国民から強い反発を受ける」(共産党関係者)。第3に「共産党政権の正統性を国民に訴えるには悪役としての日本が必要」(日本の外交官)なようだ。
 共産党の胡錦涛政権が台湾独立勢力へのけん制を強める中で、悪役としての日本の存在価値が改めて浮上しつつある。
 日本人が「鬼子」でなくなる日はそう簡単に来そうもない。
 (全文ではなく、抜粋したものです)

★なわ・ふみひとのコメント★ 
 私のコメントの代わりに、『SAPIO』に載った記事の抜粋をご紹介します。いまは鳴りをひそめていますが、かつての中国の異常とも思える「日本叩き」は、共産党政権が“ある意図”をもって戦略的に行なっていたことがおわかりになると思います。
 
■『SAPIO』2005年8月24日号
緊急対論]「親日派」宣言で話題の元中国共産党エリートが激白

 
これが中国「反日」世論のカラクリだ

鳴霞(Mei Ka 元中国共産主義青年団) 私は57年、旧満州の遼寧州瀋陽で生まれたんですが、少女時代、祖父からよく「満州時代はよかった」という話を聞きました。日本人は親切で礼儀正しく、約束を守り、治安が非常に良かったと。
 家に鍵を掛けたことなどなく、寒冷地なので、冬の夜、食料をベランダに置いて冷蔵庫代わりにしていたと言うんです。今は治安が悪く、ドアは二重にしないと危ないし、食料を窓の外に置いておけば、すぐに盗まれてしまう。
井沢元彦(作家) それはひどいですね。
鳴霞 今の中国にモラルなどありません。今年の6月、黒竜江省でダムからの洪水で200人以上の小学生が死にました。ダムの管理会社の担当者がダムで魚の養殖をやっていて、豪雨でダムの水位が急上昇し、魚が流出することを恐れ、勝手に水門を開けてしまったことが原因です。
 中国語に「向前看」という言葉があります。前を向けば希望がある、という意味です。でも、今は同じ発音で「向銭看」という言葉が使われています。「お金しか見ない」という意味です。
 何の処理もしないで汚水が垂れ流され、「長江は世界一長い下水道」と言われているんですけど、そのおかげで、2億人以上が汚染された水を飲み、30秒に1人の割合で障害児が生まれているんです。こんな具合だから国民の不満は大きく、全国で1日あたり150回のデモが起きているんです。
  話を元に戻しますと、文革前の小学生のとき、私は「紅小兵」になりました。「毛主席の忠実な少年兵」ということですが、成績が優秀で態度の良い子供が選ばれるんです。そして、中学入学と同時に共産主義青年団に入りました。これは中学生から18歳まで、共産党に入党する前の青少年エリートが入る組織です。
井沢 当時はどういう教育を受けていたのですか。
鳴霞 中ソ対立の時代なので、徹底的な反ソ教育ですよ。ソ連は中国人を何人殺したといったことを教え込まれ、新聞や雑誌も反ソ記事一色でした。
 私も「ソ連はなんて悪い国なんだ」と思っていましたよ。それとは反対に、日中関係は72年に国交を結び友好ムードでしたから、反日教育はほとんどありませんでした。私が中国にいた82年まではそうです。南京大虐殺のことなど教科書にも載っていないし、教わりませんでした。
井沢 私も83年に胡耀邦(当時の中国共産党主席)の招きで中国に行ったんですけど、あの頃はそうでしたね。中国が今のような反日に転じたきっかけは何だったんでしょう。
鳴霞 84年に本多勝一氏が『朝日ジャーナル』に「南京への道」という連載を始め、それと連動するように朝日新聞も日中戦争中の日本軍の「残虐行為」を書き立てたでしょう。あれがきっかけです。
井沢 南京大虐殺記念館が作られたのも、その翌年ですね。日本の中の反日日本人が中国に間違ったネタを提供し、反日を煽ったというわけですね。
鳴霞 その通りです。長年反日が徹底された結果、今年の6月にはこんな事件まで起こりました。
 広東省の幼稚園で、毎朝、あるマーチが流されていた。ところが、抗日戦争に参加した経験のある年配者が、それが日本の「軍艦マーチ」であることに気づき、ネットで非難したところ、幼稚園に抗議が殺到した、という事件です。私のように10代の時に反日教育を受けなかった40代も、毎日のように反日報道を目の当たりにして変わりましたね。
井沢 中国の場合、インターネットも政府が規制していますからね。
鳴霞 しばらく前、「新浪」という中国最大のポータルサイトが大学生や専門学校生にアンケート調査を行ないました。「もし戦争が起こったら、あなたは相手の国の女性、子供、捕虜を殺しますか」という質問に対し、なんと90%の人が「イエス」と答えたんです。
(中略)
鳴霞 日本の高校生がよく修学旅行で南京大虐殺記念館に行きますでしょう。あれで洗脳されちゃうんですね。50、60代の人が「私の父は元海軍兵士で、中国に対して悪いことをした。だから、私が代わりに謝罪しにきた」と記念館で話した、という話を聞きました。腹が立ちましたね。
井沢 日本人として情けなく思うと同時に、鳴霞さんのような方がいることに感謝したい気持ちです。
  (全文ではなく、抜粋しています)
 
 
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