[戻る] 
Browse  
 
 資本主義崩壊の首謀者たち
広瀬隆・著  集英社文庫
 
 
 日本政府が買いこむ外貨は何に使われるのか

 こうして日本の外貨準備高は、ますます増え続けて、2008年2月末に1兆ドルを突破しました。売れない100兆円の紙屑をためこんで、大金持だと喜んでいるのが、日本の財務省です。
 100兆円は、現在の一般会計予算をはるかに超える金額です。
 小泉政権になり、特に米軍のイラク攻撃が始まった2003年から、この外貨準備高が急増しています。10年で4倍以上になってしまいました。このうち、8割を占めてきたのが、米国債の購入です。しかし日本に米国債を買い続ける余力がないことは、もうはっきりしています。むしろアメリカの国民を助ける前に、100兆円の紙屑を売り払って、苦しんでいる日本の国民を助けるべきだ、なぜそれをしないのかと、国民は思っています。
 アメリカ政府が金融崩壊を救済するためには、2008年末の推定で少なくとも500兆円以上の大金が必要ですが、ウォール街から流れてくる予測では、それは当面の救済にしか役立たないと見られています。つまり、アメリカ国民が暮らすメインストリートの経済が悪化の坂道を転げ落ちると共に、どんどんその必要額が増えてゆき、政府がもたないだろうと言うのです。
 こうなると、アメリカ政府財政が生き延びる手段は、とんでもない手口しか残っていません。米国債を中央銀行のFRBが買い取って、FRBがそのためのドル札を印刷するというイカサマです。印刷局の輪転機を回せば、ベンジャミン・フランクリンの肖像を描いた百ドル紙幣は、いくらでも印刷できます。フランクリンは印刷業で成功して政治家になり、アメリカを独立に導いたのだから、合理的なストーリーです。しかし国の借金を国が買い取って、アメリカが“偽札”まがいの価値のないドル紙幣を大量印刷しているとなれば、全世界はあきれてドルを信用しなくなり、またたく間にドル売りが広がります。これこそが、ジョージ・ソロスが予言した「ドルの暴落」のシナリオなのです。ドルは近いうちに世界の基軸通貨ではなくなり、資金ぐりに苦しむ時代が来るというソロスの警告は、世界各国が正しく経済分析をおこなうなら現実妹を帯びてきます。ドルで外貨準備高を保有する日本は、ドルの暴落によって、大損することになります。
 アメリカ中央銀行のFRBとは、連邦準備制度理事会の略ですが、準備(Reserve)とは何を意味するのでしょう。百年ほど前の1913年にこの中央銀行が発足した時は、金本位制の時代でした。つまり中央銀行が発行するドル紙幣は、それを銀行に持ってゆけば、世界中で通用する金塊(ゴールド)に交換できたのです。どこの国の紙幣もそうでした。したがって国家は、発行した紙幣に見合った量だけ、換金できるゴールドを金庫に保有して、通貨の国際的な価値を保証する必要がありました。そのゴールドを準備(リザーブ)して紙幣の価値を保証する、という意味がFRBの名称に含まれていたはずなのです。
 ところが現在の通貨制度は、1971年8月15日に、ニクソン大統領が金とドルの交換停止と、金本位制の廃止を発表したニクソン・ショック以降、世界中が金本位制を廃止したのですから、何の保証もない「信用」だけによって、為替相場で各国の通貨をやりとりして、「基軸通貨はドルである」という虚像を成り立たせてきました。
 いま、この虚像が、ガラガラと崩れました。
 さらに大規模なイカサマも考えられます。オバマ新政権の財務官僚が、新ドルを発行して通貨切り下げに踏み切れば、ドルの価値を一夜で変えることができます。つまり帳簿上のトリックで、国家の負債を激減させることが可能になるのです。貯蓄率が低く、ローンが全米に蔓延しているアメリカでは、この数字のトリックだけで、国家と企業・国民の重荷になっている借金の大半が吹き飛ぶという寸法です。ベンジャミン・フランクリンに代って、アラン・グリーンスパンとロバート・ルービンが並んでほほえんでいる肖像を描いた新百ドル紙幣が似合うでしょう。歴史的に、このような緊急手段は、決してあり得ないことではないのです。
 敗戦直後の日本政府が、1946年2月16日、突然ラジオで、従来の紙幣の流通停止と、新紙幣(新円)の発行を発表した金融緊急措置令がそれです。銀行が資金不足で倒産の危機に直面した当時、通貨の増発で救済しようとしましたが、これがハイパーインフレを招いて収拾がつかなくなったため、大蔵大臣・渋沢敬三が、流通している円をいきなり凍結して、新円の発行に踏み切ったのです。国民にとっては寝耳に水の発表で、手持ちの円が使えなくなり、封鎖された旧円の預貯金が大損となりました。
 こうした明日を予測して動いている人間がいます。やはり、最後に信用できるものはゴールドだと、金塊を買いあさる人たちです。莫大な富を持っている人たちにとっては、アメリカの動き次第では、その価値が激減するかも知れない通貨の預貯金や株券で保有するより、正しい選択なのでしょう。原油価格が下落した2009年3月でも、金価格は異常な高値水準にあります。

 ★なわ・ふみひとのコメント★
 
著者の広瀬氏も述べていますが、近い将来に間違いなく起こると言われているのが「ドルの暴落」です。世界支配層の中枢はその日に備えてさまざまな“仕掛け”を行なっています。全く手を打っていないと見られるのがこの国です。手を打っていないのではなく、打たせてもらえないのです。日本が独自の判断でアメリカの国債を売ることはできません。「売りたい衝動に駆られる」という発言をしただけで、その後首相の座を追われ、自らは病気になり、あっさりと他界してしまった橋本龍太郎元首相のような例もあります。
  このように、日本人の税金で買ったはずのアメリカ国債(=金の裏付けのない紙切れ)でありながら、日本政府が勝手に売ることは許されないのです。やがてドルの暴落とともに日本の国債の価値も暴落することになります。その日本の国債を大量に買っているのが日本の中央銀行(日銀)です。そうなると何が起こるでしょうか。それは次のようなシナリオでしょう。「@ドル暴落」→「A日本の国債の暴落」→「B日本銀行の破綻」→「C各市中銀行での取り付け騒ぎ」→「D金融緊急措置」→「Eデノミ?」。いずれにしても国内は大擾乱ということになります。心の準備だけはしておきたいものです。

 
 
[TOP]