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 地球をこわさない生き方の本
槌田劭 編著  岩波ジュニア新書
 
 
 今のままですまされるのか

 お金で換算する自給率ではピンときにくいと思いますので、カロリー換算で考えてみましょう。日本のカロリー自給率は年々低下してきて、今日では50パーセントを割っています。国産の牛肉も、そのえさが輸入穀物ですから、輸入が止まれば畜肉も消える運命にあるのです。もし食料輸入が止まったら、食料品価格が暴騰して、金のある人はなんとかなるけれど、金のない者はどうにもならないという事態が起こると考えなければならないですね。国民の多くが飢えることになるでしょう。
 まさか輸入が思うようにならなくなることはないだろう、外国の安い食糧は将来もあてにできるはずだというのは、2つの理由でむずかしい。1つは、現在食糧の輸出国になっている国でも、いつまでも輸出能力をもつかどうかわからない問題。もう1つは、輸入農産物の代金を払うだけの黒字を生む日本の経済力が、ずっと続くのかという問題です。
 第一の問題で言うと、異常気象が起こったときに、自分の国で飢えている人が出る中で食糧を輸出するようなおめでたい国はありません。異常気象だけでなく、アメリカでは既に表土流出という現象に表れているように、輸出用の穀物をつくるためにめちゃくちゃな土地収奪をしているのです。そのことで地力が衰え、砂漠化する。あるいは井戸水を使って灌漑をしているところでは塩害が出てくる。農業国アメリカの没落というのは、そう遠くはないのではないかと心配されはじめています。
 いずれにしても、近い将来に飢えの危機が待っていることは確かだと思います。

 数年前、日本で「飢餓のアフリカの子どもたちを救おう」というキャンペーンが大々的に行なわれたことがあった。キャンペーンは終わったけれど、飢餓そのものが終わったわけではない。今でも、世界のどこかで、お腹をすかせ、ぎりぎりのところで生きている人たちがいる。
 一方、私たちは、お腹がいっぱいになったら、目の前のお皿にまだ料理が残っていても、「もう食べられない」と残してしまう。同じ地球上に生きていて、一方は飢え、一方は飽食の極み。地球全体で言えば、いま食糧が足りないわけではないのだ、ただ「豊かさ」が特定の人々にかたよっているだけ。そして、「必要」が満たされない一方で、「無駄」が生じている。現実にどのくらいのかたよりが存在しているのかを、環境問題に詳しい、もと毎日新聞論説委員の高榎尭さんにたずねてみた。高榎さんはジュニア新書『地球の未来はショッキング!』の著者でもある。
 一番最初に見せてくれたのが、アメリカの新聞ニューヨークタイムズ。「牛たちの悩みごと――豊かな暮らしの象徴がついに地球の問題リストにのぼってきた」というタイトルだ。
 「アメリカ人がその蛋白源として頼っている家畜牛が、環境にどのくらい大きな悪影響を与えようとしているかといった話なんです」。

 
肉食文化の身勝手さ

 高榎さんは説明してくれた。
 「ひとつは莫大な餌の消費量。2億5000万人のアメリカ人が食べている牛を育てるために、毎年1億3600万トンもの穀物が餌として使われているのです。これは、4億人分の食べ物に匹敵する量だということです。世界の飢えを少しでもなくすのに十分に役立つ食糧を、牛が消費しているわけです」
 ウーン、なんということだ。
 「ここには、牛の出すメタンガスについての指摘があります。つまりおならですね。それが地球の温暖化をすすめていると言っているんです」
 牛のおならが環境破壊!? 
 読んでみると、家畜牛が地球に与えていると思われるさまざまな被害を、賛成意見、反対意見を紹介しながら、ことこまかく解説している。アメリカにもっと人口が少なかったころは、牛が環境に与える影響は少なかった。ところが、いまでは乳牛、肉用牛の飼育が公害を増やし、個人の健康から地球環境にまで悪影響を及ぼしているというのだ。ここでさらに記事を要約して紹介してみよう。
 「農業廃棄物はもっとも大きな公害問題のひとつとなっている。アメリカ全土の約半分の農地が家畜の放牧によって占領され、その廃棄物を垂れ流しにすることによって、水の中に窒素を増やし、川を汚染するという声もある」
 「乳牛のための牧草地を作るために、ブラジルや中央アメリカの熱帯林が切り倒されたという指摘もある。過去数十年間にわたって、中央アメリカの熱帯雨林の何百万エーカーが切り倒されてきたのである」
 餌の消費からはじまって、これでもかこれでもかと牛の罪が書かれていて、ちょっと牛がかわいそうになってしまう。ところがよく考えてみると、これはぜーんぶ私たち人間の犯した罪なのだ。(中略)
 この家畜牛の飼育による環境破壊を指摘しているミンツァー教授は、「私たちは、私たちの健康、世界の飢え、そして私たちの地球を救うためにも、牛肉に頼ることをやめなければならない」と最後に言っている。

 ★なわ・ふみひとのコメント★
 
30年以上も前に書かれた本です。著者の指摘の正しさが証明されつつあります。家畜は国内で生産されていても、その餌の大半は輸入に頼っているという実情は意外と視野に入っていない人が多いでしょう。しかも、食料生産に石油エネルギーは欠かせません。石油が止まれば農業も止まるのです。日本の食糧事情がいかに薄氷を踏むような危うい状況に置かれているかを自覚しておきたいと思います。近い将来、この国も必ず食糧危機に直面します。今日からでも、せめて飽食の習慣は改め、食べ物を大切にする生活態度を身につけておきたいものです。

 
 
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