日本の「食糧自給率30%」の裏側
「日本の食糧自給率は、30%である」ということが、よく言われる。それは、もちろん間違ってはいないわけだが、この数字の裏側には、じつに大変な問題が潜んでいる。
たとえば、トウモロコシなどは99%近く輸入している。というと、「北海道には、広大なトウモロコシ畑があるじゃないですか。おれはあそこで、たらふくトウモロコシを食べてきた」というような反論が寄せられるだろうが、その北海道の畑のトウモロコシの種は、シードF1(フオーミュラーワン)といって、アメリカから買ってきたものである。
F1というのは雑種一代目の種であり、雑種強勢(ヘテローシス)により両親の長所を合わせ持つ優れた種である。しかし、そこには日本にとって大きな落とし穴がある。それは、次の代へとその性質を安定的に引き継ぐことができないという点だ。F1がちゃんと実ったからといって、そこから次のF1の種を採ることはできないわけである。
そのため、F1種の優れたトウモロコシを作り続けたいのなら、毎年アメリカから新たにF1の種を買い続けねばならないわけである。つまり、日本で消費しているトウモロコシの一部は、たしかに北海道で採れてはいるが、それはアメリカから種を輸入したトウモロコシであり、アメリカのコントロール下に100%おかれているのである。
卵の自給率、肉の自給率についても、同じことがいえる。卵を生むニワトリも、牛や豚もトウモロコシを食べているわけだから、トウモロコシがなくなってしまえば、ニワトリ、牛、豚はこの日本からほとんど姿を消してしまう。
自給率2%!?
日本の穀物の自給率は1994年度のデータで見ると、コメはさすがに120%と必要分を確保しているが、他は悲惨な数字がズラリと並ぶ。
例えば、パン、うどん、ソバ (ソバ粉100%というソバはほとんどない。大抵は小麦粉を混ぜている)、クッキー等の原料となる小麦の自給率はわずか9%であり、納豆、豆腐、油あげ、キナ粉、ミソ等の原料であり、日本人の食生活とは切っても離せない大豆の自給率に至っては、なんと2%である。また、主に家畜のエサとなる飼料用トウモロコシの輸入の99%を日本はアメリカに頼っている。なにしろ、日本は世界最大の穀物輸入国なのである。
ところが、人口の爆発的増加と人間のとどまることを知らない欲望が穀物需要を今後爆発させることはまちがいない。国連のデータによると、人口増加のピークは1990年から2020年までで、毎年この地球上に1億人近くが追加されることになる、25年後の2020年には80億人を突破するものと思われる。しかも、その人口爆発はアジアを中心とする低開発国で発生する。辻井博・京都大学大学院教授によると世界の穀物総需要は2020年に1993年の75%増になるという。その時アジアで、4.7億トンの穀物不足が発生する。1993年の世界の総穀物貿易量は2.3億トンしかない。食糧の壮絶な奪い合いが間もなく始まることだけはまちがいない。その時、日本はどんなことになっているのだろうか。
食糧・種を支配する人々
「穀物メジャー」という言葉には、何か超国家的な不気味さがつきまとう。
石油メジャーにしても、穀物メジャーにしても、メジャーなる言葉が人々の口にのぼるときは、世界に動乱の火種が降り注ぐときだ。実際、石油メジャーなる言葉が広く日本人の間に知られるようになったのは、1973年の石油ショックのときだった。彼らが石油という死活的戦略物資の価格を自在に操るのを目の当たりにして、日本人は肝を冷やした。
穀物メジャーが史上空前の利益をあげたのも1970年代のことだった。世界的に穀物需給が逼迫し、食料危機が叫ばれた時代だ。しかも旧ソ連が穀物メジャーを通じて大量の穀物を買い付けたとき、メジャーは超大国アメリカの意志をも無視して、ソ連と取引し、莫大な利益をあげた。こうして穀物メジャーは、ビッグ・ビジネスに成長していった。
「穀物メジャー」は、じつにミステリアスなベールに覆われている。実際、私の知り合いの穀物の専門家も、いったん話題が穀物メジャーのことになるとあまり多くを語ろうとはしない。彼は冗談半分に「ミシシッピ川にだけは浮かびたくはないからね」と言ったきり、口をつぐんでしまう。確かに、「穀物メジャー」には秘密めいた部分が多い。一種のマフィア的存在といってもよい。つまり、ごく一握りの出資者によって株式が独占され、経営内容も外部には一切公表されない。さらに多国籍企業であるために、時には国家をも越えた行動をとることがある。
食糧を支配する人々
世界の穀物をほぼ集中的に扱っている存在として、「五大穀物メジャー」がある。五大穀物メジャーは、いずれも多国籍の穀物商社であり、種子の開発から穀物取引、販売までを一貫して行なっていて、きわめて独占度の高い組織だ。
というのが穀物メジャーについての差し障りのない紹介なわけだが、じつは世界の穀物というのは、ある程度以上のまとまった量になると、この組織以外からは買えないのである。しかも、五大穀物メジャーから穀物を買える組織もまた、きわめてわずかな限られた組織だけなのである。
日本では、三井物産、伊藤忠、組合貿易、三菱商事、丸紅は、五大穀物メジャーと取引をすることができるが、この五社以外は、五大穀物メジャーから直接に穀物を買うことはできない。そうした集中度や独占度、それに不気味さが、石油メジャーにとてもよく似ているので、穀物メジャーと呼ばれるようになったわけである。
カーギル、ブンゲ、ドレフェス、コンチネンタル、アンドレが、その五大穀物メジャーだが、カーギルを除き、すべてユダヤ系資本である。またこれらはすべて同族企業であり、株式も非公開であるなど、その実体は必ずしも明らかではない。
五大穀物メジャーの市場シェアについては、さまざまな観測がなされているが、アメリカの穀物輸出の80%以上にものぼることは、確かなようである。それに、アメリカの農業政策に、大変大きな影響力を持っていることも、見逃してはならない点だ。
新農業法などアメリカの新しい農業政策、それに戦略物資としての食糧という位置づけによる国家戦略にも、穀物メジャーは少なからず関与していて、そこには穀物メジャーの利害が密接にからんでいると見ておかねばならない。
★なわ・ふみひとのコメント★
私たちの胃袋が穀物メジャー(を支配している勢力)に握られているという現実を直視しておきたいと思います。彼らのさじ加減で、日本はいとも簡単に“飢餓列島”と化してしまうのです。現在も世界の飢餓人口は年々増加の一途をたどっているのですが、これまで貿易黒字によって世界中の食糧を買いあさることができた日本の国民は、飢餓を体験することはありませんでした。しかしながら、世界中でこれだけ異常気象が続くようになると、この国がある日突然、深刻な食糧危機に見舞われるということは十分予測されることです。そのような事態に備えて食糧を備蓄しても、抜本的な解決策にはなりません。それよりも、「飽食・美食の習慣を改め、少食・粗食に慣れておく」ことでしょう。普段から食べ物や水を大切に取り扱うという心の姿勢を持っておくことが、食糧危機を乗り切るキーポイントになります。
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