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 この国の
権力中枢を握る者は誰か
 菅沼光弘・著  徳間書店
   
 
 今回の東日本大震災と福島第一原発の事故の対応をめぐっては、日本の強さと弱さの両面がはっきりと出ました。
 未曾有の大津波は、巨大な自然の力ですから、どんなに優れた人間でも対応できない人智を超えるものがあった。しかし、福島第一原発の事故に対するお粗末な危機管理、さらには遅々として進まない復興へ向けた動きなど、震災後数カ月経ったいま、人災の側面が強く出てきています。
 リーダーの資質の問題はもろちんある。しかし、それ以上に日本という国家がもつ致命的な欠陥が明らかになってきました。国家の中枢部分が、実はメルトダウンしていて、意思決定がうまくいかない。もっと言えば、外国の国家利益に日本の政治家が振り回されているという、独立国家としてはきわめて歪な権力の構造をこの日本が持っているということが露呈してきているのです。
 日本の権力中枢が乗っ取られ、内側から食い破られている。この状況は、なにもいまに始まったことではありません。大東亜戦争における敗戦からこのかたずっと、日本はアメリカという戦後世界の覇権国の都合のいいように国家体制をコントロールされてきました。田中角栄首相の失脚以来、日本の歴代の首相たちは、アメリカの意向を無視してはその地位を保てなくなった。戦後、驚異的な経済成長を果たした日本は、『シャパン・アズ・ナンバーワン」といわれる世界第二の経済大国になりましたが、その原動力として国家体制を支えてきたのは、優秀な官僚制度でした。東西冷戦が終結して以降、「平和の代償」を求めて日本の経済力を標的にしたアメリカは、この日本の官僚制度に狙いを定め、官僚たちをアメリカの影響下に置いた。その結果として、バブル崩壊後の長い経済の低迷のなかで日本は「平和の代償」を支払い続ける国に変えられてきたのです。
 政治レベルの話だけではありません。国民レベルでもアメリカは洗脳支配を続けてきました。大東亜戦争中、天皇陛下のため、国のため自らの命を捨てて戦う日本軍兵士の姿に恐怖を感じたアメリカは、日本人そのものを改造しようと、憲法を変え、教育制度を変えた。基本的人権、個人の尊厳がいちばん大事だという考え方を日本人に植えつけたのです。このアメリカによる日本人の精神改造は、ほとんど完璧なまでに成功しつつありました。
 ところがです。3万人にも及ぼうという尊い人命が失われ、生活の基盤である住宅や工場が壊滅状態になった東日本大震災のさなか、東北の人たちは、社会の秩序をいっさい乱すことなく、お互いに励まし合い、助け合って、一丸となって危機に対処した。これが、他の国であったならば、恐らく略奪や犯罪が多発して、治安の悪化を免れなかったでしょう。実際に2005年にアメリカ南部を襲ったハリケーン「カトリーナ」によって被害を受けた地域は、暴行・略奪が蔓延して大混乱に陥った。ところが、日本ではそうはならなかったのです。
 この被災他の東北における日本人の立派な態度を見たアメリカのジャーナリストが、「日本人は変わっていなかった」と報じました。個人主義で、自分のことしか考えないアメリカ人と同じ精神に日本人を改造したと思っていた彼らにとって、今回の震災で日本人が見せた国家のためには自己犠牲をもいとわない精神力は、まさに驚異だったはずです。
 日本人は、戦前となんら変わっていなかった。菅首相を始めとする政治家たちや、東電の首脳部は無能でも、現場を担う東電の社員や下請けの作業員の人たちの勇気と行動力、自衛隊員たちの献身的な活動ぶり、被災者たちの忍耐強さは、日本人の強さを世界に印象づけたのです。この人たちがいるかぎり日本は大丈夫だ。そのことを再確認することができた。
 戦後、65年以上の長きにわたってアメリカの事実上の従属国として、安全保障の代償として、自国の利益を損なわれ続けてきた日本という国家は確かに脆弱です。しかし、国民はけっして弱くない。大震災からの復興はこの日本国民の強さで必ず成し遂げることができるはずです。そのためにも、日本の国家中枢の建て直しが急務です。日本は真の独立国家として、立派にやっていける強い国なのです。


 ★なわ・ふみひとのコメント★ (2012年記)
 
最近出版される書籍は当サイトでご紹介したいと思うものがない、と嘆いていましたところ、久々に骨のある本に出会いました。本日ご紹介したのは著者のまえがき(全文)です。最後の部分の「日本人の強さを世界に印象づけた」「この人たちがいるかぎり日本は大丈夫だ」といったくだりなどは、「その通り!」と思われた方が多いことでしょう。私も最初に読んだ時はそのように思いました。が、じっくり読み返してみますと、少し疑問に感じるようになりました。
 著者は「日本の国家中枢の立て直しが急務」と結論的に述べていますが、ではその国家中枢の建て直しは、誰が(どの層が)やるのでしょうか。「国民」という抽象的な存在がやってくれるわけではありません。いま政治家や主要マスコミの中枢、経済界のリーダーなどに、この国を愛する赤誠の人物がどれだけいるでしょうか。もしいたとしても、そのような人物は支配層からマークされ、権力中枢からは外されてしまっています。
 いまこの国では、マスコミが政治や世論をいとも簡単にコントロールできるようになってしまっているのです。ですから、マスコミをお金の力で支配している勢力こそが、この国の権力中枢だと言えます。その勢力が“外国”に支配されてしまっている現状では、もはやいかなる政治家も経済人も、この国の権力中枢の建て直しに力を発揮することはできないのです。この国をこのような形で完全支配するために、アメリカ(を裏で支配している層)が時間をかけて、計画的に、国民の洗脳を行なってきたのです。
 そういう中でも、東日本大震災で見せた東北の人たちの優しさは賞賛に値しますが、そのような被災者の方々を国がまともに救済できないこの国の弱さも露呈してしまいました。国民一人ひとりはやさしいけれども、国を挙げてことを行なうという団結力は発揮できなくなっているということです。これこそが、アメリカ(を裏から支配している層)の狙いだったのです。戦後65年が過ぎた今、ようやく日本は牙のないおとなしい国民ばかりになってきたと、彼らはほくそ笑んでいることでしょう。残念ではありますが、この現実を直視することから始めなくてはなりません。この国はもはや国民を守る意思を持たない勢力に牛耳られてしまっている――そう認識することが、終末の時代に必要とされる心構えなのです。
 
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