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 あなたの夢はなんですか?
池間哲郎・著  致知出版社
 
 
 一度でいいから、お腹いっぱい食べてみたい

 私がカンボジアを初めて訪ねたのは1998年の秋のことでした。20年間も続いた内戦が終わり、やっと国民生活も落ち着きを取り戻したころでした。
 朝、プノンペン市内を散策してみると町には活気があり、人や車の往来も激しい。この国が確実に発展していることが実感としてわかりました。
 町を歩いて気づいたことがほかにもあります。路上で生活している人々の多さです。道路沿いの壁にブルーシートを縛りつけて屋根にしただけの住居に暮らしている家族がかなりいます。ストリートチルドレンと呼ばれる、親のいない子どもたちが道ばたで眠っていました。泥にまみれた手足は傷だらけ。シンナーなどの薬物が入ったビニール袋をくわえている子どもも見かけました。この国の貧しさを目の前に見せつけられたように思いました。
 プノンペン市の郊外にステン・ミエン・チャイと呼ばれている地域があります。ここは百万都市プノンペンのゴミ捨て場です。フィリピンのスモーキーマウンテンと同様、広大な敷地に入ると煙がモウモウと立ちこめ、目が開けられないほどでした。そして、吐き気をもよおす強烈な悪臭。
 目を凝らして見ると、多くの人が煙の中でゴミを拾っているのが見えました。何か食べられそうな物、お金に換えられそうな物を探しているのです。手には引っかき棒を持って、真っ黒になってゴミを拾っていました。ここでは大人も子どもも関係ありません。
 カメラを抱えてゴミ捨て場を歩いていると、8歳ぐらいの少年に会いました。足の先から頭のてっぺんまで真っ黒。足は裸足で、手を見ると爪がめくれ、傷だらけです。
 この少年と仲良くなりました。そして
「あなたの夢はなんですか?」と、いつものように聞いてみると、彼は少しはにかみながら答えました。
 「一度でいいから、お腹いっぱいになるまで食べてみたい」
 これはよく耳にする言葉です。

 この男の子も、生きるために懸命に働いていました。夜明けから日没まで、1日10時間近く、ずっと働くんだと言っていました。ピン、空き缶などをゴミの中から拾い集め、お金に換えて暮らしているのです。しかし、1日中働いても稼ぎは日本円で50円にも満たない。1食を食べるのがやっとです。
 日本の子どもたちは、ここに連れていくだけで泣いてしまうでしょう。とても働けません。だから、働いている子どもたちの姿を見ると自然に頭が下がってしまいます。
 ゴミ捨て場を歩いていたら、一人の少女と出会いました。ゴミの中で空き缶を黙々と整理していました。彼女はまだ4歳です。ここでは4歳の少女でも働かないと生きていけないのです。彼女にはお母さんがいます。でも、お母さんがいくら一生懸命働いても、人間一人が食べる分さえも稼ぐことができません。だから、この少女が生きようと思ったら、自分で働くしかないのです。
 子どもたちは明るくて非常に元気そうに見えます。でも、皮膚病、目の病気、内臓の病気、いろんな病気を持っています。病気のない子はいません。
 ここの子どもたちは靴が買えません。カンボジアで中古の靴が100円ぐらいで売られています。でも、その靴が買えないのです。だから裸足か草履でゴミの中に入っていく。するとガラスや鉄くずで足を切ってしまって、そこからばい菌が入って感染症、破傷風などの病気で死んでしまう。そういう子がたくさんいます。
 
一方に、物があふれ、食べ物さえも粗末に扱い、ありがたさを知らない豊かな国があるかと思えば、もう一方には一日中ゴミの中で働いている子どもがいる。一度もお腹いっぱい食べたことがなく、いつも死と隣り合わせで生きている子どもたちがいる。このことを豊かな国の人たちになんとかわかってほしいと思います。
 
 
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