「しつけ」を忘れた現代の親

　私が子供のころ、とくに親や学校の先生から厳しく仕込まれたのは「しつけ」だった。私は、腕白小僧だったが、なんで叱られたのかは思い出せないが、土蔵の中にあった大きな米びつに再々人れられたことははっきり覚えている。真っ暗で恐ろしいところだ。おしっこでもして抵抗すればよかったのに、幼い時だけにそんな知恵は浮かばなかった。
　そういう細やかな親の「しつけ」教育があった。それは、親ばかりではない。外で遊んでいて何か悪いことをすれば、近所のおじさんやおばさんに「いけませんよ」とたしなめられるということも少なくなかった。大人は子供たちを、地域の子供としてお互いに育てあったのだ。自分の子、他人の子を分け隔てなく育てるという気風があった。
　こういう親や地域の「しつけ」は、今と比べて厳しかったと思う。
　人様に迷惑をかけてはいけないという気持ちが社会一般に強かったからだと思う。そして、たんに人様に迷惑をかけないだけではなく、人様の役に立つように生きなければならないという気風も強かったように思う。「恥を知れ」という考えも社会にみなぎっていた。日本の文化を人呼んで「恥の文化」という所以である。
　世の中のためになる、社会のためになる、公に尽くすような生きかたをする。家門のために恥をかかないような生き方をする――それが当たり前の考え方だったのだ。それが「しつけ」に厳しかった理由だったと思う。
　最近は、電車のなかで子供が回りの迷惑もかえりみず走り回っていても、それを厳しく窘（たしな）める親の姿というのは、あまり見かけなくなった。誰かが注意でもしようものなら「子供が遊ぶのが何か悪い」とでもいわんばかりの顔をする親さえ見かける。
　そもそも「しつけ」という観念自体が、近頃の日本にはなくなってしまっているのではないだろうか。現代の親がその親の代からすでに「しつけ」をされなかったからにほかならない。
　「しつけ」というのは、家庭から次の世代の家庭へと受け継がれてきたのだが、戦後は、それが希薄になったようだ。核家族化で親から子へ、子から孫へという「しつけ」の橋渡しができなくなっていることや、地域社会というものが以前と比べて希薄になったことも原因しているだろう。これもやはり現行憲法の「個の尊厳≒個の自由」という理念が誤って、「しつけ」などは「個への干渉だ」という社会風土を作ったことに基本的な原因があるのではないだろうか。魂を抜かれてしまった国の社会風土が必然的に生み出した失策であり汚点なのだ。

　今すぐ始めよ、「家庭のしつけ三つの原則」

　日本の家庭の「しつけ」に関して、こんなデータがある。
　2000年2月初旬に発表された文部省の国際比較調査だ。日本と韓国、米国、イギリス、ドイツを比較したのだが「父母から『うそをつかないように』とどの程度言われたか」という問いがある。その結果は次のようなものだった。

「よく言われる」
　★お父さんから 　　　★お母さんから
　日本　　　 11％ 　　　日本 　　　16%
　韓国 　　　41％ 　　　韓国　　　 42%
　米国 　　　47％ 　　　米国 　　　50%
　イギリス　 44％ 　　　イギリス　 49%
　ドイツ　　 28％　　 　ドイツ　 　32%

　日本の家庭の「しつけ」は、比較したどの国よりもかなり低い。
　子供は、まず家庭から育つ。家庭での「しつけ」がこういうていたらくでは、将来の日本を背負う世代がまっすぐ育つことはむずかしい。これもまた「亡国への道」なのだ。
　「しつけ」とは、けっしてむずかしいことではない。誰でもできる教育なのだ。
　人が２人いれば組織である。家庭は社会の基であり、社会参加の入口なのだ。それは国の基でもあるのだ。その「２人」がいかに協調するかを普通の頭で考えれば、「しつけ」になるのだ。
　たとえば自分のことだけを優先してわがままを主張し、それが通らなければ相手の頭をコツンとやるようなら、「止めなさい」と教えることだ。相手の存在を尊重すること。それが「しつけ」の基本である。相手の立場に立って、自分がして欲しいと思うようなことをしてあげる。それが協調の基本である。
　「しつけ」とは、いってみれば「ガマン」を教えることであり、学ぶことだ。「相手」という存在を認めることだ。それが組織が健全に育つ基本であり、個人が健全に育つ基本にもなるのだ。人間も動物である。その中にあって人間たる所以は、「したいことでもやってはならないことは絶対させないこと」。「やりたくなくとも、しなければならないことは必ずさせること」なのだ。
　「しつけ」について、私がいつも思い出すのは、私が信奉している戦前の教育哲学者・森信三先生が提唱した「しつけの三原則」だ。

１．まず組織の公の始まりは家から始まる。だから朝起きたら目上の人に素直に「おはよう」とあいさつできるようにしつける。

２．家庭の生活は組織活動の第一歩だから、たとえば庭や玄関の掃除をしなさいと命じられたら「はい」と答えるようにしつける。

３．後片付けをきちんとできるようにしつける。たとえば子供が遊んで外から帰ってきたら履き物をきちんと揃えてから家に入る。テーブルを離れる時は椅子を元にキチンとおさめる。

　基本はこれだけである。

★なわ・ふみひとのコメント★（２０１３年）
　世界に誇れる民族であった日本人の最近の劣化ぶりは著しいものがあります。そのことを著者は嘆きつつ、警鐘を鳴らしているのです。しかしながら、「日本人はなぜこんなにも劣化したのか」ということに関する分析は不十分です。ここで中條氏は、「しつけ」などは「個への干渉だ」という社会風土を作ったことに基本的な原因がある‥‥と述べていますが、ではそのような社会風土は誰が、何を意図して作ったのか、というところまでは踏み込めていません。
　日本人を劣化させる計画は明治維新後、そして決定的には戦後マッカーサーに率いられたＧＨＱによって作られたのです。それをデザインしたのはいずれも世界人類の奴隷化（家畜化）をもくろむあるグループなのですが、このあたりのところは当サイトを通じてじっくり理解していただきたいと思います。私はその“デザイナー”のことを「世界支配層」「陰の超国家権力」などの言葉で表現していますが、その中心部にどんな人間たちがいるのかは漠としてわかりません。また、知る必要もないでしょう。
　私たち一般人が彼らの意図に抵抗できる最大の方策は、「自らが家畜にならないこと」です。つまり、人間としての尊厳を大切にし、他者を思いやり、世のため人のために自らを律することのできる人間になる努力をすることにつきます。すなわち、戦後教育の中に意図的に潜り込まされた「個人主義」という病原菌に染まらないことが最も大切な“身魂磨き”だと確信しています。

★なわ・ふみひとのコメント★(２０１２年)
　 この国は今、放射能汚染の広がりや、東日本大震災と同規模の自然災害に襲われることに対する恐怖におびえる人が多くなっているように思われます。これを一口に「終末現象」と断ずることもできますが、カルマの法則の観点から考えるならば、私たちならびに私たち日本人の祖先が紡いできた民族の心(日本人の集合無意識)の反映ということができます。
　特に昨今の日本人の心の乱れ(我善し＝自己中心主義の蔓延)が社会や自然の乱れとなって返ってきているとみるべきでしょう。それらの現象はすべて私たちに「気づかせるため」に起こるのです。もちろん、この肉体生命も粗末にしてはいけませんので、当座の生き残りのためには地震や津波への物理的な備えは必要でしょうが、終末の大峠の大天変地異の前ではいかなる物理的な備えも海の藻屑となる可能性が大です。必要なのは心の備え、つまり「心の大掃除」なのです。まずは日常的な「身・口・意」のコントロールから、今すぐ始めることです。この本の著者が述べているように、みんなのため、世の中のために自分を律することのできる人間になること――そのことが、身魂磨きの大切なポイントなのです。こどものしつけも大切ですが、まずは親から、大人から実践しなければなりません。「気づき」のために、終末のアンカーである私たちに残された時間は非常に少なくなっているからです。