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 日本よ
石原慎太郎・著  産経新聞社
 
 
 中国をどう扱うか

 一年ほど前今日の中国を表象する興味ある光景をテレビで目にした。広州から北京まで敷設された新しい鉄道の沿線にいろいろ開発が進み、ある町が新設の工場のお陰で発展してる。その工場の工場長は女の地区共産党の幹部でまだ20代の若さだが成績を上げるために極めて厳しい監督ぶりで、いつも工場内を歩いて監督し能率の上がらない労働者を叱りつける。
 コンベア・ベルトの前で仕事する職員は戦々恐々で、彼女が回ってくると身を縮め緊張している。彼女はそれぞれの職員の能率のデータを眺めては、駄目な労働者はその頭を後ろから殴るに近く激しく小突いてしごき上げる。彼女の前ではいい年の従業員も身をすくませながら懸命に働きつづける。その様子は奴隷とまではいかないが、かなり残酷に使役されている労働者という印象は否めない。聞くところこうした工場では作業の正確さを保持するために、眼鏡をかけた者は採用されず、視力を落として眼鏡をかけた者はクビになるそうな。
 これがもし日本や他の国々なら、そうした労働条件に関して社会党なり共産党といった政党がバックアップしてストライキも起ころうが、なにしろ共産党独裁の政治体制では、当の共産党が企業の生産態勢を管理しているのだから労働条件に関する問題はまず起こりようもない。中国の製品が世界的に強い競争力を保持するチープレイバーの所以はそこにあって、私がテレビで目にした光景はそれを如実に教えていた。だから他のアジアの国々でのチープレイバーも中国には太刀打ち出来ないで、必然中国の製品は無類の競争力を持つことになる。
 これは毛沢東が人民を解放したに次いでケ小平が経済を解放した政策が一応の成功を見せた証左ではあろうが、この類例のない経営形態が結果として国際競争の中で他国を蹴落としブラックホールのように周りを吸いこんでしまう状況が現出しつつあるということには注意する必要がある。こうした異形な国家が、他の先進国にはあり得ぬ労働条件だけではなしに、また片方では他国の知的所有権を無神経に踏みにじりそのコピーを氾濫させて顧みないでいるというのに、そのままWTOに参加する資格があるのかどうか疑わしい。
 聞くところ中国の人口は13億、内の4億人は都市戸籍を持ち残りの9億人は農村戸籍という。社会保障や医療保障を受けることのできるのは都市戸籍の所有者だけで、農村から都市に移って都市戸籍の利便を享受するためには大学を卒業しなくてはならぬそうな。それは貧困に喘ぐ農民にとって不可能なことだろう。
 そしてその農村には推定最高六千万といわれる、一家一児制の元でやむなく生んでしまい隠したまま育てられた無戸籍の子供たちがいて、その多くの者たちはすでに成長しさらにその子供を生んでもいる。
 彼等の生活水準は都市のそれに比べて著しい格差があり、東北郡の農村の農民の平均寿命はわずか45歳という。近年の気象異変で黄河の水は枯渇しかけていてその河口では水流が見られず、彼等が一月に使用出来る水の量は一人当たりわずか30リットル程度だそうな。
 こうした国家的な大きな歪みはどれほど隠しても隠しきれるものではなく、当然情報として全国に波及していこう。そしてそうした格差に押しひしがれている人民に都市、あるいは外国への出奔衝動をかもしだし、今日、日本に限らず多くの格差難民がヨーロッパ諸国にも溢れだし、従来あり得なかった犯罪を猖獗(しょうけつ)させ始めている。現実の格差の歪みに喘ぐ国民たちが、まして国籍も戸籍も持ち得ぬままに、犯罪という行為に躊躇する心理的な抑制力などありようもあるまい。
 日本もまたその被害を被っているものの一人で、中国に限らず富裕さを求めて日本に不法入国してくる外国人の数は日増しに増加してい、不法な入国滞在ゆえ必然その多くは犯罪要員となり、日本の暴力団が凶悪犯罪の担い手として一種のチープレイバーとして彼等を悪用するケースも増えている。
 特に暴力団同士の抗争の際の殺人などの担い手として彼等を雇う際の保証の費用は格安ゆえに珍重されるという。いずれにせよ日本における外国人による犯罪数は急増しており、その中での中国人の犯罪数は顕著に拡大している。前にも指摘したがこのまま抑制がきかぬままにいくと例の「蛇頭組織」などの存在はさらに強化され、それに日本の暴力組織が合体して犯罪そのものが凶悪複雑化する恐れがある。
 日本政府のこうした状況への認識把握は極めて甘いものでしかなく、その温床となりつつある大都会の居住者の方がはるかに危機感に満ちていて、先般の都民の意識調査でも外国人犯罪をふくめての治安への不安が急増している。
 それを裏書きするように最近極めて暗示的な犯罪事例がいくつも見られる。先日、警察が追いつめた中国人の犯罪者が、数メートルもある高い垂直な壁をいとも簡単に素手でよじ登って逃走してしまった。目撃した警察官の報告では、あれはその種の訓練を受けた特殊部隊のようなプロ以外に出来る技ではないと。こうした人間が何を目的に誰によって派遣されてくるのか、日本の政府はそれを確かめ防ぐための手立てを講じる責任があるはずであるが、今の外務省や法務省にその責任感なりその姿勢が果たしてあるのか極めて疑わしい。
 いずれにせよ我々の隣りの中国は軍事力を背景にした強引な拡張主義による脅威に加えて、彼等に内在している社会的な歪みのあまりの大きさのゆえに、私たちの生活にじかに関わる日本国内における治安の上でも極めて危険な要因となりつつあるという認識は国民市民として強く持たれるべきに違いない。   (2001年9月3日)

★なわ・ふみひとのコメント★(2011年記)
 今から15年以上も前に書かれた文章です。この10年間で中国はアメリカに次ぐ経済大国となり、国内の矛盾はさらに深まりました。1年間に万単位で発生していると言われている暴動を国家権力で押さえ込んできましたが、2013年の国家指導体制の交代に伴い、さまざまな矛盾がさらに吹き出してくる可能性が高いと見られています。
 その国内の不満のはけ口を他国への侵略侵攻に向ける準備も着々と進められていることでしょう。ターゲットとしてもっとも美味しいのは日本です。すでに我が国の主たるマスコミは彼らの手に落ちてしまいました。彼らにとって都合の悪い人間はマスコミを使って攻撃し、その評価を落とすことなど簡単なことなのです。
 石原氏はその中国の魂胆を早くから見抜き、警鐘を鳴らしてきた人物なので、常に中国からはマークされてきました。私が客観的に見る限り、氏はこの国を憂う気持ちが人一倍強い国益派です。世界支配層の指示を受けて巧妙に立ち回っている国際派(売国派)の小沢一郎氏とは反対の極にいる人物と言ってよいでしょう。残念ながら、記者たちの挑発に乗りやすく、不用意な発言が多いため、中国から“働きかけ”を受けていると思われる朝日新聞や毎日新聞および系列のテレビ局や週刊誌など反日マスコミの格好の餌食にされています。
しかしながら正論は正論ですので、そういうマスコミの意図的な“石原叩き”に目をくらまされることなく、ここにご紹介したような氏の情勢認識は参考にしていくべきであると思っています。
 
 
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