地球ガイアの祈り
21世紀に生まれ育つ子供たちのために――。
龍村 仁/龍村ゆかり・著
角川学芸出版 2008年刊
 

 共鳴する人のつながり

 今私は、この原稿をアフリカ・タンザニアのゴンベ国立公園のキャンプで書き始めている。時間は夜9時、外ではタンガニカ湖の波音が低く重く、まるで地鳴りのように響いている。
 ‥‥(中略)‥‥
 これらの“偶然”の重なりは、誰の意図によってなされたものでもない。にもかかわらず、ジェーン
(ジェーン・グドール。動物行動学者、霊長類学者。チンパンジーの観察、研究の世界的第一人者――なわ・ふみひと註)は現実に、この偶然の重なりによって、研究生活40周年を記念する講演が世界中で決まっていた超過密スケジュールにもかかわらず、「地球交響曲第四番」への出演を承諾してくれたのだ。だから今私は、アフリカ・タンザニアのジャングルの夜の闇の中にいる。
 “共時性”について語ることは本当に難しい。どうしても、人智を超えた大いなる意志の働きを認めざるを得なくなってくるからだ。すなわち、“神”の存在を受け入れるか否かが問われるのだ。キリストやブッダなど特定の神のことではない。私の言う“神”とは、科学的・理性的なものの見方では理解しきれない、何か大きな宇宙的な意志の存在のことだ。私自身はこの問いに対する答えを持っていない。ただ、はっきりと言えることは、このようなあり得ない“偶然”の重なり、すなわち“共時性”を、単なる偶然だ、と割り切ってしまうのは、あまりにも非科学的だ、と思うのだ。
 これは、生命誕生の謎と似ている。
 45億年前、宇宙の塵が集まって太陽系第三惑星地球が誕生し、その10億年後に、その宇宙の塵の“偶然”の組み合わせによって最初の生命が誕生した、と言われている。しかし、炭素とか窒素とかいった単純な無機物の“偶然”の組み合わせによって生命という複雑極まりない機能が生まれる確率は、ちょうど、ゴミの島に積もった様々なゴミが一陣の風で空中に舞い上がった一瞬に、ジャンボジェット機ができてしまう、ということを認めるのと同じぐらいにあり得ない確率なのだ。
  多くの科学者達はこの事実には言及せず、生命誕生以降の進化の仕組みの理解についてさまざまな成果を上げてきた。しかし、その根源のところでは、確率的にはあり得ないことを、ただそのままにして説明しようとしない。単なる“偶然”の重なりだった、という。あるいは“運”がよかった、という。
  この態度は、あまりにも非科学的だ、と言えないだろうか。もし、今の科学の知識によって理解し得ない事実が存在するなら、その事実を解釈できない科学の方法、パラダイムそのものを問い直してみることのほうが、真に科学的な態度だ、と言えないだろうか。
  “共時性”についても同じことが言える。少なくとも私は、単なる“偶然”だった、と割り切ることはできない。もちろん、それがなぜ起こるかを説明することもできない。
  ただ、ひとつ言えることは、それが数多くの人々の意図せぬ“繋がり”の中で生まれている、ということだ。一人ひとりは意識していない誠実な営みの“繋がり”の中で生まれている、ということだ。一人ひとりは意識していない営みの背後に、その全てを繋いでいる何か見えない力の働きがある。その見えない力が、何かのきっかけで、一気に物理的現象となって現れるのが、“共時性”のような気がする。
  だとすれば、その“きっかけ”とは何なのか、それを知りたいために、私は「地球交響曲」をつくり続けているのかも知れない。

 宇宙は記憶を持っている

 「宇宙そのものが記憶を持っているんです」
 インタビューの冒頭で、ラズロ博士はきっぱりとこう言い切った。私たちが日々なにげなく行なっている営みの全てが、宇宙の虚空のいずこかに記憶され、時空を超えて未来の世代に影響を与えてゆく、と言うのだ。
 この話を、宗教家ではなく、物理学者で哲学者でもあるラズロ博士が語ってくれたので私も驚いた。「(地球交響曲)第五番」の撮影で、ハンガリーのブダペストを訪れた時のことである。
 ラズロ博士は、7人のノーベル賞受賞者を含む世界の著名な55人の科学者・芸術家・宗教家を集めた世界賢人会議「ブダペストクラブ」の創始者である。彼の話によれば、全宇宙の70パーセントを占めているいわゆる「真空」は、我々が考えているようななにもないカラッポの空間ではなく、実は想像を絶する超高密度のエネルギーに満たされた「場」であり、その密度たるや、宇宙に存在する全ての物質(星々)が持つエネルギーの総和が、わずか1立方センチメートルの「真空」の中に納まるほどのものだ、と言う。俄(にわか)には信じがたい話だが、それが最新の量子物理学によって明らかになって来ている知見なのだそうだ。
 博士はこの「真空」を「量子真空エネルギー場」あるいは「アカシック・フィールド」と呼んでいる。我々人間も含め、物質でできている全ての存在は、この「量子真空エネルギー場」に浮かぶ小さな粒のようなものであり、我々が行なう全ての営みが、この「場」=静止した巨大な池、に小さな波紋を起こし、その痕跡がその「場」に記憶・保存される。だからその遺された痕跡の意味を読み取ることができれば、過去のあらゆる経験を現在に甦らせることができる、すなわち「過去は今現在もここにある」というのだ。
 このことを説明するのに、彼は「生命進化の謎」を例として挙げた。この地球に初めての生命が誕生して以来、わずか38億年の間に、全くの偶然の積み重ねによって、我々人類のような“超複雑”な生命体に進化する確率は、ごみの島に一陣の風が吹き、様々なごみが空中で集まった瞬間に、ジャンボジェット機ができてしまう確立と同じぐらいに、現実にはあり得ないことなのだ。にもかかわらず、私たちは今、現実にここにいる。ということは、我々人類は、単なる偶然の積み重ねによってこの地球に誕生したのではなく、宇宙の「真空」に記憶されている、過去に生まれては死んでいった全ての生命の失敗や成功の経験からなんらかの「情報」を得て、極めて効率的な進化の道を選び、今のような姿になった、と言えるのだ。
 ある著名な数学者の計算によれば、目隠しをされた人が、1秒間に1回、ただでたらめにルービック・キューブを動かして正解に至る時間は1,260億年だという。ところが、隣に目が見える人がいて、一回一回正しい方向に向かっているか否かの情報を与えてゆけば、わずか2分で正解に至ることができる、というのだ。
 1,260億年対2分、この違いがあれば、わずか38億年という歳月で我々のような超複雑な生命体が誕生した理由が説明できる。すなわち、全宇宙を満たしている「量子真空エネルギー場」は、エネルギーだけでなく「情報」も保存しており、我々は今この一瞬にも、無意識の内にその「場」から時空を超えた「情報」を得て効率よく進化し、生きている、という訳だ。
 だとすれば、我々一人ひとりが今行なっている営みの全てもまた、「情報」として未来の世代に渡されることになる。それでも我々は今選んでいる道をこのまま歩み続けるだろうか。
 「宇宙は記憶を持っている」
 最新の量子物理学の知見が「因果応報」とか「カルマ」とかいった古代からの教えの意味を説き明かしてくれるのだから人間はおもしろい。


 ★なわ・ふみひとのコメント★
 の本は、「地球交響曲(ガイアシンフォニー)」の映画で知られる龍村仁氏と奥様の龍村ゆかりさんのメッセージ集です。その中から「共時性」「量子真空エネルギー場」に関する一文を拾ってみました。この他にも新時代の到来を予感させるような素晴らしい内容が盛りだくさんです。ご購読をお勧めします。
  なお、当サイトには既に龍村仁氏の前著『ガイアシンフォニー間奏曲』の抜粋も掲載しています。この機会に読み返していただきたいと思います。
 ガイア・シンフォニー間奏曲 @ 
 ガイア・シンフォニー間奏曲 A
 
 [TOP]