被災地で何が起きているのか
わからない
2020年05月22日(金) 
 
 
 前回に引き続き「巨大地震は私たちから何を奪うのか?」の「(2)電気が奪われる」について見ていきます。
 今回は、電気が奪われることによってテレビやラジオなどの放送メディアが機能しなくなることの問題点について考えてみましょう。
 首都直下地震および南海トラフ巨大地震のあと、被災地は必ず停電します。しかも、その被災地には日本の電力の大半をまかなう施設の数々が集中しているのです。特に東京近郊は火力発電所をはじめ、その動力となるLNG(液化天然ガス)の貯蔵施設も密集しています。
 それらが地震や津波によって破壊され、炎上するのは確実と見られています。
 停電が長期間に及ぶと思われるのはそのためです。
 電気がなくなれば、テレビやラジオは放送が止まります。前回の「つぶや記」に書きましたように、「テレビもねぇ、ラジオもねぇ」という事態が起こります。
 娯楽番組やスポーツ番組が見られなくなる程度のことであれば、それほど深刻とは言えませんが、災害時に適切な情報が得られないとなると被害を拡大する恐れがあります。なぜなら、最近では台風が近づいてきたときなど、テレビやラジオによる情報に頼る人が多くなっているからです。
 巨大地震で停電が発生すると、肝心の災害情報が得られないため、多くの人が適切な行動をとることができずに混乱してしまうことが危惧されているのです。

 政府が「45の起こしてはならない最悪の事態」の一つとして「テレビやラジオの基地局が停電によって機能しなくなり、災害情報を伝えられなくなることの危険性」をリストに挙げています。
『巨大地震Xデー』(藤井聡・著/光文社)から、その内容(要約)を引用します。

H 地震直後、適切に情報が伝えられず、被害を大きく拡大させる

 テレビやラジオで洪水や津波などの災害情報を得て行動する人が多くなっている。もし通信基地が被災して情報通信が機能しなくなると、それを頼りにしている国民は避難などの適切な判断ができないため被害が大きくなる危険性がある。


 停電によってテレビやラジオの放送が止まってしまうとどういう問題が起こるでしょうか。単に津波情報が伝わらないという問題だけでなく、長期にわたって深刻な問題が発生するでしょう。
 被災地で何が起こっているのか、被害の状況はどうなっているのか、避難所はどこにあるのか、救助活動は進められているのか――などなどが、まったくわからないからです。
 被災地以外のエリアに住む人たちが救援に行こうと思っても、どこに行けば良いのかがわからないのです。どこに、どのくらの数の人たちが、どんな状態で避難しているのか、といったことが、まったくわからない中では、救助に向かうことができません。
 被災地がある程度限定されている場合は、水や当座の食料を持ってとにかく被災地へ向かえばよかったとしても、南海トラフ巨大地震のように被災地が広範囲に及ぶ場合は、各地域ごとの被災の状況をテレビが伝えてくれないと、救助に向かう場所を特定できないでしょう。
 停電でスマホや電話も使えないのですから、まさに江戸時代と変わらない状態のなかで、手探りで救助活動が行なわれることになります。950万人に及ぶとみられている被災者に、効率的に救助の手がさしのべることが難しいと思われるのはこのためです。
 被災地の情報がマスメディアから伝わらず、また通信手段がないため被災地との連絡もとれない事態は、緊急時においては文字通り「命取り」となりかねないのです。
 テレビが映らず、被災地の状況がまったくつかめないということは、別の問題も隠されています。それは、被災地では何をやってもわからないということで、火事場泥棒などもやり放題になるということです。
 この点は、「(3)安全が奪われる」という1項目にまとめて検証してく予定です。

 本日の最後に、政府がまとめた「45の起こしてはならない最悪の事態」のI〜Lを掲載しておきます。首都直下地震および南海トラフ巨大地震がもたらす被害の深刻さがよくわかる内容です。
 『巨大地震Xデー』(藤井聡・著/光文社)の内容を、原文を尊重しつつ要約し、文意ごとに箇条書きにまとめました。ご一読ください。

I 工場被災による、「サプライ・チェーン」を通した被害の全国的、世界的拡大

 今日の生産活動は、異なる場所にある様々な工場同士の複雑な流れ作業によって展開されているため、その一部の工場が被災して生産がストップしてしまうだけで、各地の工場の生産もストップしてしまう。

 こうした「広域的なベルトコンベア」のような、各生産工場の間の繋がりの連鎖は「サプライ・チェーン」と呼ばれる。つまり、巨大地震、あるいは、それに伴う計画停電(の予期)による一部の工場の操業の停止は、様々な製品における、「サプライ・チェーン」の一部を破損させ、その結果、その製品そのものの生産をストップさせてしまうのである。

J 電力ストップが、「生産活動」に深刻な被害をもたらす

 こうしたサプライ・チェーンの毀損は、地震や津波によって引き起こされるだけではない。震災の直接的被害を免れたとしても、「電力」がストップしてしまうだけで、工場の操業ができなくなってしまい、サプライ・チェーン全体がストップしてしまうのだ。

K「コンビナート災害」がもたらす、最悪の悪夢

 南海トラフ地震、首都直下地震は、臨海地域に対して、東日本大震災をはるかに上回る被害をもたらすであろうと強く懸念されている。
 なぜなら、南海トラフ地震、首都直下地震が襲いかかる臨海地域は、東京湾、大阪湾、名古屋湾という、巨大な「コンビナート」が作りあげられた地域だからである。

 東日本大震災では、東京周辺は震度5程度の揺れだったが、東京湾のコンビナートは大きく被災した。千葉県の石油コンビナートは、大火災となってしまったのである。東京湾各地の、化学工場や製線工場等で火災が発生している。

 首都直下地震が起これば、さらに凄まじい被害が東京湾の臨海部にて生ずることは明らかである。

 臨海部のコンビナートが大きな被害を受ける理由として、次の3つが挙げられる。
 第1に、臨海部は埋め立て地で地盤が緩いため大きく揺れる。だから建物が破損する可能性が格段に高い。

 石油タンクは、内部の石油が大きく揺れる現象(一般に、スロッシングと呼ばれている)が起こり、タンクの屋根を突き破って外にこぼれ落ち、仮に転倒しなくとも大規模な火災が生ずる可能性がある。

 第2に、埋め立て地は地震の揺れによって「液状化」してしまう危険性が高い。液状化とは、地震の震動によって、地盤がドロドロの液体のようになってしまう現象である。臨海部に建てられた建物は液状化によって、わずかな揺れでも大きな被害がもたらされる。

 第3は、「津波」である。首都直下地震では東京湾に、南海トラフ地震では大阪湾、名古屋湾に津波が到達する可能性が危惧されている。
 すなわち、液状化で倒壊したタンクを津波が襲い、広範囲に流出した油が引火して、東京湾が一面「火の海」となる可能性が危惧されている。
 この点について、元土木学会会長、早稲田大学の濱田政則教授は、次のように発言している。
「東京湾にはスロッシングの起きやすい浮き屋根式タンクが600基あります。M7規模の首都直下型地雲が発生すれば、その約1割で油漏れが発生し、海上火災が起きると私は想定しています」(「フライデー」2012年6月1日号)

 大火災が起きなくとも、湾内への大量の油の流出は、油が混じった水を「冷却水」として使うことができなくなるため、沿岸部の火力発電所が長期間停止に追い込まれる。最悪のケースでは、そんな状態が2ヵ月も続くことがあり得る。

L 港湾・空港が長期間使えなくなる

 大都市港湾の大型被災は、エネルギー、電力供給の長期間の停止をもたらすのみならず、臨海部の膨大な産業施設を破壊し、「港」や「空港」が長期間使えなくなる。

 東日本大震災では東北地方の太平洋沿岸を中心に約29港が被災し、コンテナをはじめとした様々のものがガレキ化し、湾内に流出、沈下したため、暫く港が使い物にならなくなった。

 阪神・淡路大震災のときには、津波は起こらなかったものの、激しい地震で港湾施設そのものが破壊され、港が全く使い物にならなくなった。港へのアクセス道路も被災し、完全復旧を果たすのに2年以上の歳月がかかった。

 南海トラフ地震では、東京、大阪、名古屋の3大港湾を含む静岡から九州までの大量の港湾が激甚被害を受ける。
 そうなったとき、日本の国際貿易が受ける被害は計り知れないものとなる。


 以上の内容からも、巨大地震はこの国が持っている「力」を奪い去り、まさに息の根を止めようとしていることがわかります。
 次回は、「巨大地震は私たちから何を奪うのか?」の第3弾「(3)安全が奪われる」について検証していきます。
 
 
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