ブルーアイランド
エステル・ステッド編 近藤千雄・訳
ハート出版
 
訳者あとがき
 

 古代霊シルバーバーチの出現

 以上、きわめて大ざっぱではあるが、ハイズビル事件をきっかけとして生まれたスピリチュアリズムの発展のあとをたどり、その貢献者として顕著な活躍をした人物を幾人か紹介した。
 むろん蔭の貢献者も大勢いることを忘れてはならない。マイヤースなどは、どちらかというと地道な働きをした部類に入るであろう。そのマイヤースを、先頭切ってスピリチュアリズムの普及活動をしたステッドとドイルといっしょに紹介したのは、死後における地上界への働きかけが積極的だった点において同じだったからである。
 が、だからといって、その他の先駆者、たとえばクルックスやロッジが死後は何もしていないのかというと、決してそうではない。それがシルバーバーチと名のる古代霊の出現で次第に明らかとなった。
 1920年ごろ、すなわちドイルが公然とした普及活動を開始したころに、同じくロンドンの青年実業家モーリス・バーバネルが、時おり無意識状態でインディアン訛りの英語でしゃべるという現象が起きるようになった。
 最初のうちはたまたまバーバネルの家に集まっていた三、四人の知人が聞くだけだったが、そのうち当時の英国のジャーナリズム界の御意見番的存在だったハンネン・スワッファーという作家が訪れている時にその現象が起き、スワッファーはその霊言の質の高さを直観して、毎週1回、自宅で定期的に「霊言を聞く会」を催すことにした。会の名称も「ハンネン・スワッファー・ホームサークル」とし、金曜日の夜と決めた。
 その霊は「シルバーバーチ」と名のったが、これは日本語の「白樺」を総称する植物名で、地上時代の本名ではない。自分は地上でインディアンだったと述べるだけで、その他のことは何も教えてくれない。ただひたすら霊的教訓を述べるばかりだったが、そのうち、実は「私」といっているのはインディアンではなく、三千年前に地上生活を送ったことのある別個の存在で、地上界と直接のコンタクトを取れない界層まで向上し、このたび、地球の霊的浄化のための大事業への参加を要請されて、こうして霊的真理を説く仕事に携わっている――インディアンは霊界の霊媒であって、私自身はインディアンではない、という事情を明かした。
 以来、地上の霊媒であるバーバネルが他界する1981年までの60年間、サークルのレギュラーメンバーにゲストを加えた10人前後の出席者に語ることを続けた。組織を作らず、規約を設けず、参加費用も取らず、スワッファーの自宅と、スワッファーの他界後はバーバネルのアパートの応接室で行ない、バーバネルの他界後はサークルも解散している。
 が、その間に語られた霊的教訓は昨年(1991年)までに16冊に編纂されて残っている。第一期はバーバネルが主幹をしていたサイキック・ニューズ社の数人のスタッフが各自の視点から編纂した11冊で、潮文社から『シルバーバーチの霊訓』として拙訳(総集編を加えて全12巻)が出ている。
 第二期はバーバネルの後を継いだ主幹のトニー・オーツセンが独自に編纂したもので、これも拙訳が『愛の摂理』『愛の力』『愛の絆』の題で太陽出版から出ている。他にも未翻訳のものが2冊あり、最近のオーツセンからの便りによると、シルバーバーチの本だけは、たとえ自分が退社しても、出版を続けていく計画に変わりはないと断言しているので、今後が楽しみである。(ハート出版にて近々出版予定)
 さて、これまでその翻訳にたずさわってきた私が気づいたことは――それをお読みくださっている読者もきっと気づいてくださっていることと思うが――シルバーバーチが参加している地球の霊的浄化のための大事業というのが、オーエンの『ベールの彼方の生活』の中で明かされている。霊の大軍による浄化作戦べそして『モーゼスの霊訓』の中で「組織的な霊界からの働きかけ」と言っているものとが動機と目的において一致しているところから、同じものを指しているということである。その動機とは何か?
 長い人類の歴史――巨視的に見ればほんの短期間かも知れないが――における数々の愚行や悲劇や戦乱が生み出した悪想念は地球の大気圏を厚く被っているという。そして、それが低級な邪霊や悪霊の跋扈を容易にし、それが生み出す人心の荒みが地球環境を破壊し、このまま放置しておけば地上界が人間の住処としての存在意義を失うことになるとの憂慮が天上界において支配的になったことである。
 大事業の目的は言うまでもなく地球圏を清掃し浄化することであるが、そのための手段としてまず人類が久しく忘れ去っている「霊性」の自覚、つまり人間も本来は霊的存在であるとの認識をもたせる必要がある。そのためには、何はともあれ、霊的事実と霊的摂理の存在を正しく知らしめなければならない。その仕事の最高責任者として選ばれたのがシルバーバーチ霊だった、ということである。
 責任を委託されたシルバーバーチは、その伝達機関(霊媒)として最も適切な人物としてモーリス・バーバネルを選び、その霊が母胎に宿った瞬間から、その成長に関与したという。そして18歳になった時点でいきなりトランス状態に誘って、その精神と言語機能の操作をしてみた。最初のころは英語もあまり上手でなく、雰囲気にもどこかイライラしたところがあったという。が、私の想像ではそれは多分に霊界の霊媒であるインディアンの反応だったことであろう。
 さて、私がシルバーバーチの霊言を読み、そして翻訳してきて気づいた、もう一つの事実は、シルバーバーチが「私たちは……」と言う時の「私たち」の中には、地上時代にスピリチュアリズムの研究と普及にたずさわった人物が大勢いるということだった。本人が出てきて名のったわけではない。シルバーバーチがそれとなく示唆しているのである。
「私が、こんどはあなたがしゃべりなさいと言うと、いや、いいです、いいです、と言ってうしろへ引っ込んでしまうのです」
と、ユーモラスに語っているところもある。
 そうした中にあってステッドやマイヤースやドイルなどが独自にまとまった通信を送ってきたということは、やはりそれなりの意味があるのであろう。その中でもこのステッドの通信は、本人も言っているとおり、いたって簡潔にまとめられているので、霊界通信というものに初めて接する方には格好のものであると確信する。
 いずれドイルのものもマイヤースのものも全訳して紹介したいと考えているが、本書が入門書としての役目を果たしてくれることを期待している。

 平成4年10月       近藤千雄
 
 
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