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第1章 火山灰 | ||
火山灰の被害――交通機関 火山灰は、自動車の運転にも大きく影響する。火山灰が降りはじめると昼間でもうす暗くなり、急速に視界が悪くなる。道路に火山灰が積もると、車は火山灰を巻き上げながら通行する。舞いあがった火山灰は、自動車の吸気口から吸い込まれる。これがエンジンのフィルターを詰まらせるのだ。この結果、道路には走行不能となった自動車が多数、立ち往生することになる。 具体的には、火山灰が1ミリメートル降り積もると時速30キロメートル以下に、また5ミリメートル積もると時速10キロ以下まで速度が落ちるとされる。2011年1月に噴火した宮崎・鹿児島県境の霧島火山新燃岳では、宮崎県都城市で数センチメートルの火山灰が積もり、車がスリップする交通事故が多発した。 このように基本的には、火山灰が道路上に1センチメートル積もったら運転は不可能となる。聞くところによると、トヨタの自動車には桜島火山から降ってくる火山灰対応の「鹿児島仕様」車があるという。このような対策が、富士山の風下の地域で必要となってくるだろう。 したがって、火山灰が降っている最中の運転には、さまざまな注意が必要である。 まず、ワイパーを使うとフロントガラスの表面が傷ついて、すりガラスのようになってしまう。よってウォッシャーを頻繁にかけながら使用しなければならないが、水を含んだ火山灰はべっとりとフロントガラスにこびりつくだろう。 また、エアフィルターやオイルフィルターは、火山灰が詰まって機能が低下する前に交換する必要がある。 さらに、道路上に薄く積もった火山灰が、タイヤを滑らせるおそれもある。イタリアのシチリア島にあるエトナ火山の噴火で、実際にこのようなことが起きた。エトナ火山はヨーロッパ最大の活火山で、富士山と同じくらいの大きさの広大な裾野をもっている。10年に1回ほど噴火を繰り返しながら、溶岩と火山灰を噴出してきた。このエトナ火山が2002年に火山灰を大量に噴出した。その東には、シチリア島第二の都市カターニアとメッシーナを結ぶ幹線の高速道路が通っているのだが、道路の上に薄く積もった火山灰によって、たくさんの車がスリップ事故を起こした。まもなく高速道路は閉鎖され、降り積もる火山灰が完全に除去されるまで通行不能となってしまった。 火山灰降下の初期には、細かい火山灰がタイヤと道路の間で滑りやすい面をつくる。この現象はごくわずかの量の火山灰でも起きるので、非常に危険である。富士山から火山灰が降り出した場合も、エトナ火山と同様のことが東名高速道路で起こるだろう。 だが、富士山の噴火による影響が最も大きい乗り物は、航空機である。富士山の周囲には東日本と西日本を結ぶ航空路がひしめいている。また、富士山の東には羽田空港と成田空港があり、さらに横田、厚木、木更津、入間、百里といった自衛隊と在日米軍の基地も多数ある。そらに富士山の東方には、外国航路もたくさん通っている。これら、風下にある航路と空港が、まったく使用不能になってしまう可能性があるのだ。 火山灰は飛行機やヘリコプターや船舶のエンジンを止めてしまう。エンジンの吸気口から入り込んだ細かい火山灰は、いったん高温のエンジンの中に入る。火山灰は摂氏550度を超えると、軟らかくなりはじめる。エンジンの燃焼室の温度は摂氏1000度にもなるので、火山灰は完全に溶けてしまう。溶けた火山灰はマグマと同じである。このマグマは、燃焼室から出ると一気に冷やされる。冷えたマグマは固まって岩石となり、燃焼ガスの噴射ノズルをふさいでゆく。完全にふさがれると、エンジンは停止する。 インドネシア・ガルングン火山の1982年噴火や、アラスカ・リダウト火山の1989年噴火では、このようなことが実際に起きた。ジェット機の4つのエンジンがすべて止まり、墜落の危機に直面したこともある。高度を下げたあとにエンジンが始動したため、かろうじて着陸することができたが、たかが火山灰などと侮ることは決してできないのだ。 また、火山灰が操縦席の外窓のガラスに当たって、ひび割れを起こしたり、細かい傷がついてすりガラスのようになることもある。これらも飛行中の操縦に大きな支障をきたす。 したがって、国際的な取り決めで、火山灰の漂う領域は飛行してはいけないことになっている。現在、火山から噴出した火山灰が空中を漂う状況は、人工衛星で撮影された画像を用いて監視されている。火山灰が流れている上空に航空機が進入しないよう、警告が出されるシステムができている。 航空機の運航がコンピュータによって制御されている点は、新幹線とまったく同じである。少量の火山灰が思わぬ障害を生む。さらに空港の滑走路では数ミリメートルの火山灰でも地面の標識と目印が見にくくなるため、灰を除去するまで使用できない可能性がある。 富士山から出る火山灰は羽田空港と成田空港の両方に影響を与え、首都圏の旅客と物流を担う両空港が長期間にわたって使えなくなるおそれがあるのだ。 |
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