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政府が「45の起こしてはならない最悪の事態」の筆頭に挙げていたのが「超高層ビルの倒壊」でした。しかし、「起こしてはならない」と言いながら、必ずしも十分な対策がなされたとは言えないようです。
『つぎの震災について本当のことを話してみよう。』(福和伸夫・著/時事通信社)によりますと、2015年12月に、内閣府から南海トラフに対する長周期振動の予測結果が公表されたことを受けて、国土交通省が、被害想定地域内に超高層ビルをつくろうとする際には、長周期地震動対策を求めるなどの基準を定めたそうです。
ということは、これまでの設計で考えてきた揺れ対策では不十分であることを認めたとも言えます。2017年以前の基準で作られた既存のビルの状態については調査することさえも難しいようです。
ということで、「起こしてはならない」という言葉は、「起こる可能性が高い」そして「起こったら大変な惨事になる」という意味に受け止める必要がありそうです。
次にご紹介する『巨大地震だ、津波だ、逃げろ』(船瀬俊介・著/ヒカルランド)は大変リアルな超高層ビルの被害想定をしています。イマジネーションをかき立てられる内容です。
■『巨大地震だ、津波だ、逃げろ』(船瀬俊介・著/ヒカルランド)
高いビルだけ倒壊ミステリー
『タワーリング・インフェルノ』。それは「聳え立つ地獄」という意味だ。1970年代、ハリウッド製作。パニック映画の金字塔として語りつがれている。
当時珍しかった超高層ビル火災をスリリングに描いている。いまや、その超高層ビル、マンションは、首都圏に林立している。まさに雨後のタケノコだ。
超高層ビルで、まず怖いのが「ゆっくり地震」だ。長周期地震と呼ばれる。
注目されたのは1985年9月、メキシコで発生した地震だ。低い建物は、ほとんど被害がなかった。なのに、10〜15階のビルばかりが倒壊したのだ。まさに、ミステリー。その謎を解くカギが「共振現象」だ。そのときの地震が、その高さのビルの固有震動数と合っていたのだ。それは物体の持つ。揺れのリズム。それが、一定時間くりかえされると大きな共振を呼ぶ。音の「共鳴」も同じ原理だ。
低い建物は固有震動数が短い。だからガタガタ細かく揺れる。これに対して高い建物は振動数が長く、ゆーらゆーら、ゆっくり揺れる。
興味深いのは、体感できない微妙な長周期地震でも、超高層ビルが共振することがある。東日本大震災でも都心の超高層ビルの共振する様子がはっきり映しだされた。
「剛性」限界2・5倍の揺れ
長周期の揺れは、数十分間も続くことがある。
住民は船に酔ったようになる。これを、“ビル酔い”という。気分のいいものではない。しかし、壊滅的“ゆっくり地震”にくらべれば、まだましだ。
これまで政府は、超高層ビルの横揺れに対する強度を次のように定めていた。
「30階部分で振幅2メートル以内に耐える」
すると60階では4メートルとなる。これでも、けっこうな揺れ幅だ。2〜3秒でこれだけ揺れたら立っておれない。それどころかコピー機など事務機器、冷蔵庫やベッドなどの家具、それらも激しく移動を始める。そのシミュレーション映像は悪夢だ。家具に挟まれて圧死することもありうる。
ところが、その“想定”振幅ではすまないことがわかった。京大、名古屋大などのシミュレーションでは、「30階部分で振幅5メートルは揺れる」ことが判明。つまり2・5倍。
すると60階では10メートル! 仰天ものの揺れ幅だ。
ゆっくり地震、家具も人も大空へ
あるゼネコン関係者に取材した。
「ベッドや冷蔵庫など家具はどうなります?」
困ったようにこう答えた。
「窓を突き破って、外に出るでしょうね……」「住んでいる人は?」「いっしょに出られるみたいですよ」。顔がひきつる。
揺れや歪みに耐える建築物の性能。それを「剛性」という。建築基準法で「30階で、剛 性は振幅2メートルに耐えればよい」としてきた。ところが、実際は2・5倍も揺れることがわかった。なら、「剛性」は2・5倍強くなくては、建物はもたない。
ここまで考えて空恐ろしくなった。
日本の超高層ビルは、強度の2・5倍の“ゆっくり地震”に襲われることがありうる。
60階なら4メートルの揺れにしか耐えられないのに10メートルの揺れが襲う。強度の 2・5倍! 揺れる途中でビル躯体がポッキリ折れるだろう。こうなると、まさにSFX映画の世界だ。ビル内には数千人が働いたり、暮らしたりしている。そのビルが折れて瓦解する。想像したくないが想定すべきだろう。
● 超高層は共振が起きたらアウト
建築専門家たちは、じつに無責任なことを平気で言う。
「高層マンションは地震が起きてみないとわからない」
「超高層ビルは、共振が起きたらアウト!」
彼らは長周期地震で、超高層ビルが“折れる”ことを予見しているのだ。
阪神大震災の95年当時には、日本にはまだ超高層ビルは存在しなかった。それでも、ビル防火扉3割、スプリンクラー4割が故障し作動しなかった。これら機器には、耐震基準すらない! 超高層ビルの揺れ幅は、当時と比較にならない。これら装置は10割故障するだろう。地震直後による出火原因の大半は、通電火災だ。破損した電気製品やコードから出火する。だから地震直後の火災を防ぐことは不可能だ。超高層ビル住人には、これからが悪夢の始まりだ。
避難に1時間半の絶望
スプリンクラー故障。これでは出火し放題だ。防火扉も故障。超高層ビルが超高層“煙突”になる! 中の数千人は火炎地獄で焼き殺される。
その前に避難すればいい?
NHKが行ったシミュレーションは戦慄的だ。7000人勤務の超高層ビルが火災を起こした想定。避難階段は一つしか使えず、幅は1・2メートルしかない。整然と全員が避難完了するまでに1時間20分を要した。なぜか? 1階出口の幅がわずか1メートルしかなかったからだ。だから1・5秒で一人しか逃げられない。
避難出口がなぜ狭いのか? 政府担当者の回答に天を仰ぐ。
「私どもは集団による避難は“想定”しておりませんから」
大手ゼネコン幹部は、超高層マンションでも20階以上には、ぜったいに住まない。その理由は「消防ハシゴ車が届く最長高が20階だから」。
つまり、それ以上は万が一の際には必ず“地獄”と化すことを知っているからだ。
超高層マンションに潜むリスク
都内には15階以上の高層ビルは1640棟もある(2010年、東京消防庁調べ)。
10年間で2・5倍という急増ぶりだ。高さ60メートル超のタワーマンションも多い。
一都三県(神奈川、千葉、埼玉)だけでも約700棟が乱立。うち506棟は03年から、わずか10年で建設されたものだ。まさに、雨後のタケノコのごとし。
そこを直下地震や南海トラフの“ゆっくり”地震が襲う。
地震や火災時にはエレベーターは自動停止する。普通の火災でも避難にエレベーターの使用は禁止だ。「階段を使って避難する」。消防法では、こう定められている。しかし、高齢者や身障者が非常階段などを使って避難することは、実質的に不可能だ。こうなると「階段のみの避難規定」は、ビル火災では「弱者は座して死ね」と命じるに等しい。その批判に苦慮したのか13年10月、東京消防庁は、歩行困難な高齢者、身障者に限り、「非常用エレベーター」での避難を容認する新基準を導入した。
「非常用エレベーター」は、70年から31メートル以上の高層建築に設置が義務付けられている。日常的エレベーターとは異なり、非常用電源、外部通信機能を備えている。火災時の消防隊員の使用を想定しているのだ。今回は身障者などが「使用可」となった。しかし、大多数が殺到する恐れがある。そのため高齢者、身障者の特定、訓練などが義務化される。しかし、エレベーター自体が火災や地震に脆弱だ。「一般エレベーターも火災時に停止する可能性もあるため、避難に使えず、大地震の際は非常用も使えなくなる」(『東京新聞』13/10/1)
超高層に住む。それは、生命リスクを賭けることと同じ。その覚悟が必要だ。
超高層ビル周辺の住民にも意外なリスクが降り注ぐ。
ビルと地震――。盲点の一つがガラス窓だ。東日本大震災では激震で、一瞬で割れ落下した例がある。茨城県、鉾田第二高校。震度6強の一撃で窓ガラス1,200枚のうち900枚以上が割れ、破片が周囲に落下した。ガラス片は落下するとき切っ先を下にして落下する。超高層ビルの窓は分厚い。それだけに殺傷力も凄い。巨大地震のときは超高層から鋭いガラス凶器が雨のように降り注ぐ。しかし、ガラスの直撃による犠牲者を政府は一人も“想定”していない。
30階、45階、M8級でも大損壊
次に来る南海トラフ巨大地震の想定震度はM9だ。ところが、それより小さいM8レベ ルでも東京都内や大阪湾周辺で被害が多発する。30階や45階建てなど特定の高さの高層ビ ルが大きく損壊されるのだ。東京や大阪は震源の南海トラフからは、はるか遠く離れている。それでも超高層ビルが破壊されるのは長周期地震で共振するためだ。
1985年、メキシコ地震では震源から約400キロも離れたメキシコ市でも高層ビル倒壊が相次ぎ、その破壊力が注目を集めた。東日本大震災でも770キロも離れた大阪府でも超高層の咲洲庁舎が被害を受けている。
防災科学研究所(茨城県つくば市)が2013年9月2日、発表した報告によると「損傷の程度は、倒壊や床の落下などはないがフロア全体が大きく変形し、建物への立ち入り禁止も必要となる」。つまり、超高層ビルが回復不能のダメージをこうむる。
M9で超高層ビルが折れて倒壊する!?
30階や45階建てなど「特定」の高さのビルに被害が集中するのは、ビルごとに振動しや すい「固有振動数」があるからだ。同研究所は、南海トラフで発生する様々な周期や大きさの地震動を仮定し、振動が伝わる方向などを検討した。その結果、30、45、60階建て相当の3種類の超高層ビルの長周期地震動の揺れによる被害の大きさを試算した。試算では南海トラフで「宝永地震(M8・6)」級の地震が起きたとき、東京都庁付近では30階や45階建てビルに大きな損壊が起きる。大阪市北区の舞州でも30階、45階、60階ビルに同様の被害が発生する。
同研究所の試算ですら甘いといえる。鉄骨ビル9割以上に蔓延している手抜き溶接の存在を無視しているからだ。欠陥溶接のためビル剛性は想定よりはるかに脆い。さらに“ゆっくり地震”では想定振幅の約2・5倍も揺れる。だから南海トラフや首都直下地震などの長周期震動の大幅な揺れに耐えられない。M8クラスの揺れでも超高層ビルが折れたり瓦解する恐れがある。今回の同研究所の報告で不可解なのは、どうして南海トラフで想定されるM9の被害想定をなぜ公表しなかったのか? という疑問だ。
うがった見方をすればM9の長周期震動では「超高層ビルは折れてしまう!」。発表すると大パニックになる。そこでM8級の損壊程度の被害発表にとどめたのであろう。
現にメキシコ地震では震源から遠隔地にある高層ビル倒壊が続出している。同じ光景が大阪や都心で続発するのではないか……。
東京に乱立する超高層建築物のなかでも、もっとも知名度が高く、また首都東京の新しいシンボルとして2012年2月に竣工したのが東京スカイツリーです。
長い間東京タワーが東京の高層建築物の代表として国内外で知られていましたが、その後超高層ビルが建ち並ぶようになって影が薄くなっていました。
そんななか、新しい東京のシンボルとして建てられたのが東京スカイツリーでした。首都直下地震がいつ起きてもおかしくないといわれているさなかに、このようなモニュメントを建築する人の気持ちが理解できません。
――と申し上げたいところですが、私の認識は違うのです。
「東京スカイツリーは、首都直下地震によって壊すために建てられた」のです。次のような論理展開で――
巨大地震が来るのはわかっている。
↓
巨大地震が来れば倒壊するのはわかっている。
↓
だから、建てたんだよ、華々しく壊すために。
そうです。滅び行く日本の象徴として、打ち上げ花火のように一瞬パッと華々しく大空を彩って、すぐに消えていく運命なのです。(そうとしか思えません)
『つぎの震災について本当のことを話してみよう。』(福和伸夫・著/時事通信社)の中に次のような一文がありました。
……こんな入り江や川を埋め立てたところに、日本の中枢機能である官庁や大企業のオフィスビルがひしめき合っています。情報を伝える会社、我々がお金を預けている会社、保険をかけている会社などの本社が集中しています。高層ビルで埋め尽くされ、その最上階でふんぞりかえっているのが社長さんたち。気象庁や東京消防庁などの防災官庁、新聞社の本社もズブズブ地盤の上に建っているのに、ビルの外から見える室内の什器の転倒防止は不十分。田舎者の私には「おバカさん」に見えます。
東日本大震災で天井が落下し、2人が犠牲になった九段会館は、江戸時代末期の地図を見ると「池の上」でした。首相官邸の隣にあるのは「溜池」という地名。東京スカイツリーは関東大震災で最も大きな被害のあった土地に建っています。私はあの展望台に上るときは少し緊張します。
東京スカイツリーだけでなく、日本の中枢機能を担う官庁や大企業のオフィス群も、本来であれば首都移転または機能の分散化をすべきところなのに、このように地盤の不安定な場所に集中させられているという感じがします。これも、「来たるべき日に壊してしまう」ための処置なのでしょう。
「首都が崩壊すれば日本が沈没する」というシナリオのためには、国家機能の東京一局集中という形がどうしても必要なのです。ふんぞりかえっている社長さんたちは、自社の繁栄こそが大切で、日本全体のことを考えるだけの問題意識がないのでしょうか。
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