2020年8月
首都直下・南海トラフ
日本消滅
26
いつまで待っても救助は来ない
 
 首都直下地震が起きたときに東京都内(23区)にいる人は助からないと考えておくべきでしょう。古い木造家屋は言うまでもなく、超高層ビルを含む多くの建物が倒壊するはずです。
 老朽化した首都高速も倒壊は避けられませんので、走っていた車は衝突または落下して爆発炎上します。至る所で火災が発生し、やがて火炎旋風が巻き上がるでしょう。倒壊家屋の下敷きになったり生き埋めになったりした人は、たとえ生きていても火災の犠牲になります。外に出られた人も、道路はガレキに埋まっていますからどこにも逃げられません。
 このような事態が目に浮かびますので、私は「地震当日に東京都区内にいないこと」以外に助かる方法が思いつかないのです。
 東京都は「3日間は自力で生きてください」と言っているそうですが、「3日経ったら救助に行きます」とは言っていません。行けるはずがないからです。というか、行っても無駄だからということでもあります。3日経ってもまだ至る所で火がくすぶっているでしょう。そんな中で、どうすれば生きのびている人を探すことができるでしょうか。もし多くの人が生きのびていたとしても、どうすれば救出することができるでしょうか。
 地震当日は東京都区内に1,000万を超える人がいるのです。道路という道路はガレキと車の残骸で埋め尽くされます。輸送手段は空以外にありません。米軍や自衛隊のオスプレイで20人ずつ救出してくれることを期待しますか?
 そもそも救出した人を一時的にせよ避難させる場所が確保できないでしょう。首都圏全域が地震で被災しているのです。
 このように悲観的なイメージが先行してしまいます。
 首都直下地震についてはまた詳しく検証していきます。現時点の私の結論は「地震当日に東京都区内にいる人の助かる可能性は限りなくゼロに近い」というものです。

 ここでは主として南海トラフ巨大地震で被災した人たちがどうなるかという問題を中心に考えてみます。
 一度ご紹介した内容ですが、もう一度『巨大地震Xデー』(藤井聡・著/光文社)の内容を引用します。原文を尊重しつつ、文意に従って分類し、箇条書きにしました。
 この本のサブタイトルは「南海トラフ地震、首都直下地震に打ち克つ45の国家プログラム」となっています。
「45の国家プログラム」は「45の起こしてはならない最悪の事態」に打ち克つために対策が必要だ、ということを言っています。が、対策が十分にされたというわけではなく、「このままだと最悪の事態を迎えてしまうよ」という内容です。
 藤井氏が内閣官房参与として政府の会議に参加し、このようなプログラムの策定にかかわっている人たちを見て、次のような辛辣な感想を述べていることから、「最悪の事態」を避けるための対策が十分になされたとは考えられません。

 ……多くの国民は、日本国家の明日にとって重要な意思決定の現場に就いている人々も含めて、こうした凄まじい未来が訪れることが「平均的」に予期されているのだという「事実」を知らぬ間に、様々な意思決定に携わっている。
 すなわち、多くの人々は、「地震なんて起きない」という「仮想条件」のケースを、勝手に想像したうえで各種の重大決定に従事している。
 この凄まじく愚かしい、そして、その愚かしさ故に滑稽にすら思えてしまうほどの情けなき状況に我が国は置かれているのだという「現実」を、1人でも多くの日本国民に感得していただきたいと、心から祈念せずにはおれない。


 学者の文章らしく、たいへん難解な表現がされてますのでわかりにくいと思います。私のほうで意訳にチャレンジしてみます。

 国の将来についての重要な意志決定に参加する立場の人(政治家や官僚)も含めて、日本が巨大地震によって恐ろしい状態に置かれることがだれでもわかるはずなのに、そのような事実を意識することのないまま様々な意志決定にかかわっている。
 つまり、多くの人は「巨大地震なんて起きないだろう」と勝手に考えて、重要な対策会議などに参加している。
 このように、すさまじい愚かな状態にわが国は置かれているという現実を、一人でも多くの日本国民にわかってもらいたいと願わずにはおれない。


 もう少し簡単な表現にしますと――

 政府関係者は対策なんかまじめに考えていない。なぜなら、みんな心の中では「巨大地震なんか起きないだろう」と考えてやっているからだ。

 ――ということですから、「45の起こしてはならない最悪の事態」に対して十分な対策がなされたとは考えられません。
 もし、読者の皆さんのご家族のかたで「政府がなんとかやってくれるだろう」という考えを持つ人がいるとすれば、その人は藤井氏が批判している政府関係者と同じです。つまり、「巨大地震なんて起きないだろう」と考えて、個人としての対策について真剣に考えていない人ということになります。いや、大半の日本国民が、ほんとうのところは「巨大地震なんて起きないのではないか」と希望的に考えているのかもしれません。
 新型コロナではマスコミに踊らされてまじめに「ジシュク、ジシュク」と右にならえをする人たちが、地震の対策について政府を突き動かすような動きは全く見せないからです。次々と東京から移住する人が出ているという話は耳にしたことがありません。
 だれもが「今(の暮らし)」に追われていて、「未来(の悲惨な災害)」のことには気が回らないのでしょうか。まさに「すさまじい愚かな状態」と言わざるを得ません。

 私が嘆いていても仕方がありませんので、「45の起こしてはならない最悪の事態」を一つずつ見ていきたいと思います。
 次の@〜Cは以前に紹介した内容で、いずれも地震による直接的な被害です。これらの原因で亡くなる人を、私は「第一死亡原因で亡くなる人」として分類しました。
@ 超高層ビルの倒壊
A 駅や鉄道の倒壊
B 家屋の倒壊と火炎旋風による大量の死者
C 津波による大量の死者


 これらに続くD〜Eは、地震の直接的な被害から逃げることができた人たちが直面する事態です。ここから「第二死亡原因で亡くなる人」が続出すると考えています。

D 迅速な「救援」ができず、犠牲者が拡大する

 巨大地震時によって国民の生命が失われるという事態に勝るとも劣らぬほどに深刻なのが、被災した大量の人々に対する「救助、救急ができない」という事態である。

 巨大地震による犠牲者はすべてが地震や津波で「即死」に至るわけではない。ガレキの下敷きとなり、迅速な救援が来なかったため、あるいは適切な医療ができなかったために失われてしまう命も、夥しい数に上ることが危惧されている。

 首都直下地震や南海トラフ地震が起これば、民間住宅や高層ビルや駅等の倒壊で大量の死亡者と夥しい数の「負傷者」が発生する。
 
 首都直下地震の場合には、関東平野の広い地域で同時に「700万人」という大量の人々が避難者となるため、自衛隊、消防、警察等の救援部隊がすべての被災者のところに駆けつけることはできない。

 南海トラフ地震にいたっては、避難者数が「950万人」と膨大で、また被災地が東京から九州まで超広域に及ぶため、救援部隊が駆けつけることができない地区がいたるところに出てきてしまう。

 こうした、救援が不十分になるという事態は、様々な原因で生じる。
 第1に、救援部隊、医療班の絶対数そのものが不足しており、大量の避難者数に対応仕切れないという問題。
 第2に、警察署や消防署が被災して、救援部隊が不足してしまう可能性。
 第3に、ガソリン等のエネルギーが途絶えてしまって、救援活動が著しく不十分なものとなってしまう。
 第4に、避難路がすべて絶たれて「孤立集落」が各地に発生すれば、その救援が困難になる。
 このような事態が生じれば、死者数はさらに拡大してしまうことになる。

E 大量の「避難者」に必要物資が届けられず、長期的に被害が拡大

 中長期的な視点で考えると、さらに深刻な事態も考えられる。
 700万人や950万人という避難者が出れば、大量の水と食料が必要となる。しかしながら、十分な水と食料の供給は著しく困難である。

 まず、水道が被災し、当面の間、水道が使えなくなってしまうことが予期される。食料にしても、多くの食料工場が被災し、食料供給が著しく困難となることも危惧される。

 被災地以外から数百万人分の水や食料を毎日着実に調達できるとは限らない。

 仮に一定程度調達できたとしても、それを運ぶための道路そのものが十分に生き残っている保証もない。道路沿い電柱が道路を塞いでしまったり、沿線にビルがあれば、同じく道路はガレキに埋もれてしまい、閉塞してしまうこととなる。

 さらに、橋梁が落ち、トンネルが塞がってしまっているようなケースでは、その復旧には相当程度の時間がかかってしまうことは避けられない。
 そして全く同様の理由で、医薬品や医療班、さらには石油やガソリンなどのエネルギーが現地に長期間にわたって到達しないケースも十二分に考えられる。

 そうした事態が長期間続けば、適切な医療行為ができなくなるばかりではなく、例えば冬季であるなら十分な暖を取ることができず、大量の人々の健康維持が困難となる。最悪の場合には疫病や感染症などが大規模に発生することも十分に想定される。


 解説の必要がないほど現実的な内容です。

 少し異論があるとすれば、CDとも「最悪の事態」としながら被災者のための避難所が確保されることを前提にしているように思われます。
 私は、もっと最悪の事態が必ず起きると考えています。つまり、「避難所さえ確保できない」という事態です。
 首都直下地震で700万人、南海トラフ巨大地震に至っては950万人の避難者が発生すると予測されていますが、それだけの人が避難できる場所が確保できるでしょうか。最低でも屋根がついていて雨風から身を守ることができなくてはなりません。つまり、「建物の中」ということです。私はとても950万人分の十分な避難所を確保することはできないとみています。
 東京から九州までの太平洋に面した大都市を含む町や村が巨大な津波に襲われたあと、そこで被災した950万の人を収容する場所が残っているとは考えられないのです。
 では、避難所に収容されない人たちはどうなるでしょうか。まさに屋外で「のたれ死に」状態になるでしょう。もし雨が降れば寝ることもできませんし、体力を奪われ、衰弱死は免れません。そこに台風でもきたら目も当てられない惨状です。
 屋根のある避難所に収容された人たちも、避難者が多すぎて横になることもできない状況に置かれるでしょう。トイレはいつも超満員。水洗は使えないため悪臭が鼻をつきます。
 停電で電気がつかないので、夜は真っ暗な闇のなか。不安な気持ちが募るでしょう。
 テレビは映らず、スマホも使えないので周りの状況はつかめません。
 そして、これが一番大切なことですが、いつまで待っても水や食料は届かないのです。
 最初のうちは、近くにある被災したスーパーやコンビニから飲料水や食べ物を盗む人が続出するでしょうが、みんなには行き渡りません。すぐに底をつきます。

 震災後何が起きるのか、被災地はどのような状況に置かれるのかは、この程度の推測でも十分理解していただけるでしょう。もし被災想定エリアにとどまって現在の生活を続けるという方は、このような事態を覚悟しておく必要があります。
 地震や津波から逃れた人のほうが、より厳しい現実を目の当たりにすることになるのです。
 
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