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第二章 私たちが還っていく故郷 古代チベット人は、ひとことで生と生とのあいだの中間状態にぴったりのイメージをいいあらわした。バルドという言葉がそれで、文字どおりの意味は島と島をへだてる空間をあらわす。バルドは、島のように苦しい肉体を離れた魂にとって、きわめて重要なできごとに満ちた空間である。 『バルド・ソド』という8世紀に書かれた本がある。西洋では『チベットの死者の書』の題のほうが通りがいいこの本には、死んでから次にこの世に生まれるまでのあいだの意識の段階が描かれており、死の扉をこえた魂はつぎからつぎへと姿かたちのない意識上の体験に遭遇していく。何世代にもわたる体外離脱の旅の資料をもとに編纂され要約されたこの本は、いまでも臨終を迎える人や死者のまくらもとで読み上げられるという。肉体を離れた魂が危険の待ちうけるバルトをうまく渡りおおせて、二度とこの世に生まれてこなくてもすむようにと願うのだ。 『チベットの死者の書』によると、中間世はこの期間を象徴する49日のあいだ続き、「クリア・ライト」につつまれて喜びにみちあふれるところから始まり、「すべての善行や悪行をありありと映しだす」カルマの鏡をのぞきこみながら取り調べをする冥界の王に出会うまで続く。 (中略) 古代人は、現代人がほんの最近知りはじめたばかりのこと、つまり人生と人生のあいだにある中間世こそが私たちが本来帰っていく故郷であり、そこから私たちは肉体にやどる困難な旅にあえて出てきたのだ、と知っていた。マンリー・P・ホールは「死から再生へ」のなかで、肉体をまとって生まれてくるときの経験を、潜水夫が重たい潜水服を着て、いま味わっている気持ちのいい光やさわやかな空気をあとに、これから命綱をたよりに海底へと降りていくのにたとえている。 「重たい潜水服は肉体で、海とはいのちの海である。生まれるとき人は潜水服を身につけるが、その霊はつねに命綱で上方の光へとつながっている。人間は隠された叡知という財宝をみつけるために悲しみと滅びの海の深みへと降りていく。なぜならば経験と理解はひじょうに高価な真珠であり、それを手にいれるため、人はすべてのことに耐えねばならないからである。宝が発見されるか仕事を終える時が来れば、彼はふたたび船に引き上げられ、重い装備をはずし、新鮮な空気を吸ってまた自由を満喫する。賢人たちは、我々が“生”と呼ぶこのできごとが海底へのほんの一度の往復にすぎず、われわれがすでに何度も下降したことがあり、また財宝を発見するまでこれから何度も潜らねばならないことを知っている。」 (中略) 生れ変わりの研究では世界に名だたるイアン・スティーヴンソン博士は、中間世のことを「世界中がひとかたならず注目している話題」だ、と語っている。これまでに博士が「幕間の記憶」と名づけているものの観察例がいちばん多くみられるのはタイ国で、たくさんの被験者が死後に自分の身体を見、自分自身の葬儀をみまもったと報告している。あの世で「白衣の男」に出迎えられ、生まれ変わってくる前に「忘却の木の実」をもらった、という者も多い。この木の実を食べると前世の記憶は消えるが、中にはこの誘いにのらなかったため前世を覚えている者もいるという。 スティーヴンソン博士の調査によれば、タイ以外の国にも、前世の自分のからだが火葬にされた記憶をもつ者や、どのようにしてこれから自分が生まれる家に導かれたかを覚えている者がいる。一九二八年に死んでから一九四七年に生まれ変わってくるまでのあいたに、自分が「空中を飛びまわったり木のてっぺんにとまったりした」と主張する者さえいる。スティーヴンソン博士の調査でよく見受けられるのは予知夢で、妊娠する前に母となる人が、かつて知っていた人が自分のところに生まれ変わってくることを、夢のなかで知らされるケースがそれである。この夢は、これから生まれ変わってくる人のまだ肉体に宿っていない意識と直接に接触したことを示すものと考えられ、夢で子供の名を指定してくることもある。ある生涯から次の生涯への移行状態のときに、未来の母親の前に姿をあらわしたことを覚えている、と話す人もある。 イアン・スティーヴンソン博士が前世記憶の調査に世界中を歩きまわっていたころ、アメリカ国内では診察室のソファに被験者をすわらせて催眠をかけ、これとおなじ記憶をとりだす試みが行なわれていた。カリフォルニア州の催眠治療家、イーディス・フィオレ博士の一九七八年の報告によれば、博士が担当している被験者には、生と生の中間地帯へと入っていって「純粋のエネルギーと光」を見たり、「きれいな湖や景色、きらめく町々」を見た者がいる。そのほか、「計画者」とか「相談役たち」に出会って次の転生を選ぶのを手伝ってもらった、という話もある。出産前の母親の上方に「浮かんだ」魂に先導してもらったというケースもいくつかある。一九七九年にサンフランシスコの臨床心理学者、ヘレン・ウォムバック博士が大規模に行なった催眠研究の結果では、ほとんどの人が中間世の「光と愛」のうちにそのままとどまりたいと望んでいたにもかかわらず、生まれてくることを選んだという。ウォムバック博士の被験者によれば、生と生の中間の場所では性別はなく、多くの場合「相談者たち」や「評議会」、「権威者のグループ」と相談の結果、いやいや生まれ変わるのに同意したという。 (以下略) |
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