●「首都高」は世界有数の危険な場所

 都市は様々なコンクリート建造物で、埋めつくされている。
 ところが鉄筋コンクリートは、地震1回分の力に耐えるようにしか、考えられていない。その首都圏はすでに何十、何百回と小さな地震に揺すられてきた。
 とくに3・11以降の度重なる余震……。10階以上のビルや橋脚でも構造体が相当弱っている。中でも「震度7」で確実に崩壊する……と専門家が危惧するのが「首都高」だ。
 「日本の高速道路は、世界有数の危険な場所です。タンクローリーもやたらに走っていて、火災の危険性も大きい」(和田氏、前出)
 「首都高」高架は激震で、ほとんど崩壊するだろう。
 とにかく老朽化が激しい。その80%が高架橋。ルートのほとんどが河川上や高架という特殊構造。それは“地面を走らない”高速道路なのだ。1959年に着工、1964年の東京オリンピックに向けて突貫工事で造られた。羽田空港と国立競技場間の31キロが完成したのは、なんと開会式2ヶ月前。連夜の突貫工事がしのばれる。

●破損箇所9万7,000

 「首都高」の23.7%(延長71キロ)は築40年以上。そして、約46%が経過年数30年以上という老朽ぶり。路面や橋脚はひび割れ、腐蝕だらけ。亀裂が走っている鉄筋やコンクリートも目立つ。そこに補修セメントが塗り込められ、まさに満身創痍。
 9万7,000。これは、「首都高」で補修が必要な破損箇所である。そこを1日100万台以上の車が行き交う。激しい振動だけでも劣化が進む。思わず笹子トンネル天井崩落の悪夢がよぎる。しかし、「首都高」には「造り替えられない」というジレンマがある。
 それは24時間営業。東京の生命線のためストップできない。関係者の証言だ。
 「通行止めになれば、経産省が黙っていない」
 だから“営業中”の工事を迫られる。造り替えるなど夢のまた夢。莫大なコストと労力のためお手上げ状態だ。

●コンクリート寿命は約50年

 一般に、コンクリート建造物の寿命は50年といわれている。
 「木は1,000年、コンクリートは50年」
 これは最後の宮大工と称される故・西岡常一翁の言葉だ。その口癖は「コンクリートは、せいぜいもって50年」。ところが、それより短命のコンクリートもゴロゴロある。腐蝕劣化が進む元凶は手抜き工事である。
 告発するのは『コンクリート神話の崩壊』(植木慎二著 第三書館)。
 この本によれば、すでに80年代からコンクリート腐蝕は、全国で無残な姿をさらしている。
 「新幹線、ビルが危ないI新幹線の高架橋や構造物を襲う相次ぐ異常事態発生」(同書帯より)。
 新幹線が危ない、ということは「首都高」の高架も危ない。
 構造物を劣化崩壊させる。その直接原因は内部鉄筋のサビだ。コンクリート劣化で亀裂が鉄筋にたっする。すると、鉄筋酸化が急速に進む。赤錆は鉄筋を膨らませる。
 2、3倍の太さに膨潤し内部からコンクリートを破壊する。だから、亀裂が鉄筋にたっした時点で、建物の寿命はつきたと、いってよい。わたしは、これをコンクリートの“心筋梗塞”と名付けた。
 95年、阪神・淡路大震災で高速道路高架が無残に倒壊した。
 「首都高はだいじょうぶか?」

●“命の道路”の橋が落ちる

 政府は首都圏巨大地震の“有事”に備え「緊急輸送道路」を指定した。
 災害時に、1都7県を結ぶ。消防車や救援車などの車両が迅速に被災地に駆け付ける。そのための“命の道路”だ。ところが「救命道路」に思わぬ欠陥が露呈した。
 「耐震補強工事、168橋、手付かず――」『東京新聞』(2013/2/2)。
 一面トップ見出しだ。緊急輸送道路には、当然、数多くの橋が架かっている。そのうち168本も「耐震補強されていなかった!」。
 だから「災害時、落橋、倒壊の恐れがある」とは、間が抜けている。これでは、なんのための「緊急輸送路」かわからない。
 「災害時、最重要路線が使えないと救命や輸送が阻まれる。専門家は「耐震化計画や橋の状態を利用者に周知することが大事』と指摘する」(同紙)
 「事故が起きるまでは安全……」。
 これが、わが国の防災“思想”たった。
 その愚劣さは3・11原発事故で、国民に完全にばれた。
 しかし、その行政の無責任体質は変わらない。笹子トンネル事故でも、その呆れた“安全”思想は、いかんなく発揮された。震災に備えた緊急道路が、震災対策をしていない!
 クニの地震・津波対策がいかに杜撰かがわかる。

●鉄道は活断層が動けば一瞬で転覆

 鉄道高架も「首都高」と同じ運命をたどる。
 私鉄もJRも震度7では、線路は千切れ、波打ち、裂断される。
 走行中のほとんどの列車は、脱線、転覆、衝突はまぬがれない。高架橋が破断すれば列車は宙を飛んで落下する。
 JR東日本は2012年7月「耐震補強予算、約2,000億円追加」を発表。とくに重点耐震化が公表されたのが御茶ノ水駅周辺だ。「約1.2キロが極めて危険」という。中央線は外堀に合流する神田川の南岸傾斜地を走っている。まさに、へばりついたよう。
 JR東日本は「土台盛土に深く杭打ちし崩落を防ぐ」という。しかし、工事は着手されたばかり。一帯地盤を貫く活断層が動けばひとたまりもない。中央線を利用する人は眼下の外堀を見下ろしてみよ。激震が襲えば中央線は、御茶ノ水駅もろとも水面めがけて落下する。

●山手沿線アメ横は地獄と化す

 「山手線があぶない!」
 地震専門家たちは警告する。
 環状運転を始めて95年。すでに全線で6,700本の柱が老朽化している。
 都の2012年4月発表「被害想定」も警鐘を鳴らす。
 「山手線が走る場所は、震度6強エリアに、まるごと包まれる」
 山手線の高架は、戦前からのものが多い。なかには100年を超えるものもある。さらに、沿線は空前の人口密集地だ。高架下は商店街、飲食店などがひしめいている。だから高架の補修は「首都高」よりやっかいだ。JR東日本が耐震・補強工事をしたくても、店舗側の合意が得られず放置されたまま。工事中は電車が走れない、という難題もある。
 コンクリート寿命はせいぜい50年。この事実を思い出してほしい。山手線高架は、それ以上、かろうじてもってきた。震度7の激震をくらったら一瞬で崩壊する。ガード下の居酒屋、飲食店や周辺の商店街は下敷きだ。
 おまけに高速で走っていた電車が次々に空から降ってくる。
 緊急地震速報が発令されると、走行中の電車は自動停止する。しかし、直下型地震では脱線、転覆、追突はまぬがれない。それより、高架が崩落すれば電車もそのまま落下する。激震の後は、各所から火災の炎が噴出する。一面は火炎地獄と化す。生存者を見つけることすら絶望的だ。
 とくに危険エリアをリストアップしてみよう。
■アメ横:上野、御徒町間はアメヤ横町(通称:アメ横)が約300メートル連なる。そこに400軒もの店が密集。この区間は阪神大震災以降も耐震補強ゼロ。高架下の店舗は迷路のように入り組んでいる。線路崩落で壊滅するだろう。
■有楽町・新橋・浜松町間:赤レンガ造りのアーチ型高架橋が連なる。ガード下に洒落た店舗が軒を並べる。高架は明治時代建造というから驚く。「関東大震災には耐えた」というから築90年以上。レンガ造りでは震度7では瓦解は確実だ。
■品川・大崎間:この区間は1885年に開業。なんと128年前だ。大手通りを横切る高架が老朽化。さらに巨大地震では目黒川を遡上する津波が直撃。山手線でもっともカーブが急で脱線事故のリスクが高い。
■代々木・原宿・渋谷間:やはり1885年開業。盛土方式なので土崩れの恐れ。原宿駅は日本最古の木造駅。倒壊の危険あり。すでに代々木駅付近の高架に多数ヒビが確認されている。
■目白・高田馬場間:線路はやはり盛土方式。神田川をまたぐ地点は10メートルの盛り土。やはり崩落の恐れがある。
 ――高架下の商店街は座して死を待つより、耐震補強を受け入れるべき。このままでは震度7で圧死は確実。死んではもともこもない。

●地下鉄:3断層がずれトンネル切断

 「地下鉄は地震に強い」と言われる。ほんとうか?
 恐怖は活断層地震が直撃したときだ。新たに発見された3断層がずれる。
 すると、戦慄地獄が乗客を襲う。これら活断層が通る一帯は地下鉄密集ぶりがすさまじい。丸ノ内線、南北線、有楽町線、東西線、半蔵門線……など8本もの地下鉄トンネルが錯綜する。これら無数のトンネルが活断層を横切っている!
 その活断層が動く。それは8本のトンネル切断を意味する。想像を絶する事態だ。走行中の列車は切断面に激突。暗黒の地獄の中に乗客たちは取り残される。
専門家は「活断層はずれを起こすときは、あっという間に動く」という。
だから、事前に察知することは不可能。「活断層は一瞬で1メートルずれることもありうる」。そこに1,000人以上の乗客を乗せた電車が突っ込む……。
 幸いにも活断層断面へ電車は激突をまぬがれたとする。それでも安心できない。

●外堀から大量の怒濤流入

 さらなる恐怖が“水攻め”だ。
 飯田橋駅付近では、神田川が外堀と合流している。そこから外堀の真下を市ヶ谷、四ッ谷方面へと地下鉄トンネルがある。線路は“水の下”を走っている!
 震度7で、トンネルが裂断する。すると、外堀から大量の水が怒濤のように流入する。ひとたび地下鉄へ大量浸水がはじまれば、全地下鉄網が危機にさらされる。被害は飯田橋駅周辺にとどまらないのだ。
 政府の中央防災会議が09年に公表した予測には戦慄する。集中豪雨による荒川決壊シミュレーションがそれだ。奔流はトンネル内を低い駅へ、低い駅へと流れ、広範囲の地下鉄に想像を絶する被害をもたらす。
 荒川決壊も外堀決壊も同じだ。大量の水は地下鉄全路線を水攻めにする。
 なぜなら地下鉄駅はすべてトンネルという“水路”で結ばれているからだ。
 このパイプを通って大量の水は次々にトンネルを“満杯”にしていく。

●地下鉄すべてが水攻めに

 最深部約40メートル地下には都営大江戸線トンネルがある。
 水がそこに到達したとき、地下鉄乗客のほとんどは溺死する……。むろん地下鉄への大量浸水がいっきに最下層まで進むわけではない。
 しかし、エスカレーターなど駅施設は大地震で損壊している。停電も確実だ。真っ暗の暗黒空間から生還する確率は、万に一つもあるか?
 たとえば、東京メトロ東西線のケース。
 飯田橋より低い九段下、竹橋、大手町、日本橋の各駅に大量の水が流れ込む。数千人単位で溺死する……。
 一体は8本もの地下鉄トンネルが交錯している。そこをひっきりなしに電車が走行している。外堀からの水攻めは地下鉄全域におよぶ。
 水攻めは外堀からだけではない。恐ろしいのは津波だ。
 東日本大震災では津波は内陸10キロ以上にまで遡上した。東京湾北部の直下型地震では都心部に数メートルの津波が襲う。海抜ゼロメートルの地下鉄駅は、入り口に数十センチの「止水板」を設置している。しかし、数メートルの津波にはまったく無力だ。

●犠牲者数は最悪、10万単位に

 地下災害は水攻めをからくも逃れても、火攻めの危険もある。
 地下鉄、地下街のさらに下。そこには地下駐車場がある。
 「ここが水没すると、日本の車は気密性に優れるので浮き上がって流され、下流に集まっていきます。やがて、電気系統がショートし、漏れたガソリンに引火して火災が発生する。3・11の津波では、船が炎上したまま街に移動してきましたが、地下でああいう現象が起きるリスクもある」(高橋教授、前出)
 韓国、ソウルでも地下鉄火災で大量の犠牲者を出した。大震災の激震は電気系統などをショートさせ、その火花で火災が発生する。電車は燃え始めると激しく炎上する。狭い地下トンネル内の火災は、さらに猛毒の煙を充満させる。無残だが乗客全員、絶望的だ。
 このように地下鉄を激震が直撃すると多重悲劇が乗客を襲う。
 さらに電車は活断層へ激突。激震による脱線。列車同士の衝突などに見舞われる。
 圧死、水死、焼死、窒息死……。地下鉄空間での犠牲者数は数万どころか最悪、10万単位になるのではないか?
 地震の際、地下鉄に乗り合わせていないことを祈るばかりだ。

●モノレールは“液状化”崩壊?

 浜松町と羽田空港を結ぶ東京モノレール。さらに、新橋駅発で東京ベイエリアをめぐる「ゆりかもめ」。このような高架式モノレールは震度7でどのような被害を受けるか? 立地を見ると運河や海沿い道路の上を走っている。もっとも恐ろしいのは“液状化”だ。この“液状化”現象が起こりやすいのは「沿岸」「湾岸」「埋立地」。まさに、その地帯を走行している。だから“液状化”の被害はまぬがれない。最悪、高架の裂断、倒壊などが考えられる。
 
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