ブルーアイランド
エステル・ステッド編 近藤千雄・訳
ハート出版
 
訳者あとがき
 

 “救済”を目的とした“招霊実験”

 エドマンズ判事がそうした不遇な立場に追いつめられたもう一つの理由は、著名な学者や純粋に科学畑の人たちによる本格的な研究が、まだ世間の注目を集めるほどには盛んでなかったことが挙げられそうである。が、そうした数少ない学者の一人として、後世に記念碑的な業績を遺してくれた人物として、カール・ウィックランド博士を忘れてはならないであろう。
 博士は精神科医であるが、早くから霊の実在を信じ、同時に、精神病の原因は低級霊の憑依であるとの観点から、その憑依霊を一時的に霊媒(博士夫人)に乗り移らせて、博士との対話を通じて霊的真理を理解させ、患者から離して向上の道へと導くことを30年余りも行なってThirtyYears Among the Deadという大著を出版した。
 これはマーシーバンド(慈愛団)という。その仕事のために結成された高級霊団があって初めて出来たことで、将来のスピリチュアリズムの在るべき姿を教えてくれていると言えよう。では、この書から一部を紹介する。

 一般に陰うつな怖さをもって見つめられている“死”は、きわめて自然的にあっさりと推移するので、多くの人間が肉体から離れたのちもその移行に気づかず、また、霊界についての知識も何一つ持ち合わせていないので、彼らは、それまでとはまったく別の生活環境に置かれていることに気づかない。肉体の感覚器官を取り上げられているので、物質界の光を見ることもできず、また、より高い人生目的の理解も欠いているので、彼らは霊的に盲目であり、バイブルで「外なる暗黒」と呼ばれている薄暗い境涯にいて、地上圏に属する領域をさ迷っている。
 死は、罪多き人間を聖人にするものでもなければ、愚か者を賢人にするものでもない。本性は生前と同じであり、地上時代と変らぬ欲望・習慣・信条・間違った教義・死後に関する無知や不信をそのまま携えて霊界入りするのである。そして、地上時代の精神状態がそのまま具現化した容姿をして、幾百ものスピリットがしばし地上圏にとどまり、多くの場合、地上生活を送った場所にいて、地上時代と同じ習慣や趣味を固持しているのである。
 霊界の高い界層にまで進化したスピリットたちは、こうした地縛霊を導こうと、常に心を砕いているのであるが、死後についての誤った先入観のために、自分より先に霊界入りしている者が姿を見せても、それを死者の亡霊と思って恐れ、たとえ友人が会いに来ても実在の人物と認めようとせず、こうして自分の置かれている身の上を正しく理解することができずにいるのである。
 深い睡眠状態にある者も多く、途方に暮れ、困惑した状態にある者もいる。その迷いの心は得体の知れない闇の恐怖につきまとわれ、また良心の呵責を覚えはじめた者は、地上生活中の行為を思い出して、苦痛と悔恨の中で悶えている。
 他方には、利己的で邪悪な性向に動かされて、その欲望のはけ口を見出そうとして適当な人間を探しまわっている者もいる。彼らは、そうした破壊的な欲望から脱して魂が悟りと光明を呼び求め、高級なスピリットによる救いの手が差しのべられるまで、その状態の中にとどまっている。
 彼らには生前の性癖や欲望を満たすための道具(肉体)はもうない。そこで、多くの者は、生者から放射される磁気的な光輝に引きつけられ、意識的に、あるいは無意識的に、その磁気オーラに取りついて、それを、欲望を満たすための道具とするのである。
 こうして憑依した霊は、その人間に自分の想念を押しつけ、自分の感情を移入させて当人の意志の力を弱めさせ、しばしばその行動まで支配して、大きな困難や精神的混乱や苦痛を生ぜしめるのである。
 昔から“悪魔”の仕業とされていたのは実はこうした地縛霊のことだったのである。実質的には人間自身に由来するものであり、利己主義や間違った教義、無知などによる副産物であり、何も知らないまま霊界へ送り込まれて、無知という名の牢につながれているのである。
 世の中の不可解な出来事の原因は、実はこれら地縛霊の影響にあるのである。清らかな生活や正しい動機、高い知性が必ずしも憑依からの防御を約束してくれるものではない。唯一の防衛手段は、こうした問題についての正しい知識と理解である。
 地縛霊の侵入を受ける側、つまり憑依される人間の条件は多様である。生来の感受性、神経の耗弱(こうじゃく)、急激なショックなどによることが多い。肉体の不調も憑依を招きやすい。生命力が低下すると抵抗力が弱まり、霊の侵入が容易になるのである。その際、憑依される人間も憑依する霊の方も、互いに相手の存在を意識していないものである。
 霊が憑依するとその人間の性格が一変し、人格が変わったように見え、多重人格症ないしは人格分裂症、単純な精神異常からあらゆるタイプのディメンチア・ヒステリ、てんかん、憂うつ症、戦争痴呆症、病的盗癖、白痴的行為、狂信、自殺狂、そのほか、記憶喪失症、神経衰弱、渇酒症、不道徳行為、獣的行為、凶暴といった犯罪行為を起こさせる。
 地上人類は、高尚な人生目的、つまり何のために生きているかを理解しない無数の死者の想念に取り囲まれていると思ってよいであろう。そう認識すれば、ふとした出来心、激情、奇妙な予感、陰うつな気分、イライラ、不可解な衝動、不合理なカンシャク玉の爆発、コントロールできない、あることへの異常な熱中、その他の無数の精神的奇行などの原因が分かるであろう。
(同じ憑依でも、高級霊が人間の言語中枢を使って教訓的なことを語り、終わると当人は通常の状態に戻る場合がある。これを霊言現象という。これを車の運転にたとえれば、助手席に勝手に入り込んだ者がハンドルを奪おうとして運転手とケンカになり、車が暴走するのが前者で、運転手が助手席にさがって運転を任せるのが後者である)
 
 
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