ブルーアイランド
エステル・ステッド編 近藤千雄・訳
ハート出版
 
訳者あとがき
 

 “現象”の研究から“メッセージ”の研究へ

 このように、物質化現象は目に見えるという、五感に訴える性格のためにハデな話題を呼んだが。実は同じころから、霊言現象や自動書記現象による霊からのメッセージ、いわゆる霊界通信が着々と入手されていた。中でも英国においては、キリスト教の牧師、またはその夫人を通して、皮肉にもキリスト教の教義と真っ向から対立する通信が入手され、本人のみならず、キリスト教界に動揺をもたらした。
 その筆頭がステイントン・モーゼスで、オックスフォード大学出身の気鋭の牧師として将来が嘱望されていた。が、30歳前ごろから身辺にさまざまな異常現象が起き始めた。テーブルが持ち上がる。新聞紙が部屋から部屋へ運ばれる。誰もいない部屋で楽器がひとりでに演奏する。そのうち自分の身体まで宙に持ち上げられ、応接間のソファに放り投げられる……等々が毎日のように起きる。
 さらに、やがてそうした現象に代わって、手がひとりでに動いて文章を綴るようになった。初めのうちは格別の内容のものではなかったが、そのうちキリスト教の教義と対立する内容のものが綴られるようになった。反発を覚えたモーゼスが
「あなたは一体何者ですか?」という質問を書くと
「われわれは神の使者として、新しい啓示を授けに参ったものである」といった主旨の返答が綴られる。
「それはバイブルの福音書と矛盾しております」と書き返すと
「真理が矛盾するということは有り得ないことである。矛盾が生じたのは人間が勝手に改ざんしたからである」といった主旨のことが、実に丹念に、そして物凄いスピードで綴られ、しかも一字一句の書き損じもないのだった。
 その改ざんの筆頭に挙げられたのが“三位一体説”、つまり神とイエスと聖霊は一体であるという説で、そんなことはイエスは一言も説いていないという。イエスも人の子であった――ただ並はずれた人格と霊的能力をそなえていたまでである、という。
 次に指摘された教義が“贖罪説”、つまり人間は罪深き存在であり、イエスへの信仰を誓うこと以外にその罪から逃れる道はないというもので、それも間違いであるという。人間はすべて神の分霊であり、犯した罪はみずから償う――他のいかなる者も、あるいはいかなる信仰も、それを代わりに償うことはできないという。
 さらに間違いと指摘された教義は“最後の審判説”、つまり地球の最後の日に人類の全てが呼び集められて、天国へ召される者と地獄へ送られる者が選り分けられるというのであるが、これも人間の作り話であるという。人間は一人の例外もなく――聖人君子も大罪人も――肉体の死後は霊の世界へと進み、そこで新たな生活へ入る。落ち着く先は、各自が地上で身につけた霊格ないし霊性に似合った界層であって、そこで全ての決着がつくわけではない――進化向上の道は永遠に続く、と説く。地上世界は幼稚園のようなもので、人間は多かれ少なかれ、大なり小なりの罪を犯すものだが、二度と取り返しのつかないほどのものはないという。
 こうしたキリスト教の根幹にかかわる教説に猛烈な反発を覚えたモーゼスは、教会の同僚たちの応援も受けながら、執拗な反論を書き連ねた。『モーゼスの霊訓』(拙訳・太陽出版)のタイトルで邦訳されているSpiritual Teachingsは、断続的にほぼ10年も続いた自動書記通信の中から、モーゼスのプライベートなことに関するものを除き、一般的な信仰や人生思想に関するものだけを編纂したものであるが、そうした深刻な思想上の議論が白熱化した時には、モーゼスは体調を崩し、傷心を癒やすための旅にまで出ている。
 が、霊団の中でもインペレーターと名のる中心的指導霊の悠揚迫らぬ威厳に満ちた雰囲気に圧倒されて、ついにキリスト教のドグマを棄てて、スピリチュアリズムの説を受け入れるに至っている。
 同じくキリスト教の牧師が入手した自動書記通信に『ベールの彼方の生活』The Life Beyond the Veil(全四巻・潮文社)がある。これは、ジョージ・オーエンという牧師がインスピレーション的に受け取ったものを綴ったもので、第一巻が母親、第二巻が守護霊、第三、四巻が守護霊とほぼ同じ霊格をそなえた高級霊からの通信である。
 それをオーエンは25年の歳月をかけて納得がいくまで検証した上で新聞紙上に連載しはじめた。すると案の定キリスト教会の長老から「撤回せよ」との通達を受けた。が、確信に満ちていたオーエンはそれを拒否した。が、執拗に撤回を迫られたオーエンは、みずから牧師職を辞して、スピリチュアリズムの普及に余生を捧げている。
 全四巻の中で圧巻は第四巻で、スピリチュアリズムの名のもとに説かれている霊的思想は、その淵源をさかのぼると、ほかならぬイエス・キリストに行き着くという、実にスケールの大きい、しかも途方もなく次元の高い話が展開する。それによると、そもそもイエスなる人物は地球の政庁である神界の高級霊つまり大天使の一柱で、旧約聖書に出てくるメルキゼデクに始まった高級霊による地上降誕の系譜の最後を飾る人物として、誕生したのだという。このことは先ほどの『霊訓』のインペレーター霊をはじめとする高等な霊界通信の通信霊が異口同音に述べていることである。
 そのイエスは、バイブルにある通りの刑死を遂げる。が、本来の所属界に戻ったイエスは、人類の霊的救済のための地球規模の計画を立てて、霊界の大軍勢を引き連れて地球圏へ向かう。霊界の上層界から中層界、そして下層界へと下降して行く時の叙述は圧巻で、これを読むだけでイエス・キリストと呼ばれている人物の見方が一変するであろう。
 かくして、ついに地球圏へたどり着いた霊団がまず最初に手掛けたのが、ほかでもない、ハイズビル村における騒霊現象だった。似たような霊現象なら歴史上いくらでもあった。目を見張るような現象を起こしてみせた霊能者も少なくなかった。にもかかわらず、そのほとんどが、いつしか忘れ去られていった。その中にあって、なぜハイズビル現象だけがあれほど大きな波紋を呼んで、世界的規模のスピリチュアリズム運動となって発展していったのか――それは、その背後に地球規模の計画があったからである。
 オーエンの霊界通信は「主」とか「キリスト」といった文字がゴシック体(英文では大文字)で何度も出てくるので、キリスト教に馴染みの薄い方には取っつき難い感じを与えるかも知れないが、それを地球神界の神霊の一柱と置き替えて理解すればよいわけである。
 このほかにも、チャールズ・トウィーデールやモーリス・エリオットなど、奥さんが霊的能力をもっていたことがきっかけでスピリチュアリズムを全面的に受け入れていったキリスト教牧師がいるが、ここでは割愛する。
 
 
 
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