古代霊は語る
シルバー・バーチ霊訓より
近藤千雄・訳編 潮文社 
第1章 シルバー・バーチの使命

 バーバネル氏が霊媒として選ばれた経過

 こう見てきますと、シルバー・バーチを中心とする霊団がロンドンの小さなアパートの一室におけるささやかなホームサークルを通じて平易な真理を半世紀以上にもわたって語り続けてきたことは、スピリチュアリズムの流れの中にあっても特筆大書に価することと言ってよいでしょう。
 しかし霊団にとっては、それまでの準備が大変だったようです。シルバー・バーチは語ります。

 もうずいぶん前の話ですが、物質界に戻って霊的真理の普及に一役買ってくれないかとの懇請を受けました。このためには霊媒と、心霊知識をもつ人のグループを揃えなくてはならないことも知らされました。私は霊界にある記録簿を調べ上げて適当な人物を霊媒として選びました。それは、その人物がまだ母体に宿る前の話です。私はその母体に宿る日を注意深く待ちました。そして、いよいよ宿った瞬間から準備にとりかかりました。

 この中に出てくる「霊界の記録簿」というのは意味深長です。
 神は木の葉一枚が落ちるのも見落さないというのですから、われわれ人間の言動は細大漏らさず宇宙のビデオテープにでも収められているのでしょうが、シルバー・バーチの場合は、霊媒のバーバネル氏が生まれる前から調べ上げてその受胎の日を待った、というのですから、話の次元が違います。続けてこう語ります。

 私はこの人間のスピリットと、かわいらしい精神の形成に関与しました。誕生後も日常生活のあらゆる面を細かく観察し、霊的に一体となる練習をし、物の考え方や身体上のクセをのみ込むよう努めました。要するに私はこの霊媒をスピリットと精神と肉体の三面から徹底的に研究したわけです。

 参考までにここに出た心霊用語を簡単に説明しておきましょう。スピリットというのは大我から分れた小我、つまり、神の分霊です。それ自体は完全無欠です。それが肉体と接触融合すると、そこに生命現象が発生し“精神”が生まれます。私たちが普段意識しているのはこの精神で、ふつう“心”といっているものです。これには個性があります。肉体のもつ体質(大きいものでは男女の差)、それに遺伝とか自分自身及び先祖代々の因縁等が複雑に混じり合っていて、それが人生に色とりどりの人間模様を織りなしていくわけです。

 シルバー・バーチは続けてこう語ります。

 肝心の目的は心霊知識の理解へ向けて指導することでした。まず私は地上の宗教を数多く勉強させました。そして最終的にはそのいずれにも反発させ、いわゆる無神論者にさせました。それはそれなりに本人の精神的成長にとって意味があったのです。これで霊媒となるべきひと通りの準備が整いました。ある日私は周到な準備のもとに初めての交霊会へ出席させ、続いて二度目の時には、用意しておいた手順に従って入神させ、その口を借りて初めて地上の人に語りかけました。いかにもぎこちなく、内容も下らないものでしたが、私にとっては実に意義深い体験だったのです。その後は回を追うごとにコントロールがうまくなり、ごらんの通りの状態になりました。今ではこの霊媒の潜在意識を完全に支配し、私の考えを百パーセント述べることが出来ます。

 その初めての交霊会の時、議論ずきの18歳のバーバネル氏は半分ヤジ馬根性で出席したと言います。そして何人かの霊能者が代わるがわる入神してインディアンだのアフリカ人だの中国人だのと名告る霊がしゃべるのを聞いて「アホらしい」といった調子でそれを一笑に付しました。そのとき「あなたもそのうち同じようなことをするようになりますヨ」と言われたそうです。
 それが二回目の交霊会で早くも現実となりました。バーバネル氏は交霊会の途中で“ついうっかり”寝込んでしまい、目覚めてから「まことに申し分けない」とその失礼を詫びました。すると列席者からこんなことを言われました。
 「寝ておられる間、あなたはインディアンになってましたヨ。名前も名告ってましたが、その方はあなたが生まれる前からあなたを選んで、これまでずっと指導してこられたそうです。そのうちスピリチュアリズムについて講演をするようになるとも言ってましたヨ」
 これを聞いてバーバネル氏はまたも一笑に付しましたが、こんどはどこか心の奥にひっかかるものがありました。
 その後の交霊会においても氏は必ず入神させられ、はじめの頃ぎこちなかった英語も次第に流暢になっていきました。その後半世紀以上も続く二人の仕事はこうして始まったのです。
 
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