日本国民に告ぐ
誇りなき国家は、滅亡する
小室直樹・著 ワック出版 
第1章 誇りなき国家は滅亡する

 蔓延する反日史観が実証的結論さえ封殺する

 ところで、肝心の実証的検証のほうはどうか。
 ついに最終的結論とも言うべき論文が発表された。藤岡前掲論文と、秦郁彦千葉大学教授(現在、現代史家)の「慰安婦『身の上話』を徹底検証する」(『諸君!』平成8年12月号)である。秦・藤岡両教授は、関係資料をすべて渉猟した後、決定的な最終結論に達した。ここにそのエッセンスを要約しておきたい。いずれも容易に入手できる論文なので、資料の検討・当否および詳細の議論については、これら両論文参照。筆者は正しいと思う者であるが、異議があれば反論されたい。
 秦教授は、必要な資料をすべて検討した後、結論を明記して言う。
「かれこれ総合してみると、朝鮮半島においては日本の官憲による慰安婦の強制連行的調達はなかったと断定してよいと思う」(秦前掲論文)
 明快このうえない断定ではないか。秦教授は右の断定を下すために必要な資料をすべて吟味したが、特に、慰安婦の強制連行に関して、
「筆者(注・秦教授)が注目するのは、親族、友人、近所の人などの目撃者や関係者の裏付け証言がまったく取れていないことである」(同上)
 本当に強制連行があったとすれば、こんなことはありえようはずがない。これだけでも強制連行はなかったことの充分な証明だと思われるのであるが、秦教授は、念には念を入れ、裏には裏を取って、「日本の官憲による強制連行はなかった」という決定的結論に達したのであった。
 では、なぜ、(日本の官憲による)強制連行はなかったことが実証的に証明されたにもかかわらず、「強制連行はあった」ということが日本社会に定着し、反対できない空気が蔓延してしまったのか。
 反日史観が次から次へと新しく製造され、拡大再生産されるからである。この過程は、骨がらみの螺旋過程となり、典型的な悪循環過程となっている。
 右の連鎖過程の重大さ、いくら繰り返しても繰り返しすぎることはない。
 反日史観を基礎として、反日的日本人が反日的言辞を弄して、ことを起こす。そうすると右の過程を経て政府が平謝りに謝る。これを聞いて日本人は、「ああ、やっぱり日本は悪かったのだな。過去にたいへんひどいことをしたのだ」と念が押されることになり、さらに反日史観が強められることになる。
 この強められた反日史観を利用すれば、反日的日本人は、さらに過激な反日的言辞を弄して、ことが起こしやすくなる。右の過程が拡大され、また繰り返される。同様にして反日史観は、さらに強められる。
 この連鎖過程は、反日史観から出発して、さらに強められた反日史観が結論となる。恐ろしい悪循環過程である。これが拡大再生産されつつ、不断に進行してゆく。このようにして、反日史観は、ますます広く、ますます深く、ますます過激になって、全日本へ瀰漫(びまん=はびこる)してゆくことになる。
 
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