日本国民に告ぐ
誇りなき国家は、滅亡する
小室直樹・著 ワック出版 
第5章 日本国民に告ぐ

 捏造された『真相』

 GHQによるわが国の近代デモクラシーの破壊は、検閲に留まらなかった。日本人洗脳計画に基づき、新聞、雑誌、ラジオ、映画と次々と言論統制を実施していった。
 昭和20年12月8日、すべての全国紙がいっせいに「太平洋戦争史」の連載を開始した。12月8日付の朝日新聞は「奪う侵略の基地」、読売新聞は「南京の大悪逆暴行沙汰」との見出しで「太平洋戦争史」を大々的に報じた。これらの記事は「連合軍総司令部(GHQ)の記述せる」ものだった(詳しくは前掲『検証・戦後教育』参照)。
 ラジオでは、昭和20年12月9日から『真相はこうだ』という番組が10週間にわたって放送された。この番組は「日本国民に対し、戦争への段階と、戦争中に起こった真相を伝える。日本を破壊と敗北に導いた軍国主義者のリーダーの犯罪と責任を日本の聴取者の心に刻ませる」(GHQ民間情報教育局)ことが目的だった。
 昭和21年1月20日の放送は、次のような内容だった(前掲書より引用)。

アナウンサー「われわれ日本国民は、われわれに対して犯された罪を知っている」
声「われわれは、罪を犯した軍国主義者たちが誰かを知っている」
複数の声「誰だ、誰だ、誰がやったんだ」
アナウンサー「まあ待ってください。これから30分の間に名前をお教えします(以下略)」


 この番組のシナリオはGHQが書いた。しかし聴取者の多くはNHKの番組だと信じていた。『真相はこうだ』は連合出版から刊行された。新聞に連載された『太平洋戦争史』も出版され、10万部のベストセラーとなった。
 活字だけではない。『犯罪者は誰か』(大映)、『民衆の敵』(東宝)、『戦争と平和』(東宝)などの長編映画が次々と上映され、少なくとも1500万人の涙と怒りを誘った。怒りの対象は、もちろん「鬼畜米英」ではない。日本を戦争に駆り立てたとされた「軍閥」、「財閥」、そして「軍国主義者」たちである。
 日本人洗脳計画のクライマックスは、東京裁判。かくて、連合国対日本国の戦いであった「大東亜戦争」は、侵略と虐殺の歴史となり、国民が軍閥と財閥によって戦争へと引きずり込まれた「太平洋戦争」へと見事に変身を遂げたのである(なお、この章で紹介した占領政策に関する記述については前掲『検証・戦後教育』に負うところが大きい。
 
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