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第1章 火山灰 | ||
火山灰の被害――人体 火山灰が人体にはどのような影響を与えるのかは気になるところだろう。 ガラスからなる火山灰は、そのものに化学的毒性はないものの、人体には有害である。火山灰は顕微鏡で観察すると、角が刃物のように鋭くとがったものがある。これによって気管や肺が傷つけられ、さまざまな病気を引き起こすのだ。 地面に火山灰が5ミリメートルも積もると、喘息や気管支炎をわずらっている人は咳きこみだす。2センチメートル積もると、ほとんどの人に症状が出る。1977年の有珠山噴火の直後には、火山灰が降った地域の半数近くの住民がのどや目の痛み、鼻づまりの症状を起こしたという。同様に、1986年に起きた伊豆大島の噴火後にも、のどの痛みを訴えたり咳きこむ子どもが増え、1991〜1994年の雲仙普賢岳でも火山灰が降ったあとに喘息発作の患者が増えたと報告されている。これに加えて、気管支がせばまり呼吸がしにくくなる症状も多く発生した。 これを裏づけるように、江戸時代の富士山宝永噴火のあと、喘息や風邪が増えたという記録がある。先の新井白石はこう書いている。 二十五日にまた空か暗くなって、雷の鳴るような音がし、夜になると、灰がまたひどく降った。「この日、富士山が噴火して、焼けたためだ」ということが伝わった。その後、黒い灰の降ることがやまず、十二月のはじめ、九日の夜になって雪が降った。このころ、世間の人で咳になやまされない人はなかった。(前掲「折りたく柴の記」) 細かい粒子が肺に入ってから炎症を起こす例としては、先に述べた珪肺(けいはい)のほかに、塵肺の被害が古くから知られている。石炭鉱山の坑夫やトンネル工事の作業員が罹患することが多いが、火山灰を長期間、肺に吸い込むと、石炭の細かい粉を吸い込んだときと同じように肺の機能が低下する恐れがある。このため、火山灰が舞っている野外に出るときには、防塵マスクを着用する必要がある。 しかし、細かい粒子はマスクを通過してしまう場合も多い。したがって、火山灰が舞っているときは戸外に長くとどまらず、できるだけ室内へ入るよう勧める医師もいる。マスクがないときの応急措置としては、水で濡らしたタオルやハンカチを口に当てて、火山灰の吸引を防ぐ方法がある。 また、火山廣が肌に付くと、べたべたして取れにくい。手や顔はサラサラになるし、髪や背中にも細かい火山灰が入り込んでくる。服に付着しても、なかなか取れず厄介だ。 私は野外に出て火山灰をたくさん含む地層を調査するときに、同じことを経験する。1時間くらい仕事をしていると、背中も頭もザラザラしてきて風呂に入りたくてたまらなくなるのだ。富士山が噴火すると、関車中でこのような状況になるのである。 ガラス質の細かい破片からできている火山灰が目に入ると、痛くて目を開けていられなくなる。痛いだけでなく、角膜の表面を傷つける。したがって火山灰が舞っているときに外出する際は、スキーのゴーグルのような防塵眼鏡をつけたほうがよい。のどを守ることも大切だから、さらにマスクも必需品となる。 靴は歩きやすい運動靴を履き、手には軍手をはめてはめてほしい。2004年9月1日の浅間山の噴火では、火山灰が北麓で2〜3ミリメートル積もった。たったこれだけの火山灰でも、小学生や中学生はしばらくマスクをつけて登校しなければならなかった。 戸外から帰ったら、衣服に付いた火山灰をよく払い落としてから家の中に入り、火山灰を体内に入れないため、うがいをしたり目を洗ったりすることも大切である。 火山灰は家の隙間からも簡単に中に入ってくる。戸外で火山灰が舞ってきたら、窓や戸を閉め切るだけでなく、台所やエアコンの換気口などもテープなどで目張りをすることが重要である。 |
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