富士山噴火と南海トラフ
海をゆさぶる陸のマグマ
鎌田浩毅・著 講談社 
第1章 火山灰

 火山灰の被害――家屋

 火山灰が屋根に厚く積もると、その重さで屋根が押し潰される。また、道路に降った火山灰は下水道に入って排水管を詰まらせる。田畑に植えた作物の上に積もると、葉を枯らしてしまう。このように、火山灰は日常生活に直結する家屋・下水・畑・牧場などに大きな被害をもたらす。まず家屋から、その影響をみていこう。
 雪も火山灰も、屋根に降り積もることには変わりない。しかし火山灰は雪と違って、暖められても溶けて消えることがない。これが火山灰の被害をさらに大きくする原因となっている。降灰が止んだら、ただちに屋根に積もった火山灰を下ろさなければならない。
 加えて、雪と異なり、地面に落とした火山灰はモウモウと舞いあがる。水で洗い流そうとしても、なかなか流れていかない。火山灰は水と一緒になると互いにくっついてしまうからだ。だから火山灰を排水溝に洗い流すと、すぐに詰まってしまう。濡れても乾いても始末に負えないのが火山灰なのである。
 したがって火山灰は、シャベルですくって袋に詰めて、ほかの場所へ持っていくしか処理する方法がない。よって噴火の規模が大きいと、灰の処分が大問題となる。1955年以来、桜島では毎日のように火山灰が降っている。大量の火山灰が降ったとき、人々はそのつど土嚢に入れて対処してきた。火山灰の処理は力仕事なのである。
 また、雨が降るとさらに危険な状況が生まれる。濡れた火山灰は屋根にこびりつく。すると水を含んで重くなり、そのすべての重量が屋根にかかるのである。火山灰が屋根の上に1センチメートル降り積もったとすると、1平方メートルあたりの重さは10キログラムほどになる。さらに雨で濡れた火山灰では、1平方メートルあたりの重さが20キログラム程度になるという計算がある。このため、雨が降ったあとにしばしば家屋が潰れている。これらは実験でも確かめられている。
 フィリピン・ピナトゥボ火山の1991年6月15日の噴火では、このパターンの災害が起きた。噴火の当日に台風が襲ってきたため、大量の雨が降ったからだ。風下では、火口から40キ
ロメートルルを超える地域にまで、厚さ10センチメートル以上の火山灰が降り積もった。つまり、それだけで1平方メートルあたり100キログラムもの重さが屋根に加わったことになる。
 さらに、降り積もった火山灰は水を含んで重量を増した。このために、おびただしい数の家屋が被害を受けた。火山灰の重みだけなら耐えられた屋根も、雨が降って水の重さが加わることで潰れたのである。とくに避難所となった建物が倒壊したことで、多数の犠牲者が出た。これらの災害による死者は総計700人以上にのぼった。
 このように、屋根に積もった火山灰は非常に危険である。また、倒壊せず一見無傷に見える場合でも、建物がゆがんでいれば同様に危険なため、厄介である。
 しかも、噴火のあとは強い上昇気流が発生するため、火山の上に立ち昇った雲から大量に雨が降ることが多い。ピナトゥボ火山の場合のように噴火の当日に台風がこなくても、大雨になるのだ。火山灰と降雨の複合災害が起きる確率はきわめて高い。
 富士山では宝永噴火と同じ量の火山灰が降った場合の被害予測がなされているが、これによると、50センチメートル積もると木造家屋の半数は倒壊するという。
 
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