「白人スタンダード」という
新たなる侵略
清水馨八郎・著 祥伝社 

 白人文明の危機を象徴した狂牛病

 アングロサクソン族を中心とする西洋白人は、僅々二、三〇〇年の間に軍事力をもって全地球の大部分を制覇し、植民地化してしまった。
 白人による力の一方的支配に唯一抵抗し反撃したのは、非白人の中で日本民族だけであった。最近白人らは、力による支配の時代が終わったとみるや、今度は金融、経済、思想、衣食住といった白人基準の文化文明をグローバル・スタンダードだと決めつけて、世界を支配しようとする戦略に転換してきた。
 白人文明とは、極北極寒の地から発した、肉食必然、弱肉強食の荒々しい闘争文明である。これを普遍の原理として世界中に押しつけられたら、他の文明圏の人々はたまらない。この人間中心、自然征服の物質科学文明を進めていけば、地球環境は悪化し、人類は地域紛争、宗教闘争に明け暮れ、あと数世紀も生きられなくなるだろう。
 人類を不幸にし、破滅に導く西洋文明を文明と呼んでよいのだろうか。これは文明の反対で、“野蛮”と言わざるをえない。
 白人の過去の暴力支配と、人類を不幸に導く現在の白人基準の西洋文明を「白禍」と決めつけ、これを徹底追究することは、これからの論壇の重要な課題の一つと考える。
 ここではまず、ここ一、二年に問題になった「狂牛病」を通して、誰も気がついていない西洋文明の矛盾と危機を論じてみようと思う。その中で読者は、はっきりと白禍文明の脅威を痛感することができるからである。
 平成8年(1996年)の春頃から英国に発生した狂牛病のニュースが、しきりに日本のマスコミに載るようになった。ところがこのニュースは、遠い異国の家畜の一時的な伝染病として、日本の政府も言論界もほとんど問題にしなかった。私はかねてから白人文明の世界化に危機を感じて、牛肉文明のグローバル化は、人類の将来に不幸をもたらすものだとして、各方面に警鐘を鳴らしていたが、日本では他人事のように扱われて、ほとんど問題にされなかった。
 ところが平成13年(2001年)9月になって、千葉県において一頭の牛から狂牛病が発見され、たちまち大問題になってきた。だが、その対応についてはその場限りの論評が多く、この問題の背後にある人類全体の文明論的危機を訴えたものがなかった。そこで、狂牛病は人類の食文化の誤りを警告する重大な内容を含んでいることを、ここに論じてみることにした。
 西洋人は昔から牛肉を主食として、ミルクやバター、チーズと、酪農品を食生活の中心に置く体制なので、彼らにとって狂牛病は、暮らしの根幹を脅かす大問題なのである。しかもこの汚染された牛肉を食べると、人はヤコブ病(クロイツフェルトヤコブ病)という脳が冒される奇病になって死亡する。すでに英国では、100人以上が犠牲になっている。この伝染病は感染力がきわめて高く、動物から動物へ、動物から人へ、人から人へと伝染する可能性があるらしく、ヨーロッパではこの問題でパニック状態になった。
 焼却処分以外に防ぎようがないので、英国ではすでに230万頭の牛が処理され、新たにダイオキシン問題が発生している。伝染力が強いので、当局では牛や人の移動に神経をとがらしている。空港での入国の際に、旅客の靴を消毒液に浸すテープフィートと呼ばれる防疫体制をとっているほどだ。
 この問題は、一農業の問題だけでなく、欧州連合(EU)の政治問題の中心課題にもなってきた。とくに発生源の英国では、ブレア首相が総選挙の予定を2カ月遅らせねばならないほどの緊急事態になっていた。
 
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