「白人スタンダード」という
新たなる侵略
清水馨八郎・著 祥伝社 

 牛肉食が、なぜ地球環境を破壊するのか

 なぜ、この事件が西洋文明の先進国の英国から始まったのであろうか。それには西洋文明の発生と繁栄と、その反対の矛盾と限界を解き明かしていかなければならない。
 西洋文明で注目すべき恐怖の伝染病事件は、14世紀に欧州を襲った黒死病(ペスト)である。伝染力の強いペストは、たちまち全ヨーロッパに蔓延し、当時の欧州人の三分の一が死亡するほどの恐ろしい死病であった。当時は肉食が原因だとされ、その肉のクサミを消し、ペストの予防に効くという胡椒、肉桂などの香辛料(スパイス)が絶対必要とされるようになった。この貴重な薬草を求めて、東南アジアのモルッカ島をけじめとする香料の島々を目指しだのが、白人の大航海時代が始まる契機となったともいわれている。目下の狂牛病や口蹄疫の伝染力は、牛肉食のヨーロッパ人に過去のペストの恐怖を連想させるに十分であった。
 元来ヒト族は、神の創造により肉体的にも生理的にも、草食動物としてこの世に生まれた。自然界の動物は、それぞれの体質に最も合った食物を神から与えられている。これを「食性」と言う。だから人が肉を主食とすることは明らかに食性違反である。
 ところがヨーロッパ人は、北緯60度前後の極北を故地とするノルマン人(北方の人)で、寒冷と乏しい植生の風土から、肉を主食とせざるをえない宿命にあった。
 肉は栄養価も高く美味で、豊かさや富の象徴になっていった。この肉食文明がヨーロッパだけに留まっていれば問題はなかったが、白人は15世紀以降、世界中を植民地化し、森林を切り拓いて牧場に変え、安い牛肉を商品として世界中に販売するようになった。そして牛肉は文明食の象徴と錯覚した世界中の草食民族の中に、急激に普及しはじめていった。
 人は豊かになれば、ますます肉食に傾いてゆく。このため世界の森林は伐採され、牧場化し、現在地球表面の四分の一は牛の牧場に変貌している。これが地球環境を悪化させ、生態系に異変を起こし、「成人病」という形で人類そのものの健康に重大な影響を及ぼすようになった。これこそ白人発の文明が現代人類に与える害毒、つまり「白禍」の一つである。
 目下の日本は、この白人文明の謀略に最も強く乗せられている国なのである。白人たちは日本人よ、鯨を食うのは野蛮だ、代わりに牛肉を食えと、よってたかって日本に強制してきている。各民族の食習慣は、最も基本の文化であり、それを互いに尊重しあうことは人類の掟であり、他国がそれについて文句を言うなどということは、あってはならないことである。
 ところが戦後の日本は、白人の手に乗せられて、急激に肉食文化に移行しつつある。私たちがハンバーガーやビフテキ一つ食べるたびに、熱帯雨林の木が一本ずつ減っていることに、気がついていない。最近東京のハンバーガーの売れ行きは、ニューヨークを超えたと言われる。肉の過食が近年の日本人の生活習慣病の元凶になっていることは確かで、国民の健康に重大な影響を及ぼしはじめている。
 ここにおいて、狂牛病を西洋の一角に偶然発生した家畜の地方病と軽視することなく、人類の食文化の在り方、西洋文明の危機と限界といった大局的な視点から、文明論的に考察する必要を痛感するものである。
 
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