ペットが死ぬとき
誰も教えなかった別れの意味
シルビア・バーバネル 著 近藤千雄 訳・編
ハート出版
 

 9章 勳物たちは人間の愛を忘れない

 フローレンス・キングストーン女史は動物好きであると同時に、すぐれた霊媒でもありました。いつしか“動物交霊会”とでもいうべき会が定期的に開かれるようになり、愛する動物たちを失った人々が大ぜい集まるようになりました。
 ある日の交霊会で出席者の中の一人の婦人のまわりに、たくさんの、しかもいろんな種類の動物の霊が見えるので、キングストーン女史が「何かわけがあるのですか?」と尋ねると、「私は獣医なんです」という答えで、なるほどと納得がいったそうです。その獣医さんに病気やケガを治してもらったことに対する無意識の感謝の気持ちが、動物たちをそこへ自然に連れてきたのです。
 その獣医さんが、多分その中に自分が今も気がかりなのが一頭いるはずであることを述べると、すかさずキングストーン女史はそれが犬であることを指摘してから、その犬は猟場管理人が過って撃ち殺したのでしょうと述べると、まさにその通りだとの返事だったそうです。
 別の日の動物交霊会で、キングストーン女史の霊眼に2匹のダックスフントが見えました。そして、その2匹といっしょに大きな枝編みカゴが見え、防水加工した布のカバーがついています。女史が
「たぶん犬のねぐらだと思います。こんなのは初めて見ます」
と言うと、そのダックスフントを飼っていた女性がこう答えた。
「私には心当たりがあります。私が自分でこしらえた一風変わったバスケットで、それでその2匹を南アフリカへ3度も連れて行ったのですよ」

 さて、猫とか犬のペットは珍しくありませんが、牛のペットというのはあまり聞かれない話ではないでしょうか。ところが、こんな話があるのです。
 オーストラリア人のエリザベス・シルマンさんの農家では、何年もターキーという名の牛を可愛がっていました。仕事をさせるとさっぱりダメなのですが、では肉牛にしてしまおうかと言うと、子供たちが大反対をするのです。
 大人しい牛で、子供たちは寝そべっているターキーの背中や腹に乗って、好き放題のことをするのですが、ターキーは怒りもせず、嫌な顔もせず、それを楽しんでいるかのように、じっとしているのでした。
 近所の農家にスポットという名の犬が飼われていましたが、この犬もシルマンさんの家族と遊ぶのが大好きで、ある時、その農家が55マイルも離れた場所へ引っ越した時、スポットはシルマンさんの家族が恋しくて、真夏の太陽のもとを歩いて帰ってきたそうです。シルマンさんの家族が玄関の上がり段のところにスポットを見つけた時、足を痛め、お腹をすかして、身動き一つできない状態だったそうです。
 ところがシルマンさんの家族も都合でイギリスへ移住することになりました。ターキーを連れて行くわけにはいきません。といって、仕事用に引き取ってくれる農家はどこにもありません。そこで、やむを得ない処置として、安楽死(薬殺)の専門家にあずけ、スポットは飼い主のところへ連れて行きました。
 それから1年後のことです。シルマン夫人はある土地の教会での公開交霊会に出席しました。初めての土地で、出席者に顔見知りは1人もいません。まして、夫人の名前を知っている人はいません。
 ところが壇上の霊視能力者はシルマン夫人を指名して、そばに大きな牛がいて、こういう特徴とクセがありますと述べたのです。それはまさしくターキーでした。そしてさらに黒の斑点のある白い犬がいて、夫人の注意を引こうとしていることを告げたのです。
 シルマン夫人はそれまでに飼った犬を思い出してみましたが、そういう犬は飼ったことがないので、正直にそう言いました。実はそれはスポットだったのです。その後オーストラリアからの便りで、スポットが車にひかれて死亡したとの知らせが入りました。死亡した日と、霊視能力者が“白い犬”を霊視した日とが、ぴたりと一致しておりました。
 スポットはオーストラリアで55マイルも歩いて死にそうになりながらも、シルマンさんの家までやってきたのですが、今度は霊界から大好きなシルマン夫人のところへ挨拶に訪ねたのでした。飼い主であるかどうかは、動物にとってはどうでもよいことなのです。愛が通い合う人のところへ来たがるものなのです。

 最後に紹介するのは、老夫婦と老犬の心温まる話です。
 W・ボールドウィン夫妻は黒と灰色の混じった、かなり年のいった犬を飼っておりました。名前をダンディといい、メイドのアニーと大の仲良しでした。毎晩9時になるとダンディは居間の自分の席を立って台所へ行き、アニーから夕食をもらうのが日課でした。
 が、頭のいいダンディはアニーの“休日”を知っていて、その日は自分で台所から自分の皿をくわえてボールドウィン夫妻のところへ持って行き、今日はお二人が給仕してくれる番ですよ、と言わんばかりに差し出すのでした。
 そのうちボールドウィン氏が体調を崩し、医師のすすめでロンドンを離れて空気のきれいな場所へ移転することになりました。ところが、時を同じくして、ダンディも急速に視力が落ちて、盲目同然になってしまいました。
 移転先へ連れて行くわけにもいかず、置き去りにするわけにもいかず、獣医のすすめる“薬殺”にしぶしぶ同意しました。といって、それまで我が子のように可愛がっていたものを簡単に片付ける気にはなれません。夫婦は一日、また一日と延ばしておりました。
 そんなある日の午後、メイドのアニーがダンディを散歩に連れて行ってやり、帰ってからいつものバスケットに入れてやり、ボールドウィン夫妻にも「いい子でしたよ」と、ひとこと告げました。
 その夜のことです。ダンディは寝る前に軽く散歩する習慣なのですが、ボールドウィン氏がいつものようにバスケットの近くへ行って名前を呼んでも、出てきません。おかしいと思ってバスケットの中をのぞいてみると、ダンディはすでに冷たくなっておりました。薬ではなく自然が、ダンディを霊界へ連れて行ってくれたのです。
 その翌晩のことです。霊媒のハロルド・シャープ氏が訪ねてきました。シャープ氏とダンディは大の仲良しでしたので、ボールドウィン夫妻はダンディの死をすぐには告げかねておりました。ところが、3人が居間で談笑していた時――それはまさに9時ごろでした――ドアが勢いよく開いたかと思うと、ダンディがいつもの皿をくわえて入ってきました。シャープ氏は大きな声で
「ハロー、ダンディ!」
と叫びました。その様子はまさに生きたダンディに呼びかけているようで、事実、シャープ氏はいつものダンディとばかり思っていたそうです。
 
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