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15章 人間――この身勝手な動物 考えてみると、人間ほど矛盾に満ちた行為をしている生きものは他にいないのではないでしょうか。神の化身かと思うほど気高い行為をする人がいるかと思えば、悪の権化のように悪逆非道を平気でする人間がいます。 クリスマスはイエス・キリストの生誕を祝う日です。その日に、あるいはそのイブにご馳走をいただくのは良いとして、七面鳥をそのために飼育し絞めて食卓に上るというのは、一体だれの許可を得てやっているのでしょうか。あの日一日だけで世界中で果たして何百万羽が殺されていることでしょう。その事実をイエス・キリストが喜ばれるはずはないと思うのですが…… また、自分の愛している動物たちがちょっと傷ついても大騒ぎをして獣医さんのところへ駈け込むのに、動物実験でメスを入れられ、やがて殺されていく同じ種類の動物へは一片の同情も憐れみも憤慨も覚えない人がいます。そういう人はきっとこう弁解するでしょう。 「ひどいことであることは私も認めます。でも、結局は人類の福祉のために行なわれているわけでしょう? 他の手段では成就し得なかった素晴らしい発見がたくさんなされています。それによってどれだけ人類の苦痛が軽減されたことでしょう」 しかし、この理屈がいかに根拠のないものであるかは、この人には考えの及ばないことでしょう。リンダフ・ハーガビー女史が会長をつとめる動物保護協会のような、動物の立場に立った考えから行動している組織団体に足を運んでみられるとよろしい。そんな弁解がただの人間の身勝手にすぎないことを思い知らせるような資料が豊富に集められています。 前章で紹介したシルバーバーチの霊言の中にも、病気には必ずそれにもっとも適切な治療法が用意されている――がそれは、動物に苦痛を与えるやり方からは絶対に生まれない、といった意味のことが述べられています。 道徳的に間違っていることが科学の世界で正当化されるということは、絶対に有り得ないのです。 人間がこうした身勝手な理屈をでっち上げる原因はいろいろと考えられますが、最大の原因と思われるのは、物的身体という、存在として最も次元の低い媒体に包まれて、その波動から脱け出るのが容易でないということではないでしょうか。 ですから、いわゆる「死」という過程をへて物的身体から解放されると、感覚が鋭敏となり理解力が深まって、地上時代の行為の間違いが強烈に意識されるようになります。 そこから良心の呵責(かしゃく)が始まり、魂の煩悶に苦しむことになります。それがいわゆる「地獄」なのです。 「サイキック・ニューズ」紙に掲載された記事に、かつて地上で動物の生体解剖ばかりをやっていた人物が交霊会に出現して、その間違いを切々と訴えた話かありました。その霊はこう訴えました。 「動物実験という悪には、どうか、今後とも全力をあげて闘いを挑んで下さい。これは人類の進化を遅らせている最も強力な悪の勢力の一つだからです」 自分の行為には自分が責任をもつという原則は、死後の生命の存続という事実があって初めて生きてきます。つまり、私たちはどうあがいたところで、地上時代の行為の結果からは逃れることはできないということになるからです。地上で送った人生が、そのまま死後の生活の基盤となるのです。 リンダフ・ハーガビー女史を初めとする動物保護協会のメンバーは、多くの国の「と場」を訪ねてまわり、動物にも魂があって死後も生き続けるという事実を説いて、その事実の認識に基づいた「と畜」の有り方に一考を求めるという努力をしています。その努力は少しずつ報われて、改善が見られるということです。 こうした人たちの努力を見ていると、多分この人たちが地上を去って霊界入りした時には、無数の物言わぬ生命の集団の出迎えを受けることだろうと想像しています。その目には「ありがとう」の気持ちがにじみ出ていることでしょう。 では、交霊会での興味深い現象を二例紹介しておきましょう。いろいろと考えさせてくれるものを秘めているように思えます。 一つはオズボーン・レナード女史が霊媒となって行なった交霊会での話で、「サイキック・ニューズ」紙上に載ったものです。 ある寒い夜の交霊会で、レナード女史はひざの上に毛皮のコートを掛けて無意識状態に入りました。女史がいちばん大切にしている上等の毛皮だったそうです。 ところが、会が終って意識が戻ってみると、ひざの上の毛皮が見当たりません。調べてみると、その毛皮がズタズタに引き裂かれて、部屋の隅へ放り投げられているのです。出席者に何かあったのかと尋ねると、支配霊のフィーダが憑依するや否や、出席者への挨拶もそこそこに、ひざの上のコートをしきりに見つめ、やがて嫌悪と狼狽に満ちた叫び声を上げて 「オズボーンが死んだ動物の下敷になってる!」 と言ったかと思うと、狂ったようにその毛皮を引き裂いて放り投げたというのです。 レナード女史は最後にこう述べています。 「フィーダによくもあんな力が出せたものだと思うのですが、私はその後、毛皮というものがどんな過程でこしらえられるのかを調べてみました。そして、身の毛もよだつ残酷な場面を想像して、もう二度と毛皮は買わないことにしました」(※@) ※@――現在(1992年)英国の総ての有名デパート(ハロッズを始めとして)からは、毛皮コーナーが姿を消している。動物保護協会の運動が見事に実を結んだと言える――訳者。 もう一つは、地上で「と畜」を職業としていた男が、死後「地縛霊」となってさ迷っているうちに地上のある人物に無意識のうちに憑依して、その人物を精神病者にしてしまいました(※A)。その霊がニューヨークのエドワード・ランドール氏による「招霊会」(※B)によって見事に目覚めて、精神病者とされていた人まで正常に復したという話で、これも「サイキック・ニューズ」紙に掲載されたものです。 ※A――地縛霊というのは大体において肉体を失ったことに気づかず、地上にいるつもりで生前の居場所や行きつけの場所をうろついている霊のことで、そのうち波動の合った人間のオーラにひっかかる。表面的にゴミやホコリがひっつく程度のことなら日常茶飯によくあることで、そのうち離れて行ってしまうが、両者に霊的な因果関係(因縁)がある場合や、霊の方に悪意がある場合には憑依の程度が深まって、当人の意識の中枢、とくに言語中枢にまで入っていき、霊の考えや語ったことが脳に反響するようになる。つまり一つの意識中枢で二つの意識が無秩序に働くので、支離滅裂なことを言うようになる――訳者。 ※B――そうした憑依霊を患者から引き離して霊媒に乗り移らせ、その霊の置かれている状況を悟らせるように指導する会のことを招霊会という。 これと同じことを米国の精神科医のカール・ウィックランド博士が30年以上も実験・研究して、その成果を、Thirty Years Among the Deadという書物にまとめている。招霊会は意外に頻繁に行なわれているが、その記録となると非常に少なく、ここに出ているランドール氏によるものも記録としては残されていない――訳者。 さて、ランドール氏が司会をする招霊会で、かつて「と畜」を仕事としていた人間の霊が霊媒に憑(かか)ってきました。その時点ではランドール氏には何の予備知識もありません。いかなる素性の霊であるかは分からないのです。 ランドール これまであなたが置かれていた状況を教えてください。 霊 動物の目と鳴き叫ぶ声に取り囲まれていました。そのほかには何も……あたり一面が目なのです。何千、何万もの目に見つめられ続けて……その恐ろしい状況を想像してみてください! ランドール 多分それはあなたが「と畜」した動物の目ではないでしょうか。 霊 そうです。私は30年間、精肉包装工場で働いておりました。 ランドール 1頭を殺すたびに、あなたはその目を見ていたのではないですか。 霊 ええ、見ましたとも。今もそのままが見えます。 ランドール 殺すたびにあなたが見たその動物の目が、あなたの潜在意識に焼きついていたのです。鳴き声が聞こえるとおっしやいましたが、原因は何だと思いますか。 霊 私が殺した動物の悲鳴です。羊、牛、豚…… ランドール その動物たちの悲鳴があなたの潜在意識に焼きついていたのです。その絵巻物が、肉体がなくなった今、あなたの目の前に広げられているのです。あなたの行為に反省を求めているのです。あなたに聞こえるのは、その哀れな動物たちが目前に迫った自分の最期を直感して泣き叫んでいる、その声です。 霊 それだけではありません。私のいる場所にひっきりなしに血がしたたり落ちているのです。どんなことでもしますから、どうかこの状態から私を救い出してください! そこでランドール氏は霊的摂理について、こんこんと諭しました。霊の方も神妙に聞き入っているうちに、霊的波動に変化が生じてきました。 ランドール さ、もう大丈夫です。新しい生活に入れます。そして、これまでの過ちの埋め合わせができます。あなたの心掛け一つで…… 霊 人間と同じように動物にも死後の生命があるのでしょうか? ランドール ありますとも! 霊 どこにいるのでしょう? 何とかしてやりたいのです――とくに子羊のことが気掛かりで…… ランドール 必ずしも動物界での仕事をしなければならないとは限らないでしょう。 霊 もう二度とあんな目に遭うのはご免こうむります。キリスト教でいう地獄へ落ちた方がまだまだましなくらいです。私と同じ仕事に携わっている人たちが気の毒でなりません。そういう人たちがこちらへ他界してきた時に、助けになってあげなければと思ってます。 ランドール それが、これからのあなたの使命かも知れませんよ。頑張ってくださいね。 支配霊が語ったところによると、その霊の償いの仕事は、やはり動物界での仕事ではなく、まったく別の仕事になるとのことだったそうです。 |
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