輪廻転生
驚くべき現代の神話
J・L・ホイットソン/J・フィッシャー・著
片桐すみ子・訳 人文書院
 
第5章 輪廻転生思想の展開
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 退行催眠による前世療法のはじまりまで

 われわれはみなこの世に還ってくる
 それが確かだからこそ人生には意味がある
           グスタフ・マーラー


 堤防のない川やめざめのない眠りがないように、生れ変わりや中間世のない人生も考えられない。バルドの本質からして、あの世での体験は、この世の生活と表裏一体でなければならない。したがって、生をうけて肉体に宿り、死ねば生と生のはざまの非物質界の意識へと戻る、生れ変わりのくりかえしが必要である。
 何度も違う肉体に宿ってこの世に戻ってこなくてはならないとする説は、神話や伝説、宗教上の教え、そして科学的な研究によっても十分裏づけられている。しかし、いくら証拠や説明をならべても、信じない人々のお気には召さないだろう。生れ変わりを受けいれることと、私たちの真の霊性がどのようなものかを探求することとは、切っても切りはなせない関係にある。ところが現代社会では、こういった自己の探求を助長してくれるものに乏しい。教条主義に毒された西洋文明によって人類の霊的な要素は無視され、軽蔑の目でみられさえしてきた。十九世紀後半、まさに革命的であったチャールズ・ダーウィンの『種の起源』も、遠大な人類の進化をほんのわずかに暗示したにすぎなかった。ダーウィンは単に肉体的な進化について語ったのみだった。ダーウィンは、意識の多様な変化を経ながら人生から人生へと人間を彷徨させる、霊的な発展というさらに大きく複雑なテーマには触れないままだった。
 ヘンリー・デイヴィッド・ソローは輪廻転生を「人間の天性」と表現したが、物質主義のはびこる世の中では、この天性はいつも幼い芽を摘みとられてしまう。それにもかかわらず1982年のギャラップ社の世論調査では、全アメリカ人の23パーセントが生れ変わりを信じており(なお、第一章で述べたように死後の生命を信じる人は67パーセントである)、それより3年まえのロンドンのサンデー・テレグラフ紙の世論調査では、イギリス国民の28パーセントが生れ変わりを信じていると報告されている。この数字は十年間で10パーセントの伸びを示している。イギリスで売られていたブリキのバッジには、「輪廻転生思想ただ今転生中」としゃれた文句が書いてあったが、こんな風潮はべつに急進的というわけではない。これまでもプラトンからイエス・キリストにいたる宗教界や哲学界の聖人賢者たちが生れ変わりを信奉してきており、歴史をひもとけば人類の思想や行動の歴史のうえでも、輪廻転生思想はひときわ目立った存在なのだ。
 
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