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第5章 輪廻転生思想の展開 B |
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1920年代も半ばをすぎたころ、アメリカの大予言者エドガー・ケイシーの業績によって、輪廻転生の考え方は少数ながら意識の高い人々に支持されるようになった。ケイシーは熱心な長老派の新教徒で、はじめは生れ変わりを否定していた。ところが1923年8月10日に自己催眠のトランスからさめたとき、人間はいろいろな体に宿って生まれ変わる、と催眠中に自分の口から明言したことを聞かされたのである。最初は自分の無意識の機能が悪魔に濫用されたのではないかと恐れをなした彼も、じきにカルマのパターンは何千年にもおよぶひとりひとりの歴史に織りこまれている、という自分自身の証言をうけいれた。ケイシーは輪廻はイエス・キリストの教えに反するものではないことを次第に理解していった。それから21年間、彼は2,500件の「ライフ・リーディング」を行なって多くの人々の過去世を透視しつづけた。現在かかっている病気や弱点の原因は、さかのぼれば過去に行なった行為のため、あるいはすべき行為をしなかったためである、ということをケイシーは多数つきとめた。このため彼は遺伝形質という従来の概念を否定するにいたったのである。 「私は父方か母方か、どちらからの遺伝的性質を多く受け継いでいるのでしょう」とある人がたずねたところ、ケイシーは語気荒くこう答えた。 「自分自身から受け継ぐものがほとんどで、家族からではない! 家族は魂が流れる川にすぎない。」 エドガー・ケイシーが登場したのは、霊性が息吹をとりもどして微動し、世界がさざめきたちはじめた時代だった。何世紀もたがいに離反しあっていた科学と神秘主義は、心と身体、物質と精神とが相互に依存しあうことがわかってくるにつれ、ようやく歩み寄りはじめた。アインシュタインの相対性理論は、ニュートンの古典物理学では時間・空間・運動の本質を理解しえないことを明らかにした。そのあとにでてきたいわゆる「ニューサイエンス」では、原子より小さい素粒子がたえず死と再生をくりかえすIすなわち素粒子間の相互作用は、もとの素粒子の崩壊とあたらしい素粒子の生成によってなりたっていることが発見されている。換言すれば、ミクロの世界での「生れ変わり」が、物質界のすべての根底をなしているのだ。宇宙物理学者が、宇宙そのものは永遠に死と再生をくりかえしているといっているように、マクロの世界でも同じ法則がはたらいているとみられている。 4本の手をもつヒンドゥー教の創造と破壊の神、シヴァ神が古代から象徴してきたのは、この森羅万象を包含する死と再生の姿である。また、古代中国でいわれてきた宇宙の根本原理「道」においても、やはり死と再生は必然的なものとされ、タオのたえまない流転のサイクルこそ、まさに生命の推移の本質を象徴するものとなっている。 物理学者たちが宇宙の脈動性電波の調査研究を進めているころ、退行催眠の研究をはじめた人々は人間の無意識領域という霧にかすんだ辺境地帯の探険をつづけていた。先駆者ド・ロシャ大佐の後継者として有名なのは、スウェーデンのヨーン・ビョルクヘムと、イギリス大でヨーロッパの九 つの大学の学位をもつアレグザンダー・キャノンのふたりである。ふたりは膨大な量の前世のデータを収集した。キャノン博士は、1,382人の志願者を紀元前何千年のはるか昔に退行させたが、彼は単にその証言をやむをえず受け入れたにすぎなかった。1950年に、キャノン博士は『内なる力』でこう書いている。 何年ものあいだ、輪廻説は私にとって悪夢であり、それに反駁しようとできるかぎりのことをした。トランス状態で語られる光景はたわごとではないかと、被験者たちと議論さえした。あれから年月を経たが、どの被験者も信じていることがまちまちなのにもかかわらず、つぎからつぎへと私に同じような話をするのである。現在までに一千件をはるかにこえる事例を調査してきて、私は輪廻の存在を認めざるをえなかった。 キャノン博士は、精神分析家ジクムント・フロイトの業績よりも「輪廻の考え方のほうがよっぽど進んでいる」と主張しつづけ、コンプレックスや恐れの起源を、もっぱら幼児体験だけではなく、さらに前世の精神的外傷体験にまでさかのぼって調査した。 ホイットン博士のケースワークは彼の遺産のうえに築かれている。キャノン博士は1970年代から1980年代にかけて何百人、何千人もの人々を治療してきた前世療法の先駆者であった。前世療法を行なう場合、施術者には高度の忍耐力や直感力、技術的手腕が要求される。時代や場所や身体を異にした体験の中から症状の原因をつきとめるため、一連の前世を探るのに多大な時間はかかるかも知れない。だが、いったん無意識の心から症状の原因となる情報を取り去ってしまえば、心身の病は多くの場合、急速かつ劇的に治ってしまうのだ。治る理由やメカニズムについては、はっきりわかっていないが、永年心の中にとじこめられてきた否定性と対決してこれを受け入れてやる行為が、錬金術的な解放作用をひき起こすようにみえる。前世療法の恩恵を受けた人々は、トラックの運転手から映画スターにまでおよぶ。彼らは自分たちが催眠下で出会った人物が自分自身なのだ、と直感的に悟る。トランス状態によって前世の身体に入りこんだ場合はもちろんだが、遠くから姿かたちの変わった自分を見ただけでもそれが自分だとわかる。前世療法家はほとんどみな、被験者が自分たちの前世を再体験していることを確信している。 |
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