輪廻転生
驚くべき現代の神話
J・L・ホイットソン/J・フィッシャー・著
片桐すみ子・訳 人文書院
 
第5章 輪廻転生思想の展開
C

 「もし生れ変わりがあるなら、どうして私たちは前世のことを覚えていないのですか」とよく質問されることがある。インドの偉大な哲学者であり非暴力主義の主唱者、マハトマ・ガンジーはこれを、宇宙のプロセスに対する、ある種の慈悲のせいだとしてこう答えている。

 我々が過去世をおぼえていないのは自然の慈悲なのです。そのようにおそろしい記憶という重荷を背負ったなら、人生は負担になることでしょう。

 しかし催眠の助けをかりたり、瞑想を実践し練習をかされて「忘却の川」を突破して記憶をとりもどし、「はるかかなたの記憶」を呼び覚ますことは可能である。輪廻反対説のうちよく問題にされるものに、前世の記憶の源は実は遺伝的要因ではないだろうか、という主張がある。遺伝情報は遺伝子の本体であるDNA分子にコード化されているが、肉体上の類似性や体質的な強弱、さまざまな素質などだけでなく、ことによると誕生以前の記憶までそなわっているのではなかろうか、というのだ。退行催眠で得られた証拠によってこの主張はすぐに否定された。トランス状態で白人が黒人奴隷だったと語ったり、多くの被験者が両親と同時代に生きていたことを語ったりしたのだ。どのケースでもDNAには一回の人生の記憶すら満足にコード化されていないわけで、ましてや何回もの人生が記憶されているはずはない。
 証拠を検討してみてわかったことは、成長するためには転生をくりかえす必要があるということ、転生をくりかえすことで私たちは経験から学ぶことができ、また学ぶことによって自分たちの持つ大きな可能性を知ることができる、ということだった。単に一回かぎりの人生で学び終えることなど決してありえない。生と死の研究では世界屈指の研究家、エリザベス・キューブラー・ロス博士は、一回の人生だけで運命を全うするのは「事実上不可能」であると書いている。またカリフォルニア州の前世療法家、モーリス・ネザートン博士は、「自然は一千万年かかってグランドキャニオンをつくりあげたのに、人間の魂が70年や80年で形成されるとは信じられない」と述べている。
 ホイットン博士のケーススタディーを読めば、私たちがたえず中間世とこの世とに交互に転生をくり返し、内なる自己の成長をめざして努力を続けていることがわかるはずだ。個人の体験にかわるべきものは何もない。ゆえに、必要に応じていろいろな身体をえらんで転生していくことによってしか、私たちは多岐にわたるものの見方を学ぶことができないのである。
 この世には、病気、犯罪、富裕、名声、飢え、幻滅などさまざまな人生があるが、こうした多くの人生によって知識を広め、賢さや知恵や同情心やもろもろのことを身につけていくことができる。これらは私たちを、この世への転生という牽引力を超越した、高められた状態に到達できるよう準備させてくれる。魂の完成にいたるまでには、「長い歳月」のひとことでは言い尽せないほどの、永劫の時間が必要である。転生をくりかえすことによってたえず人生の場面を転換し、新しいものを吸収しつづけていかなくては、そんな長旅には耐えられまい。現世の生活は困難なだけでなく、近視眼的でもある――人間は身体という枠にはめられ、環境の変化にも乏しい暮らしをしているから、それがために生じる欲望や不完全さを超えたところに一体何があるのか、ほとんど知ることができない。とはいえ、私たちは死んだその時点から肉体の束縛をはなれて、つぎの転生にそなえて休み、検討し、さらに深く学んでいくために、もっと遠くまで見とおせる視力をふたたび取り戻す。そして来るべき人生での目標が決まれば、そこでの行為がつぎの運命を定めるきびしい試練の待ちうける地上へと、もう一度転生していくのである。
 
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