を鍛える本
人生に勇気、心に力がみなぎる
櫻木健古・著 三笠書房 
第1章 人生を逆転する鍵

 安楽な人生ばかりを求めるな

  一生は旅の山路と思うべし
     平地はすこし峠たくさん


 人生は旅である、とはよく言われることですが、さてその人生の道は山路であるという。平坦な道はすこししかなく、峠がいたるところにある。ひとつ峠をこえてヤレヤレと思ったら、すぐつぎの峠が待っている。始終のように峠をこえなくてはならない。だから、生きることは楽なことではないゾ、そういう覚悟で人生に臨め、と教えているわけです。
 山道は、上りがつらく下りは楽というのが常識ですが、マラソンなどでグロッキーになりかかっているときには、下りのほうがかえって苦しいものです。足がよろめくのでころびそうになる。それを支えるのに苦労するのです。
 要するに道というものは、平らなそれがいちばん歩きやすい。安楽である。ところが人生にそういう道は少ない。安楽な人生を求めたら、峠ばかり出てきて苦しむことになるでしょう。
 同じ山道でも、健脚の人とそうでない人とでは、困難の度がちがう。同じことが、人生の道についても言えましょう。
 同じ困難でも、心の強い人と弱い人とでは、感じかたがまったくちがう。心の強い人には、こんな歌など必要ないのでしょう。心の弱い人を対象にした歌と考えられます。
 困難過敏症と言ってよいような人がいます。ちょっとしたこと、ふつうの人にとっては何でもないようなことを、ひどく困難に感じてしまう。心がすぐにへたばる。幼少期に甘やかされたり、だいじにされすぎて育った人に多いようです。
 私などもその一人というべく、ずいぶん努力して、かなり克服したつもりですけど、いまだにその傾向をまぬがれていません。恥ずかしいことだと思います。
 こういう心の弱い人は、安楽を求めたがる性向をかなぐり捨てて、「一生は山道ばかりなんだ」と、さいしょから覚悟をきめてしまえ。そういう覚悟が定まっていれば、困難に出あうたびに心がへたばることもないだろう。そのような“心定め”をこの歌は求めているわけで、私などの心にはドシンと響きます。

  どうしても楽にはおいてくれぬ娑婆
     ひとつ去ったらまたひと苦労


 この歌は、そういう生きづらい人生に恨みを言っているのではなく、「人生とはそういうものなんだ」と肯定し、勇んでこれに立ちむかうべきことを、言外に語っているのだと思われます。表題の歌と同じように、「楽に生きようと思うな」と、心定めを求めているわけです。
 なるべくならば、未成年のうちにこの心定めを固めてしまいたい。そのためには、親や学校の先生たちによる精神教育がぜひとも必要、ということになります。
 
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