日本人の誇り
日本人の覚醒と奮起を期待したい 
藤原正彦・著 文春新書
 

 「罪意識扶植計画」とは何か

 実はアメリカが日本に与えた致命傷は、新憲法でも皇室典範でも教育基本法でも神道指令でもありません。
 占領後間もなく実施した、新聞、雑誌、放送、映画などに対する厳しい言論統制でした。終戦のずっと前から練りに練っていたウォー・ギルト・インフォーメーション・プログラム(WGIP=戦争についての罪の意識を日本人に植えつける宣伝計画)に基づいたものでした。この「罪意識扶植計画」は、自由と民主主義の旗手を自任するアメリカが、戦争責任の一切を日本とりわけ軍部にかぶせるため、日本人の言論の自由を封殺するという挙に出たのです。これについては江藤淳氏の名著『閉された言語空間』(文春文庫)に余す所なく記されています。
 この「罪意識扶植計画」は、日本の歴史を否定することで日本人の魂の空洞化をも企図したものでした。ぽっかりと空いたその空地に罪意識を詰めこもうとしたのです。そのためにまず、日本対アメリカの総力戦であった戦争を、邪悪な軍国主義者と罪のない国民との対立にすり替えました。3百万の国民が米軍により殺戮され、日本中の都市が廃墟とされ、現在の窮乏生活がもたらされたのは、軍人や軍国主義者が悪かったのであり米軍の責任ではない。なかんずく、世界史に永遠に残る戦争犯罪、すなわち2発の原爆投下による2千万市民の無差別大量虐殺を、アメリカは日本の軍国主義者の責任に転嫁することで、自らは免罪符を得ようとしたのです。
 人道を掲げるアメリカにとって、人類初の、人類唯一の、原爆投下は申し開きのできない悪夢中の悪夢なのです。この2発で、アメリカはあのヒットラー、スターリン、毛沢東という冷酷な殺人鬼と同列に置かれるからです。日本軍は真珠湾攻撃でも軍事目標以外のものをいっさい標的としませんでした。アングロサクソンが日本の立場にあったなら必らずアメリカへの復讐を誓うでしょうから、日本の復讐を恐れ、徹底的に言論を封殺し、軍部や軍国主義者を憎悪の対象に据えた、という側面もあるでしょう。
 1999年末、アメリカのAP通信社は、世界の報道機関71社にアンケートを求め、20世紀の10大ニュースを選びました。5位がベルリンの壁崩壊、四位が米宇宙飛行士による月面歩行、3位がドイツのポーランド侵攻、2位がロシア革命、そして何と第1位になったのが広島・長崎への原爆投下でした。これだけの非人道的行為を、息も絶え絶えの日本に行なったのです。
 
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